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凍原 桜木紫乃

「終起点駅」でブレイク中の作者によるミステリー。謎解きを楽しむというよりも、北海道という土地の独特の風土と人々の暮らしを描いた純文学を読んでいるような感覚に囚われる本だ。最近、北海道の作家が再評価される流れがあるような気がするが、「終起点駅」を読んだ時は、本書の著者がそういう作家だとは全く気がつかなかった。本書のなかで言われているように、北海道という土地は、3代前の人が語った嘘が歴史になってしまうような土地だという。自分自身の記憶には全くないが、北海道は、子どもの頃に2年間だけ暮らしたことがある土地であり、その後つい最近札幌・小樽を旅行で旅するまで足を踏み入れたことのなかった土地だ。北海道の人たちが本書で描かれたような独特の感覚をどの程度共有しているのかは定かではないが、一度そういう目で北海道を旅行してみたいと思った。(「凍原」 桜木紫乃、小学館文庫)

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万能鑑定士Qの推理劇2 松岡圭祐

このシリーズも段々マンネリ化してしまっているのではないかという予想に反して、本書はシリーズのなかでも特に面白い方に入る作品だったように思う。主人公が自分の店を閉めてオークション会社のOLになるという展開はかなり意外だったし、同じ作者の別シリーズの主人公が脇役で登場するというのも読者としては嬉しい。何よりも今回の舞台が古書の鑑定を巡る話だという点は、最近の本屋さん関連のミステリーのブームを考えると、著者のそうしたブームをいち早く取り入れる感性は流石だなと感心してしまう。(「万能鑑定士Qの推理劇2」 松岡圭祐、角川文庫)

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「カルト宗教」取材したらこうだった 藤倉善郎

著者によれば「カルト宗教」というのはその定義が難しいという。確かにどのようなものを「カルト」というのか、その線引きに確かな基準がない。著者は「カルト宗教団体」もあれば「カルト的な宗教団体」もあるという。本書は、そうした「カルト」あるいは「カルト的」な宗教団体を長年取材してきた著者の渾身の1冊だ。実際に本書は、そうした宗教団体に対する潜入ルポあり、宗教団体との訴訟トラブルありの実に多彩な内容で、しかも著者が大いに体を張って、危険を顧みずに取材してきた成果を読むことができる、貴重な1冊だ。本書が指摘する「笑える教義をもった団体ほど恐ろしい」という言葉に、著者の深い洞察を感じる。(「『カルト宗教』取材したらこうだった」 藤倉善郎、宝島社新書)

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誘拐の誤差 戸梶圭太

いつも行く本屋さんで、ものすごく目立つように置かれていた本があり、手にとってみたらその本は作者の第2作目かあるいはシリーズの第2作目のような感じだった。いきなりその本屋さんの推薦本を読もうかどうしようか迷った挙句、本屋さんの推薦する本だけが面白いのか、この著者の本全ては面白いのか良く分からないまま、やはりここは順番通り第1作目から読もうと思って、本書を選んだ。読んでみてびっくり。帯の宣伝文句に「『本格』ではなく『変格』」とあるように、全編「悪態」ばかりが延々と続くという、読むのが途中で恥ずかしくなるような「いやミス」中の「いやミス」ともいうべきアクの強い作品だった。話の終わり方も大団円とは程遠いのだがそれでも妙に説得力がある。本屋さんが薦める本を見かけなければ絶対に読まなかっただろう作品だが、しばらくしたら次は本屋さんが薦めた本を読みたくなるような予感がする。(「誘拐の誤差」 戸梶圭太、双葉文庫)

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夢のカルテ 高野和明・阪上仁志

「ジェノサイド」の大ヒットで俄然注目をあびた作者の旧作を文庫化した本書。「ジェノサイド」人気にあやかったような本だが、こういう形で旧作に出会えるのは読者としては嬉しいことだ。話の内容自体は、ジェノサイドのような衝撃度はなく、海外のTVドラマをみているような感じだが、流れるようなストーリー展開は、著者のもう1つの傑作「グレイブディッカー」を彷彿とさせる。作者の名前が2人ということで、おそらくストーリーと文章を分担して書かれたのだと思うが、そうした作品の場合、ストーリー先行で登場人物の動きが自由でないような感じを受けたり、話がうまくまとまりすぎていると感じたりすることがあるが、本作もやはりそのような印象を何度かもった。(「夢のカルテ」 高野和明・阪上仁志、角川文庫)

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