東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

古川久雄,『植民地支配と環境破壊』,弘文堂,2001

2008-11-23 22:52:21 | フィールド・ワーカーたちの物語
この著者がこんな本を執筆するとは、意外である。
意外、といっても著者の主張が意外なのではない。古川久雄らしい主張である。

意外というのは、文献を大量に引用し歴史的文脈で植民地支配を論じ、植民地支配と環境破壊は同根であると強く主張していること、平和憲法の精神を世界に広めることこそ求められ、平和憲法をなし崩しにするのは国益を損ねると主張していること、そういった議論のすすめかたである。

いうまでもなく、著者は、世界中を自分の足で歩き、自分の目で環境破壊の現場を見ている人間である。
本書では、ニューカレドニア、ブラジルなど(東南アジア研究者としては)意外な地域の環境破壊が克明に語られている。
その悲惨な現状をみて、その歴史的来歴をたどり、さらに現在の植民地支配である世界銀行・IMF・金融戦略を断罪する。
1992年のリオデジャネイロ地球サミットの虚妄をあばき、〈持続可能な開発〉などというお題目を批判する。リオデジャネイロ・サミットの事務局長モーリス・ストロングという人物は、かつて1992年の地球サミットで、アメリカのベトナムでの枯葉剤作戦を隠蔽するために、日本やノルウェーの捕鯨をスケープゴートにする策略をあみだした人物であるそうだ。

〈1997年の金融危機は、生産物や農園などモノを一切媒介することなく、アガリだけをかっさらう金融商品という新たな武器の威力を試す実験だった。核兵器に等しい暴力である。〉
あの1997年の金融危機は、インドネシアに対し国家が解体するほどの打撃を与えた。(ほんとに、インドネシアの通貨はどこまで下落するんでしょうね。そのうちベトナムやミャンマーの通貨みたいに、外の国の通貨と交換不能になるのか?)
その打撃が、弱い方へ弱い方へと波及し、現在インドネシアの感潮帯と泥炭湿地は耐えられない破壊が進行している。著者はこの地域の研究者として、環境の保全と回復に取り組みたいと決心している。

著者のすすむ道については、まあ、わたしのような者が期待しようが、無視しようが、どうでもいい。
それよりも、株が暴落しただの、銀行がツブれただのと、あたふたしている連中よ、どうってことないではないか。日本が不景気だなんだかんだといっても、飲み水がないとか、凍え死にすとかの話じゃないでしょうが。
今までさんざん荒らしまわっていた銀行や投機会社がツブれそうで、ありがたいことじゃないか。

机上の空論と笑う向きもあるだろうが、これくらいの理想を熱く語る学者がいるのは気持ちいい。
毎日毎日、銀行や証券会社の飼い犬のように経済予想をしている学者モドキではなく、この古川久雄みたいに、プランテーションの私兵に拘束されたり、湿度100%の湿地林で何日も調査するような、修羅場をくぐりぬけた人がバーンと言ってやらねば。


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