ギリシャ神話の世界が非常に世俗的であるという話は良く知られた事実だが、そうした観点で西洋絵画を鑑賞してみるとどうなるか。本書を読んでいると、今まで何となく高尚な絵画なのだろうと思っていた数々の名画が、何とも滑稽なものに思えてくる。題名の「名画の謎」というのは、名画と言われている絵に描かれた内容が、こんなに「陳腐」で「馬鹿馬鹿しい」ものだったという、笑えない冗談のことではないかとさえ感じた。本当にこんな絵を昔の西洋の人は家の中に飾っていて品格を疑われなかったのだろうか、と心配になるほどだ。こうした発見をさせてくれること以外にも、本書には大変良いところが2つある。1つは、実際の絵画が見開きでしかもカラーでしっかり掲載されていること。これはこうした絵画鑑賞本の基本だと思うのだが、それをちゃんとやってくれている本はなかなかない。もう1つの良いところは、文中のカッコ書きがめちゃくちゃに面白いこと。地の文章だけでも結構笑える上に、もうひとひねりされたカッコ書きを読むのが楽しくて仕方がない。「ギリシャ神話篇」とあるので当然刊行が予想される続編を早く読みたい。(「名画の謎(ギリシャ神話篇)」 中野京子、文藝春秋)