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墨攻 酒見賢一 

2009年02月24日 | 読んだ本
作者の作品を読むのは「後宮小説」「聖母の部隊」に次いで3冊目。先の2冊は全然タイプは違うがいずれも心に残る名作だった。本作も150ページにも満たない文庫本だが小説における「虚実皮膜」の醍醐味を十分に味わえる作品だった。「墨子」という人物あるいはその思想については全く予備知識が無く、どこまでが史実でどこまでが創作なのか正確には判らないが、作者の他の作品から類推して、思った以上に「創作部分」が多いのではないかという感じがした。そもそも題名の「墨攻」も成語の「墨守」をもじった作者の造語である。そうしたどこまでが史実なのかを見つけようとする読者を相手に、その虚と実の境界を感じさせないのが作者の技量なのだと思う。最近歴史小説をいくつか読んでみて、歴史小説というのは「面白い題材を見つけてくる」ことがまず重要な要素だと思うことが多い。本書にもそれはいえるのだが、本書の場合はそれはとっかかりだけのような気がする。虚と実の境界が判らないので、史実であったかどうかを追いかけても楽しめないことがすぐに判るからだ。あとから解説などを読んで、ここまで史実だったんだと変に感心してしまった。
 なおこの作品はマンガや日中韓合作映画になっており、いずれも処方面で高い評価も受けているらしい。両方とも見たことはないが、話としての面白さや「墨子」という謎の多い題材が、さまざまなジャンルの人々の創作意欲を掻き立てるのかもしれない。本書読了で、寡作の作者の主要作品の未読作品としては「陋巷に在り」が残った形だ。全13巻という大物だけに、個人的にはこれをいつ読むかが結構悩ましいところである。(「墨攻」酒見賢一、新潮文庫)


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