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地形の思想史 原武史

日本の風土と思想の関係を考察する教養書。表紙に「なぜ上皇一家はある岬を訪ね続けたのか?」というキャッチーな文言があり、それに惹かれて読んでみることにした。本書は、著者の思想史の知見をもとに、岬とファミリー、峠と革命、島と隔離、麓と宗教、湾と伝説、台と軍隊、半島と政治という7つの章立てで、地形を表す言葉をキーワードとしてその地形とそこで起きた歴史的な出来事やその背景にある思想のようなものを関連づけて考察するという内容。例えば「岬」の章では、近代日本史150年でめまぐるしく変わる天皇観に翻弄される天皇家の人達が個人を取り戻すために訪れた浜名湖畔を眺められるホテルについて語られる。また「峠」の章では自由民権運動や赤軍派等の革命思想の拠点とその地理的特性、「島」の章では戦前瀬戸内海の島に検疫所やハンセン氏病棟が作られた背景、「麓」の章では富士山麓に拠点を構えた仏教、新興宗教、オウム等のカルト教団と富士山との関わりが考察される。あくまで学術論文ではなく著者の直感や感想重視の記述中心で、素人としてはかえって気楽に読めて、こういう本も良いなぁと思った。(「地形の思想史」 原武史、角川新書)
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