選別して“廃棄”と決めたものの中にも“記録写真(廃棄記念?)だけは残しておこう”という気にさせる物もある。この超大型書籍「大日本府県別地図及地名大鑑」が、その一例である。
この超大型書籍は、赤リボンで縛った大型封筒に収められていた。大型封筒には末松敏子(母)の筆跡で「昭和17年初版 定価金14円也」と書かれている。当時の物価で“14円”というのは、戦時中の家計を圧迫したに違いない。明記された金額を眺めていると、末松未亡人の“怨み節=唄・梶芽衣子”が聞こえてくるような気がする。
中も見ないで廃棄するのは(保存していた亡母に対して)申し訳ない。写真の2~3枚でも撮っておくのが、礼儀というものだろう。
“大日本府県別地図”を構成する日本の府県は“北海道から沖縄まで”ではない。北海道の前には“樺太(の半分)”や“北方4島”の地図があり、沖縄県に続いて“台湾、南洋、朝鮮、満州”の地図がある。
朝鮮(当時の呼称)を例にとる。今では二つの国家に分かれている地域が“ひとつの地域”として記載されている。書名が“大日本府県別地図”及“地名大鑑”であるから、朝鮮(当時の呼称)の市や町の住所表示が細かく記されている。
朝鮮京畿道府邑面索引一覧=京城府、仁川府、開城府、坡州郡、抱川郡、長◎郡、以下省略。
朝鮮忠清南府邑面、◎◎府邑面、◎◎府邑面、◎◎府邑面、◎◎府邑面…等々。当時は、この地図を活用していた人がいたということである。
地図には“◎◎湾要塞地帯区域”とか“◎◎近傍軍機保護法適用地域”などが記されている。暗い時代の記録である。
家屋取壊作業初日の午後。旧家屋の右端と新家屋の左端に、それぞれの時代の“末松太平の部屋”があった。
今回紹介した“大日本府県別地図及地名大鑑”は、旧家屋の奥に保管されていた。(末松)