水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

12月3日

2013年12月03日 | 学年だよりなど

  学年だより「レッツ・チャット」

 「レッツ・チャット」という製品がある。みなさんが使っているノートぐらいの大きさで、キーボードのような五十音の文字盤がある。ぱっと見は、大きな電卓? スマホ?と思われる形状だ。
 でも電卓でもスマホでもない。文字盤に触れて操作する機器ではない。
 自分の言葉で話せない、文字を書くことができない、キーボードにも触れられないといった、重い障害を持つ人が、コミュニケーションの手段として用いる機器だ。
 開発したのは、ファンコム株式会社社長の松尾光晴氏。お父様がALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病にかかり、その介護中、ALSのボランティア仲間とつきあう過程で生まれた。


 ~ 「僕と同い年の村上さんという男性がALSを発病。わずか半年で人工呼吸器をつけなくてはならなくなり、声を失ったんです。一級建築士として事務所を持ったばかりだったのに、仕事もあきらめなければならない。なのに彼はパソコンを通じて、新しい行動を起こそうとしていた。それにひきかえ自分はどうなのか。このまま漫然と生きていいのかと」 (WEBマガジン「ism」り ~


 意識ははっきりしながら、自分の思いを他人に伝えることができない。
 暑いとき、寒いとき、どこかが痛むとき、水がほしいとき、それを誰にも伝えられないままだとしたら、その辛さがいかばかりのものであるか、多少なりとも想像できるのではないだろうか。
 村上さんとのつきあいの中で、障害をもつ人に必要なのは、パソコンではない、少しでも円滑に他人とコミュニケーションできる機能をもつ機器だと気づいた松尾氏は、勤務先の松下電器産業の社内ベンチャーに応募し、開発を目指すことにした。
 レッツ・チャットの原形と言われるものは以前から存在した。
 それは透明な文字盤で、ALSの患者さんの視線がどの文字を見ているかを、介護者が見つけて言葉化していく方法だ。ただし、視線を読み取るには熟練が必要で、なかなか思いが伝わらないときは、介護者にも、患者さんの方にもストレスがたまった。
 この文字盤に光源をつけ、順番に文字を照らしていく。
 患者さんは自分の使いたい文字に明かりがついたとき、なんらかの手段でそれを選択する。
 最初の試作品を村上さんの元に届けたときは、こんなに大きなものはあぶなっかしくて使えない、とさんざんな評価だった。技術者魂に火をつけられた松尾氏は、改良に改良を重ねる。
 松下製品をふんだんに使える社内ベンチャーという立場も幸いし、見事製品化に成功した。
 「言語、上肢、視覚の三重の障害を持っている人でもすべての機能が使いこなせる、そんなコミュニケーション装置は、他には無い」と松尾氏は言う。
 レッツ・チャットには、通常の文字盤の他に、使用者が自分で設定できるオリジナル文字板がある。障害をもつ人が誰しも最初に登録する言葉があるという。


 ~ 「いつでもどこでも、患者のみなさんがいちばん伝えたい言葉は“ありがとう”なんですよ」 ~


 松尾氏の「志」が、多くの人々の思いを伝えることを可能にした。

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