◎末松太平事務所(二・二六事件異聞)◎ 

末松太平(1905~1993)。
陸軍士官学校(39期)卒。陸軍大尉。二・二六事件に連座。禁錮4年&免官。

歴史について 波多江タマ様のお手紙

2008年12月16日 | 今泉章利
歴史とは難しいものである。自分自身のことでさえ表現したり記録することは難しいのに、他人の、しかも時代や場所の異なることを本当の意味でどれだけ理解できるのだろう。
私にできることは、せいぜい、なるべく一次資料に近いものを集めて整理すること。これが精一杯であると思う。その一次資料を見て、様々な人がそれを解釈してゆけばいいのだと思う。それにはとんでもない解釈をされる人もいるかもしれないが、それは仕方のないことであろうと思う。
一次資料の存在がそのような誤解や曲解をいつか年月とともにあるべき姿にしてくれるのだと希望しながらも、私は十年近く悩んでいた。そんなとき、私は、94歳の對馬さんの妹、波多江タマ様から最近お手紙を頂いた。それにははっきりと「貴方達にはわからないと思います。昭和の初期のこと、価値観、貧困さ、国を思う気持ちなど全然わからないと思います。でも自分は逆に、今の世代の人たちの考えが理解できません。」と書かれてあった。
「自分は、昔から新聞を見ても、何を見ても、まず真っ先に、この国のことを考える。この国がどうなるかを考える。それなのに、今の総理大臣はこの国を放り出してしまう。私には理解できない。蹶起した人たちで子供がおられた方に対し、ひどいではないか、子どもや奥さんのことをなんだと思っているのかという人たちがいるけれど、当時は、子どもを作って育てることが、この国のためになることであり、国のためならば自分たちの犠牲は厭わなかった。でもこんなことは、いまの人には、まったく理解できないのだと思う。」と言われた。
私はこのお手紙を拝読しながら、心が少し楽になっていったのを感じた。私のようなもののできることは、せめて、自分の接した方々のことや調べたことを、少しでも多く残してゆくことなのだなと思ったのである。

写真は、処刑を控えた昭和11年7月8日ごろの、衛戍刑務所での、親切にしていただいた刑務官に対する寄せ書きである。一番右のものが当時21歳の父のものであり「我思ひいか尓(に)言ふとも術なしやただつつましふ黙し行かるる」とある。(今)
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