うわー!出かけようとするタイミングで雨が降ってきやがった。
土曜の夜の渋谷、電車のドアが開いた瞬間に奇声あげて走っていく頭のおかしな若者はいるわ、信号待ちのときも急に前に出てきて叫ぶ女子いるわで、こわ。
雨が降るだけでテンション上がってやがるのか、若者は。
というわけで私は渋谷のシアター・イメージフォーラムに来ていた。
半年ほど前、古谷経衡氏のCAMPFIREの映画製作のクラウドファンディングを見て、古谷氏が精神障害者であることを知り、衝動的に支援を決めた。(たったの2000円だが)
私は失礼ながら古谷氏の著作は一冊も目を通したことすらなく、ファンというわけでもなんでもない。コロナ前はよくメディアに出演していたから、認識は当然していた。
WEB上の記事くらいは読んだことがある。現代の政治家に推薦するマニアックな漫画を紹介するものだった。サブカル系の人という認識だ。
去年の衆院選の東浩紀主催によるニコ生特番で久々に姿を拝見し、豪快な泥酔っぷりに爆笑した。人前であそこまで泥酔できる人に悪い人はいない。それがきっかけで面白い人だなと思い、古谷氏のTwitterを見たら偶然、映画製作のクラウドファンディング募集のツイートを知ったのである。(どんなきっかけだ。)
私は介護施設で精神障害者の世話をした経験があり、精神障害者がどんな日常を送っているかに興味を抱いていた。
古谷氏は精神障害者と健常者の境目を映像で表現するべく、シアターイメージフォーラム映像研究所に入学し、自主映画を撮り始めたという。
イメージフォーラムに学校があることも知らなかった。
当日、イメージフォーラムをいつもと異なる入口から入り、受付に行くと古谷氏の姿が。周りは古谷氏と顔見知りのファンっぽい人も多く緊張したが、古谷氏以外の作品も上映されるためアウェー感はない。古谷氏と事務的な会話のみ交わしたが、見た目通り明るく、ユーモアに富む人であった。
視聴覚室のような部屋で上映スタート。
1作目、『UNDER PASS TOKYO』
画面を分割し東京の風景を描くというもの。誰しも一度は、頭の中で思い描いたことがある画面かもしれないが、実際にやってみるとなるとかなり面倒なことだろう。
地形をよく理解していないといけない。
本作で気づいたのは、こんなに広告の音声て多かったけ?てことだ。普段、聞き流していて意識に入ってこないのだ。
2作目、『Working Holiday』
私の好きな類の作品だ。海外からやってきた派遣労働者が感じる息苦しさ。
スクリーンの中にスクリーンが映し出され、その前に監督が立つことによって、実際にスクリーンの前に監督がいるかのような錯覚が生まれる。
派遣労働の虚しさは、『サウダーヂ』や『夜空はいつでも最高密度の青色だ』を思い出す。
皆2か月経ったら、別々の会社の人間だからお別れ。まあだから気が楽ってのはあるだろうが。
長編製作を目指しているとのことなので、ぜひ観たい。けど観るのはしんどそうだ。
3作目、『白に赤』
美大生っぽい作品。生理で血が白い生地を汚したのがきっかけで創ったという。
凄い感性の作品だ。
4作目、『3級』
いよいよお目当ての作品。正直、これまでの三作が濃密で主張も強かったゆえ、おなかいっぱいであったが、本作は長尺でテンポがゆっくりと進んでいくため、落ち着いて観ることができた。
生命保険会社とのやりとりから、精神障害者は生命保険にも入れないという点で健常者とは違うんですということを分かりやすく表現(今の時代、生命保険は実は入る必要性はないというけど)
軍歌調の曲を多用しているのが古谷氏っぽい。常に仕事の移動は車の古谷氏らしい、運転席からの映像。
内服薬一覧の説明。かなり強い薬ばかりで、介護施設で精神障害者に内服介助をしていた私の感覚からすると、これらを毎日内服しているのは衝撃だ。保険証を取り上げられていた高校時代の古谷氏の苦しみは想像に難くない。
私はてっきり精神障害者である古谷氏の日常を追ったドキュメントかと期待していたが、期待は見事に裏切られた。あらぬ方向に話が進んでいき、最後はギャグともとれる終わり方で幕を閉じる。予定調和を感じさせない。
初めは取材相手の女性の顔が隠れていたのに、途中から隠れていなかったのは意図があるのだろうか。
鑑賞後は頭の整理ができなかったが、古谷氏は「精神障害者でも頑張ってますみたいな作品はありきたりでつまらない」ようなことを語っていた。確かに、もし古谷氏の日常を追うだけなら、毎日薬飲んで、月1・2回通院してるのを撮るだけで終わる。あとは精神障害者手帳を出す場面で差別の反応を受けるかどうかとか。
そう考えると古谷氏のアプローチに納得できる。トイレの映像が流れたのは驚いた。
私はクラウドファンディングの寄付の際、本名で寄付するつもりが、備考欄に本名を入力し忘れたゆえ、スタッフロールに自分の名前は入らないと思っていたが、ユーザー名でしっかり入っていた。結構、ユーザー名で入っている人多かったな。ラッパーのダースレイダーの名前も入っていた。古谷氏とYoutubeで共演していた縁か。
古谷氏も含めて、受講生は何も映像作家になりたいという人ばかりが集まっているわけではなく、趣味で自己表現として受講している30代以上の人もたくさんいて、それぞれに表現したい衝動がこれほどまでに世の中に溜まっているんだ、ということを感じた。