なにわオーケストラルウィンズの新しいCDを聴いた。
毎年、吹奏楽の名曲、いま流行っている曲、昔の定番曲など盛りだくさんに入ってるCDで、課題曲の演奏も参考になる。
バーンズ先生の「アパラチアン序曲」が入っていた。
コンクールに出始めたころに演奏したことがある。曲のグレードは3ぐらいかな。
難しくはないが、もちろん名曲だ。名曲だが大ネタではない。
しかし、NOWのみなさんが演奏すると、こんなにスケールの大きな曲になるのかとあらためて感心する。
落語に、前座噺とよばれるものがある。
課題曲にも用いられた「寿限無」などその典型で、短くて、サゲ(落ち)が明確で、登場人物も少なくて、基本的なお話。
吹奏楽で言えば、B♭調で書かれてて、トランペットの一番高い音も五線を越えてなくて、「はやい・おそい・はやい」の三部形式でできている、みたいなわかりやすい曲、そういうのにあたるかな。
前座さんが話しているそれを聞いても、ふつう爆笑にはならない。
先日、池袋演芸場で、桃月庵白酒師匠の「つる」を聴いた。
長屋に住む八五郎が、ご隠居のところにきて「鶴ってぇ鳥は、なんでつるって言うんです?」と問う。
ご隠居は言う。
よくぞ、お聞きなさった。昔、唐土から雄の首長鳥が「つー」っと飛んできて松の木にとまった。つづいて雌が「るー」っと飛んできてとまった。それ以来本朝ではつるとよぶんじゃな。
へえぇ、なるほどそうですか、いいこと聞いた、みんなに教えてやろう。
と八五郎は飛び出す。
知り合いをつかまえて、おい、鶴はなんで「つる」って言うか、知ってるか?
知らないよ。じゃね。
おい、待てよ、聞きたいだろ?
別に。じゃね。
おおい! 教えてやるよ、なんで「つる」って言うか。
いいよ、いそがしいんだよ。
そんなこと言わずに、言わせてくれよ。頼むよ。
なんだよ、しょうがねえな、じゃ言ってみろよ。
よくぞ、お聞きなさった。
だから聞いてねえよ。
いいから、聞けっつうの。よくぞ、お聞きなさった。その昔、唐土の方からな、雄が「つー」っと飛んできて松の木に「る」と留まった。つづいて雌が … あれ? 雌が … 、ご隠居ーーっ!
みたいな感じ。
ちょっと抜けた八五郎が、ご隠居にならったことをそのまま他の人の知ったかぶりして教えようとし、失敗する噺で、前座噺によくあるパターンだ。
こういう単純な噺も、いま最も勢いのある噺家の白酒師匠にかかるとこんなに面白くなるのかと感心した。
考えてみると、課題曲のマーチは前座噺的な曲だ。そんなに複雑な音楽ではない。
だからこそ、演奏する側の力量が、いやというほど表れる。
ちなみに白酒師匠が「つる」で爆笑させた何番目かあとに柳家喬太郎師匠があがる。
やくざの親分と、若い舎弟の会話からはじまる。この舎弟が、気合いは入っているが偏差値は2ぐらいしかない感じで、でも親分の言うことはなんでも、聞く。
抗争になりかけている相手のところに、鉄砲玉として行かせてください、おやじのために命惜しくないっす! 的なノリの青年。
はじめて聞く新作落語か?
親分はその舎弟をかわいがっている。電話が入る。
「何? ○○がたまとらるぇただと!」
緊迫の場面だ(ひょっとして全然ちがう噺になってるかもしれない)。
「おい、ヒデ(なまえもたぶんちがうな)」
「はいっ!」
「おめぇ、男になってみるか」
「はいっ!!」
「鶴って鳥はな … 、なんでつるって言うか、おめえ知ってるか?」
「??」
「鶴って言う鳥はな … 」
と続いていき、客席は一瞬あっけにとられ、その後の展開をきいてまた爆笑だった。
前座噺でも客席を爆笑させられる白酒師匠は一流の噺家だが、さらに上の次元に客をひっぱりあげる喬太郎師は、自分のワールドをもつ存在だ。
課題曲でここまでやったらもちろんアウトだが、譜面通り吹いたうえで、自分たちのワールドを表現できたら1ランク上の演奏になるだろう。
はい、もちろんまず譜面通りです。例年なかなかそこまで達してないので。