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露の玉垣 乙川優三郎

江戸時代の弱小藩の家臣の日常を史実に沿いながら書かれた時代小説。派手な事件もないし、飛びぬけた活躍をするヒーローもいないが、多くの社会的な制約のなかで武士としての矜持を守ろうと健気に戦う人々を追いかける目が素晴らしい。彼らの戦う相手は、人間ではなく、貧困と自然災害の2つである。家老といった藩の中枢を担う武士が藩全体を覆う貧困と戦う様は強烈であり、今までの時代小説では全く描かれていなかったものだ。この話のモデルとなったのは「新発田」という実在の藩であり、弱小の外様大名でありながら、江戸260年間を生き残った稀有な藩だという。貧困に苦しむ藩を守るためにそれぞれの家臣が取った行動が読む人の心を揺さぶる。これまでに読んだことのないような視点の本書を読んで、時代小説の幅の広さに改めて感じ入った。(「露の玉垣」乙川優三郎、新潮文庫)
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