ひまわりの種

毎日の診療や暮しの中で感じたことを、思いつくまま書いていきます。
不定期更新、ご容赦下さい。

おねえちゃんになった

2013年04月02日 | 日々のつぶやき
赤ちゃんの時から診ている2歳半の女の子がいる。
その子はうちで産まれて、わたしが毎月健診にいっている保育園に通っている。
だから、ほんとに産まれた時からのお付き合いだ。

だけど、いつもいつも、外来診察の時も、保育園の健診の時も、必ず泣かれる。
病院とか白衣が怖くてしかたないみたいなのだ。

2歳を過ぎた頃からは、保育園の先生や外来に連れてくるパパやママが、
だいじょうぶだよ、痛いことなんかしないよ、と優しく言い聞かせてくれて、
その子も目に涙をためながら一生懸命泣くのをこらえるみたいなんだけど、
やっぱりいつも泣いてしまってた。

1ヶ月ほど前に、その子に弟が産まれた。
その子によく似た、色白で目がぱっちりのイケメン赤ちゃんだ。
お父さんもお母さんも、その子の赤ちゃん返りを心配していた。

でも、大丈夫。こんなことで心がゆがんだりしないから。
今はいっぱい泣いてもいいんです。

そんなお話をして、弟の1ヶ月健診が無事終わった。

それからしばらくしたある日。
赤ちゃんのお世話で忙しいママに替わって、パパと一緒に外来に来た。

あれ?
なんかいつもとちがうぞ?

そうだ! ゆきちゃん(仮名)、泣いてないじゃん!
いつもは診察室に入ってくる前に、名前を呼ばれるとすぐに泣いてたゆきちゃん。
その日は、普通にお父さんに抱っこされて、診察の時も泣かなかった。

まわりの看護師たちも、わたしも、拍手喝采。
やったねゆきちゃん! 今日は泣かないでできたねぇ!
パパも嬉しそうだった。
赤ちゃん返り心配してましたけど、案外大丈夫だったみたいですねぇ。
やっぱりおねえちゃんになると、だんだんオトナになってくるんですねぇ。
なんて会話をお父さんとしてたら、その子がぽつりと得意そうに言った。

 「おねえちゃんになった

またまたみんなびっくりして、そこでまたまた拍手喝采した。
そうだねぇ、ゆきちゃん、おねえちゃんになったんだよねぇ!

 「がんばった

またその子が言った。こんどはきっぱりと。
そうだねぇ、ゆきちゃん、今日はがんばったねぇ!
ここでまた拍手喝采。

でもね、ゆきちゃん。
あなたはまだ2歳半だから、泣きたい時は我慢しなくてもいいんだよ。
心の中でそう語りかけながら、ハイタッチをしてさよならした。

だけど、多分、その子はもう、訳もなく泣くことはもうあまりないと思う。

若い駆けだしの頃には実感としてわからなかったのだけど、
どんなに泣き叫ぶお子さんでも、ある日、ぴたっと泣かなくなる日が来るんだ。
ほんとに不思議なんだけど、ぴたっと泣かなくなる。

いや、小児の精神発達という学問的に捉えるなら、それは当たり前のこともいえる。
大人のようにまだ複雑に分化されない感情を、泣くことで身体全体で表現する時期は必要で、
この時期を経て、漠然とした感情が細分化され、自分で状況を把握して納得できるようになる。
でも、その時期にそれを受け入れてもらえずに、無理に感情を抑え込まれてしまうことは、
大きくなってから何らかの弊害が出ることだって、あるかもしれないと感じている。
だから、赤ちゃんのうちに思い切り泣くことは、成長する上でも大切なことだと思っている。

もう中学生ぐらいになったお子さんに、笑い話で赤ちゃんの頃のことを話すことがある。
キミが小さい時はねぇ、いっつも泣かれて、外来の玄関先からもう泣き声が聞こえてきて、
あ、○○くんが来た、って、泣き声でわかったようなもんだったんだよ。
それがこんなに大きくなるんだもんねぇ・・・。(しみじみ・・・)
その子は照れくさそうに笑う。お母さんも笑う。

 おとうさん、おかあさん、今、お子さんがハンパなく大泣きしたって、
 ノー・プロブレム! です。
 泣いたぶんだけ、その子はひとつずつたくましくなるのだと思うのです。

大人だってそうじゃないかな、と思う。
歌にもあるじゃない。
「涙の数だけ強くなれるよ♪」って。(古いけど・・・。知ってる人いるかな、この歌)

2012年度の冬は、新しい年度の春とタッチ交替して、今背中を向けて去りつつある。
また次に季節に巡り会うまで、サヨナラだ。
(でも、「冬」さん、てば、まだその辺で道草くってるみたいだけどね・・・。笑)

生きていればいろいろな紆余曲折があって、だから楽しいんだよ、人生。

そういうことを、毎日出会うお子さん達から教えていただけるわたしは、幸せ者だ。

う~ん、もしわたしが何十億の大金持ちだったら・・・、
妄想はいろいろ際限なく膨らむのだけれど、
やっぱり、ここで、毎日お子さん達と会うことはやめられないかな。




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41 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ゆきちゃん・えらかったねえ・・・ (なおみ)
2013-04-03 10:13:02
>「おねえちゃんになった」
>「がんばった」

涙が出てきました。
うんとがんばったんだねえ(にっこり)。

二歳半で泣かなくなるなんてすごい!

