蒸気鉄道日記

5インチゲージ・ライブスチーム活動の日々を書き連ねます。

改札のお話(5)

2011年03月09日 | Weblog
 またまた間が開いてしまいましたが、改札のお話その5をお送りします。今回はもはや過去のものとなった「不正乗車」との闘いについてお話しいたしましょう。
 集札業務を行なっていると、いろいろな非正規の切符が登場します。運賃が足りないというのがもっとも多く、この場合は不足分を払ってもらって終わりですが、中には「不正乗車」もかなりありました。

 いわゆる不正乗車といってすぐに思いつくのが「キセル」といわれたものです。これは区間の連続しない二種類の乗車券を使用して連続しない区間分の運賃を「ほ脱(支払わないこと)」するものです。つまり端と端しかお金を払っていないのでキセル(吸い口と火皿だけが金物の意)に例えられたのでした。

 では実際にはどのように行なわれたかといいますと、わたしの勤務していた駅でもっともポピュラーだったのが回数券と定期券の併用というものでした。駅周辺の予備校に通う高校生がその主役です。つまりふだん高校へ通う定期券と予備校のある駅からの最短区間の回数券で「キセル」するというものです。
 これがなぜバレるかといいますと、入場時に改札した券片を翌日の出場時に出すという方法をとったからでした。つまり鋏痕でバレてしまうのですね。普通に使用していれば発駅の鋏が入っているはずのものだからです。自駅の鋏痕の入った回数券を出された場合、いちおうその人を呼び止めてどこで乗ったかを聞きます。そのとき隣の駅等の申告があった場合は明らかに事実と異なるわけですから、何か別の手段で入場したことになり、定期券等をもっていないか聞きます。そこですなおに定期券を出して、回数券と区間が連続していれば、「二回使っちゃダメだよ」とひとこと言ってもう一枚回数券を切り取っておしまいにします。

 しかし、ここでごねたり提示した定期券等と区間が連続していなかった場合は不正乗車として摘発しなければなりません。「キセル」だった場合は定期券と回数券は証拠物件として回収のうえ全区間の運賃と反則金(全区間の二倍)計三倍の金額を請求します。いざ請求されて青くなる生徒もたくさんいました。女の子などは泣き出してしまうこともよくありました。
 この処理例は正規の取り扱いの場合で、本人が深く反省していたりする場合は臨機応変に「人情裁き」しました。

 悪質な例としてはサラリーマンが二種類の最短区間の定期券を併用していた例がありました。これは鉄道公安職員が内偵して摘発したものです。常磐線のかなり遠方からの人で、この場合は定期券購入の日から摘発された日までの日数分の全区間の往復運賃の三倍を請求されます。この例では200万円ほどの金額になってしまいました。

 単純な例では定期券の区間外使用、記名人外使用、期限切れの乗車券(拾ったものなど)の使用等がありました。これらは怪しいそぶりをしていますのですぐに分かってしまいました。定期券の期限切れというのもありましたが、これはほとんどの場合ウッカリしていた、というもので、この場合は片道の運賃を収受しておしまいにしました。

 不正がバレてしまった瞬間に脱兎のごとく逃げ出す者もいました。これはかなり悪質である要素が高いので、ラッチから飛び出してつかまえますが、鉄道用地の外では権限が及びません。あるとき、用地外へ逃げた不正乗車の乗客を交番の警察官が取り抑えたことがありました。このときは本人が証拠の回数券全部を飲み込んでしまうという行為に出たため、最寄の警察署へ連行されてしまいました。かなり厳しい取調べを受けたとのことでした。

 一方、防ぎきれない不正というものもありました。これは定期券と区間の連続しない乗車券とで行なう片道のキセル行為です。こればかりはどうしようもありませんでした。

 これらの不正乗車を摘発した場合は報奨金が局から支給されました(一件50円ぐらいでした)。職場ではこれを貯めておいてお茶を買ったりしていました。いかに多く摘発されていたか分かりますね。
 このような光景も自動改札機と磁気式乗車券等の普及ですっかり昔話となってしまいました。

 さて、改札のお話は今回でいちおう終わりとさせていただきます。次回からはちょっと趣を変えまして、その他の勤務について思い出すままにお話ししようと思います。

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