水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

馬車馬さんとビッグマウス

2013年12月07日 | 演奏会・映画など

 大きな夢をもて! 志を高くかかげよ!  … って、言うじゃなぁい。
 とくに、学校の先生は。
 でも、先生! あんたたち、夢がかなった結果が、今の姿ですか!
 残念っ。自分にあまく他人に厳しい斬ぃりっ!

 「夢が叶って学校の先生になれました」という人と、「ほんとは役者になりたかったけど、夢かなわずに学校の先生やってます」という人とでは、どっちが幸せだろうか。
 ちゃんと叶えるために、夢は最初から小さめな方がいいのか。
 自分の能力の範囲で叶いそうなレベルのなかで設定するのが、正しい夢の描き方なのか。
 でも、あんまりそれがちっちゃい望みだと、夢扱いされないこともあるし。
 かりに自分が、「吹奏楽顧問なってやってらんねぇ、これからハリウッドスターを目指す!」と言ったとき夢扱いされるのか。
 妄想を抱いた、もしくは精神的にヤバくなったと扱われること間違いない。
 じゃ、どのレベルからどのレベルを「夢」といっていいの?
 かりに「夢」認定されて、それに向かって頑張っても結果がでないとき、どこであきらめればいいの?
 その「夢」に向かうだけの、追い続けるだけの才能があるかないかは、どこで判断すればいいの?
 われわれは「夢を追え」という商売ではあるが、あまりにも無責任にそういう言葉を発するだけで、具体的に何をどうすればいいかは、教えていない。教えられていない。 
 むろん「夢のあきらめ方」なんて。
 
 麻生久美子さん演じる、脚本家を夢見る34歳独身の馬淵みち代は、10年以上もシナリオコンクールに自分の作品を送り続け、シナリオスクールにも通っている。
 スクールで出会った、関ジャニの安田くんが演じる若者は、大口をたたくばかりで一向に作品を書こうとしない天童義美。
 コンクールの性格にあわせ対策を練って作品を書かねばならないと馬淵が言えば、そんなありきたりの本書いたってしょうがないやん、おれはおれにしか書けへんものを書く! と豪語する天童。
 馬淵に一方的に好意をよせる天童と、天童になど一切興味を持たずにパソコンに向かい続ける馬淵とが、徐々にお互い影響され合って、一歩前に進むことができる過程をイタおもしろせつなく描写した「馬車馬さんとビッグマウス」は、夢ってなんだろねと考えさせられた今年の傑作のひとつだ。

 「あたしだって、わかってるよ、自分に才能がないことくらい。でも一度もってしまったしまった夢って、どうやってあきらめたらいいか、わかんないんだよ」 
 天童の前でこう言って泣き崩れた馬淵も、天童が初めてちゃんと作品を提出することに決めたコンテストで、自分はこれでだめだったら終わりにしようと決心する。
 最後の作品は自分のことを書こう、夢を追いかけて叶わなかった自分をモデルにした作品を思い切り書いて、それでだめだったらあきらめがつくと、心に決める。
 この開き直りがよかったのか、彼女のシナリオが初めて認められて、映画化されることになり … 、とはいかないとこが、この映画のいいところだろう。

 夢を追って、それが叶う人の比率は、いったいどれくらいなのだろう。
 それを調べるには、当然何を「夢」とみなすかの定義が必要になってくる。
 「その人にとっての実現不可能性」と「本気で追い求める度合い」の積を夢の単位とする、というような。
 大きな夢であるほど、それを叶えた人の比率は少なくなる。
 アイドルになりたいとか、プロスポーツ選手になりたいとか、オリンピックに出たいとか、多くの人が夢見るものほど、叶える比率はすくない。
 それが現実だ。そういう現実を知っていて、周囲からとめられて、それでもやり続けられる人が「自分は夢を追っている」と言う資格のある人だ。
 そして資格のある人の中でも、ほんの一握りの人しか夢を叶えられないのが現実だ。
 そんなリアルさを、力むことなくさらっとつきつけ、夢叶わずに終わる主人公にも、愛おしむような視線をおくる。
 吉田監督も、長く業界にいれば、夢破れて去って行く若者の姿など、山ほど見て来たことだろう。
 自分は才能があふれているからこそ作品をつくり発表できるんだ、というようなおごりたぶった姿勢はみじんも感じない。
 夢を叶えた者にも、途上の人にも、新たな道を歩みはじめた者にも、ひとしく優しい視線をなげかけるような、愛おしさを感じる。
 監督のそんな思いを体現し、見事に演じた麻生さんは、まぎれもなく才能あふれる女優さんだ。
 でも、彼女に「才能があって、いいですね」って言ったとしたら、「そんなことないです、一生懸命やってるだけです」て言うような気がする。
 先生が教材研究をして授業するのと同じように、あたしは脚本よんで、役作りして演じてるだけですよって、言ってくれるような気がする。
 夢が叶ったかどうかは結局、その場所で、その人がどう生きているか、そのありようを本人がどう受け止めているかで決まるのかもしれない。
 
 それにしても、麻生さんはお見事でした。
 今年の主演女優賞をさしあげたい。あ、「箱入り息子の恋」の夏帆ちゃんもすてがたいな。
 「そして父になる」の真木よう子さんが助演女優賞、「みなさん、さようなら」の波瑠さんに新人賞を進呈する。
 舞台では、宅間FES「晩餐」で神がかり的お芝居をみせてくれた、田畑智子さんに決まりだ。

 

コメント (2)
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