今年聞いた音楽アルバムでベストは何かと訊かれたら(誰もきいてくれないけど)、自信をもってこの一作を薦めたい。
どぶろっく「もしかしてだけど、アルバム」。
下ネタ中心の歌ネタでプチブレイクしているお笑いコンビのアルバムだ。
知りませんか?
「♩ もしかしてだけど もしかしてだけど それってオイラを (ハモって)誘ってるんじゃないのぉ」
っていうの。
男の細かな妄想をこれでもかと歌い上げたフォークロックと言える。
ご婦人からすれば、「ほんっとに、男ってばかね」と思われるような歌詞なのだが、男子の脳内はみな八割方同じだ。
ネタとして歌詞だけ見ると、そこまでインパクトないのだが、音楽がすごい。歌がうまい。サウンドがいい。
たとえばそんなに中身がなさそうな楽曲でも、壮大なアレンジで、絢爛たるサウンド感で演奏すると、ものすごい大曲に聞こえることがあり、吹奏楽界にはそういうのがけっこうある。
どう演奏するかは、けっこう中身と同じくらい(それ以上にかな)大事だ。
話も同じだ。
内容よりも話し方の占める比率がいかに大きいかは、科学的にも解明されているっぽい。
「もしかしてだけど、アルバム」を聴きながら、歌詞の内容を意図的に聞き流していると、今のjポップのヒット曲集に聞こえてくる。
サウンドとか、コードの付け方とか、メロディーの跳躍の仕方とか、「今」感にあふれている。
「なんか売れそうな楽曲つくろうか! オッケイ! こんなんどうですか。いいね、今の一般ピープルの求め具合ってこんな感じでしょ … 」的な曲が集まっている。
曲によっては、明らかに某有名フォークデュオ風とか、おしゃれ扱いされる某有名バンド風とかの作風をマネたかと思われるのがある。どの程度意図的につくっているのだろう。
同じジャンルの先輩「マキタスポーツ」さんの作品ほど意図的な風刺がこめられているとは思えないが、それが逆に毒を強めているのがおそろしい。
おしゃれなバンドは、たとえば、「愛してる」とか「奇跡にありがとう」とか「世界が僕をおしつぶす」とか、歌う。
どぶろっくは、「誘ってるんでしょ」とか「おっぱいツンツンしたい」とか「おしっこは意外にとびちる」とか歌う。
何がちがうのか。何もちがわないのではないか。
だって、「靴紐が解けたら」、「僕」は「死のうと思った」りするではないか(中島美嘉「僕が死のうと思ったのは」)。
ジーンズから短パンにはきかえたある夏、「おしっこは意外にとびち」っていると気づいた瞬間、世界は変わるのだ。
世界は時に人をおしつぶし、時に人をよみがえらせる。
どうしようもない無力感にさいなまれていても、雨のにおいをかいだ瞬間にふと「なんとか生きてみよう」と思える時がある。
採点が長引き、スーパーの閉店時間がせまり、少しあわてぎみに走っていたら、南古谷中学校の前でスピード違反をとられてしまう夜もある。何年ぶりだろ。
人の営みに貴賤はない。
そんなことまで考えさせられる、どぶろっくのこのアルバムは今年聴いた吹奏楽、クラシック、落語のすべてのCDのなかで、ベスト作だ(ただし、この評価を受け入れてもらえる方は少ないかもしれない)。