私は病院が嫌いで嫌いで・・・

「つ」ばなれする歳くらいまで
「お医者さんに行くよ」と言われると
涙が出てきてたかも・・・。

不思議なことに同じくらいの時期から
風邪を引かなくなり
(それまでは月イチ位で高熱を出してました)

こんなに大きくなりました。


ゆきちゃんはきっと
もっと大きくなれると思います!
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Unknown (kakkou)
2013-04-11 01:07:31
この歳になると「子供が泣いている」ことも理解できるんですよね、、(私、先生よりちょっとだけ上)
だけど新米のお母さんの頃はわからなかった、、 家の子も随分泣きました。
ひまわり先生が側にいて下さるお母さん方は幸せですね。

「涙の数だけ強くなれるよ♪」って。(古いけど・・・。知ってる人いるかな、この歌)
もちろん知ってます! 私もこの歌のこと、色々な場面で話しました。
受験に失敗した子、友達と離れ離れになった子、、 
いくら頭が良くても苦労を何もしないで育った子は弱々しいです。
若い頃は、いっぱい泣いた方が宜しい。本当にそう思います。
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kakkkou姉さん! (なおみ)
2013-04-11 15:32:04
>「涙の数だけ強くなれるよ♪」

その歌が流行った頃
卒業式で・謝恩会でよく歌われました。

お母さん方が巣立つ子ども達に送る歌として
合唱された時
私はまだ独身だったので
お母さん方の涙の意味が実感できていなかったかも。

我が子が泣くと
自分が子どもの頃言われて
一番嫌だった言葉をつい・・・

「どうして泣くの!」←鬼の形相・・・

今は赤ちゃんの泣き声なんか
虫の音みたいにかわいらしく聞こえます♪

あの頃の私みたいに困ってるお母さん方に
「今が一番いい時ね」と余裕をかましたくなる
(きっと嫌がられる)。

大きくなると子どもは
哀しい気持ちを隠してしまって
私の前では泣かなくなり

えーんえーんて泣いてくれた方が
よっぽどラクなのに・・・
なんて思ったりして

生きてる間中
ないものねだりです。

>若い頃は、いっぱい泣いた方が宜しい。

承知しました(まだ若いつもり)!
返信する
涙の数だけ強くなれる涙の意味、、 (kakkou)
2013-04-12 14:49:31
なおみさん♪

>お母さん方の涙の意味が実感できていなかったかも。

この歌の涙、、辛い涙だとばかり思っていました、、が、
なおみさんの上記の言葉から、感動の涙もあるんだ、、と思いました。
たくさんの感動と辛いことを乗り越えた人は本当に強いです。
震災などは別として、今の若者は辛い体験が少ないからね、、
昔、父が夫のことを「まだまだ甘い」等と言った時、ちょっとムカッときたけど、確かに戦後の人間は甘いかも、、

福島にいる息子は今、会社が大変な時なので午前に帰宅、そしてまた朝出かけるという生活をしています。 何とか耐えられるのは、昔アトピーで家に篭った生活などをしていたからかな~。 苦労は悪いことばかりではない気がしますね。 ちょっと話がそれてすみませんでした。
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Unknown (許せない!)
2013-04-12 20:43:32
子供からの信頼を裏切るな!

あるテレビ番組で福島県内のどこかの給食センターでご飯のなかの放射性セシウム量を測定して確認してから福島産のコメを使ったご飯を学校給食に出しているという取り組みをみた。学校給食センターで食べ物の中の放射性セシウム量(1kg当たりのベクレル量)を測定する測定器を用意しているところがあった(番組内で映っていた米は福島産の米でも測定限界の約8ベクレル/kg以下だった)。

福島の子供は安全デマでは戻ってこないぞ。被曝を下げる最大の努力をすることが子供からの信頼にこたえることの一つに入るのではないのか?

私は地元新潟産のコメですら信用していない。秋田産の「あきたこまち」はかなり信用している。公的機関のデータを鵜呑みにするのは危険だ。安全デマはアメリカでもロシアでもイギリスでもあった。日本でも安全デマはあるのはある意味当然だろう。それを信用しないのも当然の話である。
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ヨコですが (IKA)
2013-04-13 20:26:51
>許せない!さん
ええと、前半の給食センターのお話、福島ではいかなる努力がされているか、よくわかりますね。多くのかたの「安心」のためにみんな頑張っています。

>福島の子供は安全デマでは戻ってこないぞ。

なんかシュプレヒコールみたいですが…。「安全デマ」と言いますが、どの辺がそう見えるのかご指摘ください。
ってか、このエントリ、全然関係ないんですが…。

「福島の子供はもう危険デマでは簡単に移住しないぞ。」

>被 曝を下げる最大の努力をすることが子供からの 信頼にこたえることの一つに入るのではないの か?

