前田敦子さんがAKBを「卒業」したとき、他人事ながらも、これから仕事あるの? と心配したのは自分だけではないと思う。でも、大丈夫だ。需要はある。このレベルの仕事ができるなら。
東京の大学を出たものの、就職せずに実家にもどってごろごろしているタマ子。
はっきりとした事情はあかされないが、母親はほかに男をつくって出て行き、姉も結婚して家を出、スポーツ店を営む父と二人暮らしをしている。
そうじ、洗濯、食事の支度は全部父親任せで、漫画を読みふけって毎日をすごしている。
かといって、ひきこもりとも言えない。
業を煮やした父親が「いい加減、就職活動しろ」と叱ると、「そのときが来たらちゃんとやる」「いつやるんだ!」「少なくとも、今ではない!!」と逆ギレしたりする。
そのだらだらぶりといい、父親との距離感といい、絶妙のリアルさで演じきっていた。
彼女を女優さんとして見たのは、「あしたの私のつくり方」で成海璃子さまの相方をしてた時。とくに印象はなかった。「苦役列車」は、なかなか存在感があった。あったけど、前田さんじゃなくても成立する役だったかな。
タマ子は前田さんじゃないとだめだ。あまりにも上手だったから、そう思うのかもしれないけど。
彼女くらいに有名な同年代の女優さんの場合、この役をやるには美しすぎる子が多い。
見た目的、知名度的にぱっとしない子をこの役に据えた場合、作品のあまりにリアルさゆえに、たんに素人の女の子が出ているだけに見えてしまう。
このキャスティングをした監督さんのセンスもすばらしい。
駿台の教員セミナーのあと、速攻で移動した新宿武蔵野館は満席で、立ち見のお客さんまでいた。
ていうか、都内でここしかやってなくて、武蔵野館の2番スクリーンは席数が100ないから、さすがに混むだろう。この作品なら、もっと大々的に上演されてもいいんじゃないかと思ったけど、南古谷ウニクスでお客さんが入るかというと、まあ、無理だろうなあ。
テレビドラマの拡大版系の作品より、百倍おもしろいと思うのだが。
派手派手の大作でなく、スリルとサスペンスもなく、大笑いも大泣きもさせない、でも観た人の心をなぜかあたたかくさせる … 。この映画のような演奏がしたい。