学年だより「恋はデジャ・ブ(3)」
同じ日を繰り返すうちに、仕事仲間であるリタに対する思いが芽生えていた。
フィルは作戦を講じる。リタの趣味や好みや将来の夢を聞き出して、お酒に誘っては意気投合し、部屋に誘う。失敗したら、また繰り返せばいい。
徐々にうまくいきかけるのだが、つい元々の自分勝手な自分が顔を出してしまう。
「あなたは結局自分のことしか考えていないのよ」パシッ!(ビンタの音)とリタに拒否され続ける。そして2月2日が繰り返される … 。
リタを口説き落とす作戦も失敗し続けるうちに、同じ日を生きることにいい加減飽きてきた。
ベッドの横の目覚まし時計を壊してみても、祭りのグラウンドホッグ(土もぐら)をさらって町からの脱出を試みても、その勢いで車ごと谷底へ落ちても、気がつくと2月2日の朝になっている。
フィルが、ボーリング場で地元の男2人と酒を飲みかわすシーンに、印象的なセリフがある。
~ フィル「あの日だったら何度繰り返してもいいのに、何故こんな最悪な日なんだ」
男1「このビールがもう半分しか残っていないと考えるか、まだ半分あると考えるか、
お前は前者なんだよ」
フィル「どこへも抜け出せず、毎日が同じことの繰り返しならどうする?」
男2「俺は … 毎日、そういう暮らしだよ」 ~
暴飲暴食、犯罪、女、自殺 … 。何をしてもループ脱出が不可能なことを知ったフィルは、無尽蔵な時間を利用してピアノを習い始める。
楽器が弾ける人が好きとリタが言ってたことを思い出したからだ。
彼女が好きだと言っていたフランス語も学び始め、古典を読むようになる。
氷の彫刻を彫る技術を身につけていく。
何ひとつ変わらない日々が繰り返されるなかで、フィル自身は少しずつ成長していった。
リタに対する接し方もおだやかなものになる。
街の人々が起こす事故やトラブルも、ベストタイミングで現れて、それを救うようになる。
街のどこで、誰が、どんなトラブルを起こすかは、もうすべて頭に入っていたのだ。
勉強と人助けがルーティンになると、彼に対する、周囲の人たちの態度も当然変わってくる。
元々は有名人を鼻に掛けた傲慢な男だったフィルが、いつしか街の人々に溶け込み愛される存在になっていった。
この街に来る前にリタが把握していたフィルの人柄と、目の前のフィルは全く違っていた。
フィルの何百日間は、リタにとっては一日だ。
一年に一回しか来てない街の人々が、なぜ彼をそこまで慕っているのか。
リタは不思議な思いでフィルを見つめながら、彼に対する気持ちが芽生えるの意識していた。
街のパーティの後、2人で行った公園で、彼は彼女の顔を雪に彫る。「素敵 … 」リタが呟く。
「明日どうなろうと未来がどうなろうと、今が幸せだ」フィルが答える。
歩み寄り抱き合う二人を包むように雪が舞い始める。