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『幸福の探求』

2010-10-27 | 仏教
『 幸福の探求 

                        マチウ・リカール  

                           竹中ブラウン・厚子 訳 

 

 分子生物学者でありチベット仏教僧である著者。いかにも、論文って感じです。読んでいくうちにおもしろくなりますよ。内面的な「幸福」を求めている方にはおすすめです。きっと賢者の生き方に喜びを感じることでしょう。 

 

  深刻な肉体的、感情的苦痛を感じると、その苦痛の経験が心を虜にしてしまう。体が麻痺しそうな激痛を経験するとき、痛みの色や形その他に不変の特徴があるか、じっくりと考えてみるといい。苦痛だけに焦点を合わせると、それまでのピントがぼやけ始め、最終的には、苦しみの後ろ側が見えるようになる。そして、痛みや喜びの向こう側には、純粋無垢で不変の意識が存在していることに気づくだろう。このレベルに到達したら、心をゆったりとリラックスさせ、その意識の中に苦痛を休ませることができるようになる。そうなると、苦痛に消極的に服従する、惨めな犠牲者として存在することの無益さに目覚め、心が痛みで荒廃するのを拒否または保留することができる。

~中略~

ダライ・ラマの主治医であるテンジン・チャドラクは、中国政府による1959年の侵略の後に、100人ほどの同胞と共にチベット北東部の強制労働収容所に送られた。この収容所を生きて出られたのは彼を含むわずか5人だけだった。20年間、各地の収容所をたらい回しにされたが、その間、自分も飢えか拷問で死ぬだろうと覚悟していたという。同医師を診察した外傷後ストレス障害専門の精神科医は驚愕した。チャドラクには、心的外傷の兆候が見られなかったのである。恨みや怒りは微塵も感じられず、穏やかで親切心に溢れ、不安や悪夢といった通常の心的外傷患者の抱える問題がまったく示されていなかった。チャドラクは、「確かに拷問者に対して嫌悪を感じたことは時たまあった。だが、平安と思いやりの心を保つための冥福訓練を日課としていた」と述懐している。生き延びる希望をつなぎとめ、最終的に彼を救ったのは、こうした訓練に他ならない。

 


もう一つ、チベットの王女で尼僧、そして反乱軍の戦士という激しい生涯を送った、アニ・パチェンの例を紹介しよう。21年間の投獄生活を終え、ほっとしたのも束の間、またもや9カ月間独房に閉じ込められたのだった。そこは、鳥のさえずりだけが昼夜を告げる暗黒の世界だった。だが、バチェンは強調する。「幸福という言葉のもつ一般的ニュアンスの状態だったとは決して思わないが、スカの本質的側面を見失うことはなかった。心の内側を見つめ、瞑想の習慣を忘れず、精神的指導者の教えを繰り返し繰り返し思い起こした。そして、因果の法則と世の無常を熟慮し、憎しみ、貪欲、思いやりの欠如がもたらす破壊的な結果をはっきりと意識し続けた」。

 

次は、ヒマラヤを控えたブータン国のブムタン地方で20年間過ごした、生まれつき四肢のない男性の話である。40年前にチベット難民の仲間に担がれながらチベットからこの村外れのちっぽけな竹の小屋に移り住んできた。以来そこに住みつき、一度も外出したことはなく、床に敷かれたマットからもほとんど移動したことがない。彼が生存できたこと自体が驚異という他ないが、それにもまして、喜びに満ち溢れた表情には、いつも感動させられる。穏やかで素朴で優しい雰囲気はまったく変わることがなかった。友人仲間が、食料、毛布、ポータブルラジオなどを持参すると、「どうぞ構わないでください。欲しいものなどありませんから」と笑顔で告げられるのだった。
その小屋には、水や食事を携えた老若男女が、村のゴシップを土産に訪ねてくるのがお決まりだった。村人たちは、彼と一緒に過ごす時間が自分に有益だ、と考えているのである。彼の助言はいつでも役に立った。村に問題が起こると、その解決法を求めて彼を訪ねるのだった。

 

筆者の精神的指導者、ディンゴ・キェンツェ・リンポチェもその村を通過するときは必ず彼を訪問した。この障害者が師に祝福を依頼するのが常だった。しかし師は、他の村人に比べれば、祝福を必要とする問題が何もないことを熟知していた。障害者は、心の奥に幸福を発見し、何ものもそれを奪うことができないのである。

 

スカとは・・・・・ジョージ・ベルナノス[20世紀前半フランスのカトリック作家]はこう述べている。「まるで、嵐の真っ只中にあっても、静まり返っている巨大な湖の底のように、何ものもそれを変えることができない」。安らかで心地よいこうした状態にある幸福感をサンスクリット語で「スカ(安楽)」という。

 

    紅葉のピークもそろそろかな~  

                    

         

           最後までお読みくださって ありがとう 

              つながっているすべての人に ありがとう 

                                                  



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