被曝を「下げる」努力は必要ですし、既に行われていますよ。
最近、早野先生、坪倉先生、宮崎先生の論文がニュースになりましたが、あれはその「下げる」努力の結果です。

>私は地元新潟産のコメですら信用していない。秋田産の「あきたこまち」はかな り信用している。

ああ、新潟の方ですか。べつに「何を信用するか、しないか」は個人の自由だし、あなたがあきたこまちを召し上がるのは「単に好きだから」という意味とさほど変わらないと思います。応援する気はないですが頑張ってください。

>公的機関のデータを鵜呑みにするのは危険だ。

ええと、「じゃあ何処のデータを参考にしているか」がわからないのでなんとも言えませんが、例えば「個人のブログ」や「個人の発信するSNS」などは公的機関以上に信用できるとも思いませんし、「思い込み」や「捏造」も公的機関以上に心配ですね。
結局何処のデータも信用できないことになりますから、ご自身で線量計や検査機器を買い揃えられて、それらを充分使いこなせるようになるまで勉強されればいいと思いますよ。
あ、もしそうされるなら充分勉強されるまで検査結果の発表はしないでください。無責任な行為ですから。

>安全デマはアメ リカでもロシアでもイギリスでもあった。

ええと、アメリカとイギリス(スリーマイル島とセラフィールドかな?)の安全デマの例はよくわかりませんが、ロシアというとチェルノブイリですかね。
チェルノブイリの場合、「安全デマ」どころか「危険よりの情報と対策」が健康被害をもたらした、という事がわかっています。

http://togetter.com/li/429139

あなたの言う「安全デマ」よりも「危険デマ」の方がよっぽど害がありますね。

>日本でも安全デマはあるのはある意味 当然だろう。それを信用しないのも当然の話である。

う~ん、日本での「安全デマ」ってのがよくわかりません。出来れば具体的に教えてください。(じゃないと、単に印象操作をしたいだけ、ってことになります)
それに「信用しないのも当然」って、何故に当然なのかもわかりませんね。
と言いますか、「日本に安全デマがあるのも当然」と「信用しないのも当然」ってどう繋がるのでしょう?関連がまったく見出だせないのですが…。
(まあ、私の読解力の問題かもしれませんけどね)
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kakkouさん (なおみ)
2013-04-13 20:46:32
前回意気込みすぎて
「 k 」の字をおまけしてしまった(笑)。

失礼しましたあ♪

>福島にいる息子は今

きっと一生懸命
お仕事に取り組んでくださっているんでしょうね。
無理はしない・お体大切にと思います。

一人でできることには限りがあるから
何でもかんでも責任を感じすぎないことが
すごく大事かなと思います。

それは「不真面目である」とは違うことだから。

がんばってもがんばっても
わからない人・ろくでもなく言う人はいますから。
そういうのはトイレに流しちゃえ!
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許せない! さん (ひまわり)
2013-04-14 01:00:47
「3月になった」にもコメント下さいましたね。
同じ方ですよね?
で、地元は新潟県なのですか。
わたしは大分県の方かと思いましたが。
(わたしが想像する「許せない!」さんと思われる方の)ブログやtwitterと、
文体がとてもよく似てらっしゃるので・・・。

まぁ、ほかに調べるスベはありますけどね。

福島でのことは、IKAさんがコメントなさったとおりですので、
わたしから申し上げることはありませんです。
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kakkouさん (ひまわり)
2013-04-14 01:04:16
わたしも、新米母親の頃にはなんにもわかってませんでした。
さらにタチが悪いことには、
自分は小児科医なのだから、ふつうのお母さんたちよりもちゃんとできなくちゃ、
みたいな(今にして思えば何の意味もない)呪縛があって、
子ども達には随分可哀想なことをしたと思います。

いろんなところで書いてますけど、
たくさんのお母さまたちを出会って、わたしもオトナになりました。(苦笑)

 >若い頃は、いっぱい泣いた方が宜しい。

 >苦労は悪いことばかりではない気がしますね。

ほんとに、そうなんですよね。

きっと息子さんも、心逞しく暮らしてらっしゃることと思います。

人生の先輩のお言葉、しかと心に留めました。
ありがとうございました。
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なおみさん (ひまわり)
2013-04-14 01:16:46
えっと・・・。
遅ればせながら、
お誕生日、おめでとうございます!!\(^O^)/

 >ゆきちゃんはきっと
 >もっと大きくなれると思います!

わたしも、そう思ってます。

>「どうして泣くの!」←鬼の形相・・・

あはは。
わたしもそうでした。

今になって、子育ての何たるかを多少かじった者としてしみじみ思うことは、
この子たちを、くしゃくしゃ、っと丸めておなかに戻して、
もう一回産んで、子育てやり直してみたい! って。
いえ、今だって、じゅうぶん、
わたしの子どもにしては、それなりにちゃんと育ってるなぁ、
って思ってはいるんですけどね。

 >生きてる間中
 >ないものねだりです。

だからこそ、時折のちいさな嬉しい出来事が
しあわせなのかもね♪

 >そういうのはトイレに流しちゃえ!

御意!!!


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