午後の外来が終わってから、市内の避難所になっている高校に行って来た。
事前に避難所の担当の方に連絡したところ、
3歳ぐらいのお子さんが、なかなか下痢が治らないので診てもらえたら、とのこと。
といっても、実際の診察室ではないので、できることは限られている。
その高校は、わたしの母校でもある。
数年前に校舎を建て替え、校名も校歌もかわり、母校とはすっかり「別物」の感があるが、
正門とそれに続く多行松の植栽は同じだった。
避難所になっている第二体育館(武道館となってるらしい)に行くと、
この時間帯はみなさん外に出られてて、あんまりいないんです・・、とのこと。
それでも、小さめの体育館には、約30名ぐらいの方々が休んでいた。
お子さんはまだ2歳半で、ちょうど午睡の最中だった。
診察したところ、さほど悪い状態ではなかった。
たまたまウンチをしていたが、治りかけのようだった。
診察の時は爆睡状態で泣かなかったのだけれど、
おむつ替えの時に起きてしまい、抱っこをせがんでぐずった。
そんなに大声で泣きわめいた訳ではないのに、小さい子どもの泣き声は体育館に響く。
避難している他の方々が、いっせいにこちらを向く。
子どものことだ、仕方ない、みんなわかっている。
わかっていても、その視線は、わたしにさえ、痛い。
あぁ、小さいお子さん連れの避難には、こういう気苦労もあるんだな・・・。
そのご家族は、命だけは助かったものの、津波で家はまったくなくなったそうな。
きけば、わたしの叔母の住んでいたところに近い。
「生きていればなんとかなる」
若いお母さんは、笑顔でそう言ってガッツポーズを取った。
体育館を出ると、軒下でコリーのミックスのような犬を連れた若い男性がいた。
犬は、さかんに主人にぴょんぴょん跳びかかる。
まるで子犬がじゃれているようだ。
ワンちゃんも連れておいでになられたんですね?
一緒で良かったですね、という思いをこめて、わたしは笑顔で問いかけたつもりなのに、
男性は伏し目がちに、こいつはいつもは車の中にいるんです、という。
小雨が降っているから、ペットだって散歩で濡らしたくはないだろう。
放射線はいやだ。犬だって家族だ。
他の避難している方々に遠慮しながら、ここで散歩のかわりに遊ばせている、
そんな風に感じた。
地震から、まだ2週間。
地震から、もう2週間。
考え方もとらえ方もいろいろだ。
同じ場所で肩寄せ合って何日も暮らしていれば、
見なくていいことも見え、聞かなくていいことも聞こえてくるだろう。
「みんな助け合って」なんて言うのは、まだましな場所にいる者の詭弁かもしれない。
復興までの間に、どうかこの方々の心がくじけてしまいませんように。
祈ることしかできない。
あれから2週間。
各地での被災の状況が、だんだん具体的になってきた。
地震・津波で町ごと役場までもがほぼ壊滅のところ、
町長さんまでもが亡くなった町、
災害現場のもろもろの撤去をしようにも、仮設住宅を建てようにも、
町全体が被災に遭い、作業にあたる人たちも被災者、重機も流されて何もない、
避難所になっている学校やら公民館などにも、いつまでもいられる訳じゃない、
先の見通しをどのように立てていけばいいのか・・・、
南三陸町の方が、町ぐるみでの避難を考えざるを得ない、という内容のことを、
ある番組の取材でおっしゃっていた。
どの被災地も、同じような苦悩を抱えている。
そして、ここにきてようやくというか、福島県の被災状況は他とは異なるという報道が、
少しずつではあるが、増えてきたように思う。
原発から20キロ~30キロ圏内の地域の方々は、屋内避難の指示が出ている。
その地域の毎日の放射線濃度は、実はここ福島市より低い。
にもかかわらず、屋内避難地域というだけで、民間業者が来なくなった。
ただでさえ少ないガソリン・灯油はおろか、日常生活での食料品その他、
スーパーやコンビニの棚には、何もない。
営業もできないから、さっさと自主避難してしまう店主たちも増えた。
閉じ込められたまま、避難所ではないから、支援物資も届かない状態になった。
飼い殺しだ。
今日になって国は、屋内待機の方々にも、自主避難を促す、といった主旨の会見をした。
ふざけるな。
その上、野菜や原乳の規制だ。
「健康にはただちに問題はありません」
とコメントをつけながら、野菜や水道水の規制をする。
暫定の基準があるのだから、行政としては仕方なかろう。それでも、
一部地域の野菜・原乳に放射線が検出されたとしても、なぜそれが県内全域の規制になるのか?
この広い福島県の、ほとんど放射線の及んでいない会津地方まで、なぜ?
総理殿。
あなたはかつて厚生大臣の頃、O157による食中毒でカイワレ業者が風評被害に遭った時、
メディアの前で、カイワレを食べて見せたではありませんか。
あの時と同じように、「健康にはただちに問題はない」ほうれん草を、食べて下さいますか?
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文体を変えました。
前回までの日記は、地震当日からの書き留めておいたものを、まとめて一気に書いたものです。