東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

ナヤン・チャンダ,『ブラザー・エネミー』,めこん,第4、5、6章

2009-04-19 19:44:26 | 国家/民族/戦争
第4章;ベトナムと中国の関係を歴史をさかのぼって叙述
第5章;サイゴン陥落後のUSAとの関係修復
第6章;サイゴン陥落前後のベトナム=ソ連関係

第4章でわかること

著者ナヤン・チャンダの語る中越関係史。1000年前からの歴史をつうじての中越間の伝統的な華夷秩序。それを現代にそのまま適応できるかどうかは疑問である。疑問であるが、中国の指導者たちの態度は、華夷秩序の中で生きているとしか読めない。イデオロギーや資源獲得という問題ではない。

濱下武志が説いたような朝貢・冊封体制から、中国=ベトナムの関係をみるなんて、1980年当時、だれも考えていなかったんだから。
中国の指導者たちは、ベトナムがインドシナの強国になることを決して許さない。これは、毛沢東生存時も四人組が粛清された後も小平の時代も変わらない。

夷をもって夷にあたる、という大昔からの戦略が基本方針であるというわけだ。

第5章でわかること。

ベトナムはアメリカの対応を過剰に楽観的に予想していた。まったく外交下手で、井の中のカワズである。
ニクソン政権の提出した援助、西側の投資の再開など、ベトナム側の予想はまったくはずれた。USA国内では、ベトナムに対する怨念がたかまり、反戦運動は下火になり、ウォーターゲイト事件の影響でニクソン政権の約束など反故にされる。
ベトナムに対する賠償など、問題外。

著者ナヤン・チャンダは、ベトナムの指導者たちが、マルクス主義者の常として、戦争は経済的な利益追求のために行われると考えていたとする。つまり、アメリカは経済侵略のために戦争をしていたのだから、戦争が終われば利潤追求のため投資を再開する、と。(マーシャル・プランや日本の例もあるし!)
しかし、USAは議会制民主主義国家なのである。皮肉なことだが、賠償や援助の案件はきっちりと議会で審議されて、否決された。

アメリカばかりでなく、ヨーロッパの国も投資には消極的。日本もアメリカの顔色をうかがっていて、手を出せない。

そこで、ベトナムが経済的援助を期待できるのはソ連だけになる。

第6章でわかること

中国と同じく、ソ連もベトナム戦争が永遠に膠着状態が続くことを願っていた。
ベトナム人の間でまことしやかに伝えられる自慢話がある。ソ連は、ベトナムが強くなりすぎないように、B52を迎撃できるロケット砲を供与しなかった。しかしベトナム人は自力で迎撃システムを改良し、B52を撃墜できるようになった、という話。(著者チャンダもこの話は噂なのか本当なのか判断しかねるようだ。)

ベトナムとしては、ソ連の干渉を減らしたい。だが、西側にそっぽを向かれ、中国の圧力に抗していくために、世界の嫌われ者ソ連の援助をあおぐしかない。
なんてこったい。

ここで、ベトナムは世界中から孤立することになる。

ナヤン・チャンダ,『ブラザー・エネミー』,めこん,1999

2009-04-19 19:40:30 | 国家/民族/戦争
友田錫(ともだ・せき)瀧上広水(たきがみ・ひろみ)訳
原書 Nayan Chanda,"Brother Enemy",1986
日本語版のために「付章 カンボジア和平から現在まで」を追加

まず、誓ってもいいが、本書に書いてあることは1979年ごろ、誰も知らなかった。
ベトナム指導者内部のこと、中国の上層部のことは、想像するしかない。ソ連の態度は比較的わかりやすいが、それでも憶測まじりである。さらにカンボジア内部のことはまったくわからない。

USAの情報機関も、各国の外交官も、各国の報道機関も、全体をみわたすことができなかった。後になって、おれはちゃんと知っていたんだぜえ、というやつはたいていウソつきである。
もちろん、中国通、ベトナムシンパ、ソ連外交ウォッチャー、アメリカ外交ウォッチャーという人々はたくさんいたが、それらの見方は相互に矛盾している。何を根拠にし、誰を信じたらいいのか、さっぱりわからないという状態であった。

本書を読んでも、あまりにも細かい事実を統合するのがたいへんだ。
巻頭に並べられた「主な登場人物」が100人ほど。
それらの人物が織りなす中国・ベトナム・ソ連・USAの政策は、矛盾しながらコロコロ変わっていく。中心のカンボジア内部事情は推測する以外にない。本書執筆時点でも、現在でも、カンボジア内の事情は推測する以外にない事件が多いようだ。
たいへん複雑でやっかいなことだが、本書あたりを座標軸にして見ていく以外ないだろう。

なお、本書があまり詳しく論じていないこと

1.ASEAN諸国と日本のこと(第10章では、小平の外交とともにかなりのスペースが割かれているが)
3.ベトナム国内の経済事情と旧南ベトナム解放戦線派と北ベトナム政府派の対立など。
3.ラオスの事情

*****

著者ナヤン・チャンダの新著(2007年、日本語訳『グローバリゼーション 人類5万年のドラマ 』上下,NTT出版,2009年)について、YouTubeで見られる。

http://www.youtube.com/watch?v=0EvriWgx4xo

カリフォルニア大学バークレー校、The Institute of International Studies という組織の提供で、 "Conversations with History" というシリーズのひとつ。[7/2007]
Harry Kreisler という人がホストで、ナヤン・チャンダの新作 " Bound Together "を紹介する対談。

翻訳がでたから読めばいいんだれど、めんどくさいので、YouTube ですます。YouTube ばっかり見てるとバカになるのだが。
58分ほどの対談。本の内容は、ジャレド・ダイアモンドが書くような、5万年のタイム・スパンで綴る、人類の遭遇の歴史。
「商人」「布教者」「冒険者」「戦士」というパターンで、人類がいかに遠方に旅し、別の集団と遭遇したかという物語。
なんか、ずいぶんあたりまえの内容みたいにみえるが。