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禁断の進化史

題名はかなりどぎついが内容はごく真っ当な人類の進化に関する教養書。内容は2章立てで、第一章は脳の発達を中心とした人類の進化の歴史、第二章は人間の知性と密接な関係にある「意識」の進化という視点からの考察という構成だ。第一章では、人間が果実食、樹上生活、直立二足歩行という進化の過程を辿る中で、地球の気候変化、他の動物や植物の進化などに大きな影響を受けたことが分かりやすく説明されている。この辺りは、脳の巨大化と直立二足歩行の関係くらいしか聞いたことがなかったので、なるほどなぁという箇所が大変多かった。そうした第一章で著者が強調しているのが、人間を頂点として高等生物、下等生物と何となくイメージしてしまっている生物のヒエラルヒーのような考え方の間違い。生物の眼の進化の過程についての解説を読むと、古代生物の方が人間の眼よりも複雑な情報処理を行っていたとのことで、びっくりした。第二章は「意識」というものの進化論的な考察。サル、犬、猫に「意識」があるというのは理解できる気がするが、イカとかタコとか昆虫とかはどうなのだろうかという疑問に答える考察だ。生物が「意識を持つ」ことは、生存競争の上でメリットもあればデメリットもあるという視点で様々な研究成果が示されていて、結局は「意識の獲得は進化の結果」という結論を導き出している。更に人間の意識の獲得については、現時点では「意識は極めて多い情報と有機的に繋がった処理システムの産物」という「統合情報理論」が最も有力な考え方で、それによれば人間と全く同じ物理的な構造を持った個体があれば意識は必然的に発生し、個体は人間だが意識を持たない「哲学的ゾンビ」といものはあり得ないとのこと。こうした研究がずっと続いているということさえ知らなかったのでとても面白かった。(「禁断の進化史」 更科功、NHK出版新書)
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