ひまわりの種

毎日の診療や暮しの中で感じたことを、思いつくまま書いていきます。
不定期更新、ご容赦下さい。

避難所のお子さんと犬

2011年03月25日 | 東日本大震災

午後の外来が終わってから、市内の避難所になっている高校に行って来た。

事前に避難所の担当の方に連絡したところ、
3歳ぐらいのお子さんが、なかなか下痢が治らないので診てもらえたら、とのこと。
といっても、実際の診察室ではないので、できることは限られている。

その高校は、わたしの母校でもある。
数年前に校舎を建て替え、校名も校歌もかわり、母校とはすっかり「別物」の感があるが、
正門とそれに続く多行松の植栽は同じだった。

避難所になっている第二体育館(武道館となってるらしい)に行くと、
この時間帯はみなさん外に出られてて、あんまりいないんです・・、とのこと。
それでも、小さめの体育館には、約30名ぐらいの方々が休んでいた。

お子さんはまだ2歳半で、ちょうど午睡の最中だった。
診察したところ、さほど悪い状態ではなかった。
たまたまウンチをしていたが、治りかけのようだった。
診察の時は爆睡状態で泣かなかったのだけれど、
おむつ替えの時に起きてしまい、抱っこをせがんでぐずった。
そんなに大声で泣きわめいた訳ではないのに、小さい子どもの泣き声は体育館に響く。
避難している他の方々が、いっせいにこちらを向く。
子どものことだ、仕方ない、みんなわかっている。
わかっていても、その視線は、わたしにさえ、痛い。

あぁ、小さいお子さん連れの避難には、こういう気苦労もあるんだな・・・。

そのご家族は、命だけは助かったものの、津波で家はまったくなくなったそうな。
きけば、わたしの叔母の住んでいたところに近い。
「生きていればなんとかなる」
若いお母さんは、笑顔でそう言ってガッツポーズを取った。

体育館を出ると、軒下でコリーのミックスのような犬を連れた若い男性がいた。
犬は、さかんに主人にぴょんぴょん跳びかかる。
まるで子犬がじゃれているようだ。
ワンちゃんも連れておいでになられたんですね?
一緒で良かったですね、という思いをこめて、わたしは笑顔で問いかけたつもりなのに、
男性は伏し目がちに、こいつはいつもは車の中にいるんです、という。
小雨が降っているから、ペットだって散歩で濡らしたくはないだろう。
放射線はいやだ。犬だって家族だ。
他の避難している方々に遠慮しながら、ここで散歩のかわりに遊ばせている、
そんな風に感じた。

地震から、まだ2週間。
地震から、もう2週間。

考え方もとらえ方もいろいろだ。

同じ場所で肩寄せ合って何日も暮らしていれば、
見なくていいことも見え、聞かなくていいことも聞こえてくるだろう。

「みんな助け合って」なんて言うのは、まだましな場所にいる者の詭弁かもしれない。

復興までの間に、どうかこの方々の心がくじけてしまいませんように。
祈ることしかできない。


屋内避難と自主避難とほうれん草と牛乳

2011年03月25日 | 東日本大震災

あれから2週間。
各地での被災の状況が、だんだん具体的になってきた。
地震・津波で町ごと役場までもがほぼ壊滅のところ、
町長さんまでもが亡くなった町、
災害現場のもろもろの撤去をしようにも、仮設住宅を建てようにも、
町全体が被災に遭い、作業にあたる人たちも被災者、重機も流されて何もない、
避難所になっている学校やら公民館などにも、いつまでもいられる訳じゃない、
先の見通しをどのように立てていけばいいのか・・・、

南三陸町の方が、町ぐるみでの避難を考えざるを得ない、という内容のことを、
ある番組の取材でおっしゃっていた。

どの被災地も、同じような苦悩を抱えている。

そして、ここにきてようやくというか、福島県の被災状況は他とは異なるという報道が、
少しずつではあるが、増えてきたように思う。

原発から20キロ~30キロ圏内の地域の方々は、屋内避難の指示が出ている。
その地域の毎日の放射線濃度は、実はここ福島市より低い。
にもかかわらず、屋内避難地域というだけで、民間業者が来なくなった。
ただでさえ少ないガソリン・灯油はおろか、日常生活での食料品その他、
スーパーやコンビニの棚には、何もない。
営業もできないから、さっさと自主避難してしまう店主たちも増えた。
閉じ込められたまま、避難所ではないから、支援物資も届かない状態になった。

飼い殺しだ。

今日になって国は、屋内待機の方々にも、自主避難を促す、といった主旨の会見をした。

ふざけるな。

その上、野菜や原乳の規制だ。
「健康にはただちに問題はありません」
とコメントをつけながら、野菜や水道水の規制をする。
暫定の基準があるのだから、行政としては仕方なかろう。それでも、
一部地域の野菜・原乳に放射線が検出されたとしても、なぜそれが県内全域の規制になるのか?
この広い福島県の、ほとんど放射線の及んでいない会津地方まで、なぜ?

総理殿。
あなたはかつて厚生大臣の頃、O157による食中毒でカイワレ業者が風評被害に遭った時、
メディアの前で、カイワレを食べて見せたではありませんか。
あの時と同じように、「健康にはただちに問題はない」ほうれん草を、食べて下さいますか?

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文体を変えました。
前回までの日記は、地震当日からの書き留めておいたものを、まとめて一気に書いたものです。