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僕の読書ノート「わたしが「わたし」を助けに行こう―自分を救う心理学―(橋本翔太)」

2024-06-15 08:07:09 | 書評(脳科学・心理学)

 

中学生の子どもに読んでもらうのによさそうと思って買ったのだが、まずは私が読んでみてチェックすることにした。本書を簡単にまとめてみる。私たちはいろいろな問題行動を起こしてしまうが、それは、私自身とは別の存在が、私が傷つくことから守ってくれているからである。その別の存在をナイトと呼ぶことにしよう。そのナイトの存在に気がついて対話をし、いたわってあげることで、問題行動は減っていくという趣旨である。大人に向けた内容になっているが、文章がとても平易なので、半分大人の中学生ならおおむね理解できるだろう。

フォーカシングという一種の心理療法をベースに著者のアレンジがされている。フォーカシングを考案したユージン・ジェンドリンは、調べてみると来談者中心療法を開発したカール・ロジャースの弟子である。来談者中心療法は、来談者(患者)の全体を受け入れる、受容する療法であり、フォーカシングを展開する本書も、私やナイトを優しく受容するトーンで貫かれている。現代の心理療法の主流である認知行動療法でも、自動思考、デフォルドモードネットワークや、マインドなどとよぶ、私の意志とは無関係に自動的に動いている心のはたらきが様々な問題を起こしていると考え、これらを矯正、俯瞰視、相対化していくことを行う。フォーカシングも認知行動療法も、心の中の私とは別の存在を相手にするところは似ているが、そのアプロ―チの仕方が違うところがおもしろい。本書が紹介している心理療法の有効性の科学的エビデンスのレベルは不明ではあるが、心がそうとう弱っている人、愛着障害の人、未成年者にとっては、とっつきやすいし取り組んでみてもいいのではないだろうか。

 

本書の具体的な内容から、ポイントをピックアップしてみよう。

【1章 その「困った問題」はあなたを守っていた】

・人間は常に自分のメリットのために行動を選びます...それはずるいことではありません。そうやって生き延びてきた祖先たちの生き残りが私たち。進化の過程でDNAに組み込まれたプログラムのひとつだと思ってください。ーーー「困った行動」は本来、生きていくのに役に立つ性質であり、遺伝的に残されてきたのだという進化学的な目配せもされているところは、信頼できる。

・ナイトの大きな特徴は、1・不器用である、2・極端である、3・心配性である。

・ナイトくんの働きの一部をシンプルに表現すると、「認知の歪み」のひとつと言い換えることもできます。ーーー過剰に心配して悪いほうへ悪いほうへと考えてしまう心のはたらき、まさに認知行動療法が対象としているところとの共通点にも言及している。

【2章 あなたを守るために生まれたもうひとりの「あなた」】

・ナイトくんは、毒親、ネグレクト、機能不全家族などから生まれることが多い。しかし、そのような極端な状況の家庭や両親の元で育った人だけではなく、家庭内のなんらかの問題や、学校でのいじめ、友人関係の悩み、自身の闘病の経験などからもナイトくんは誕生する。つらい状況に寄り添ってくれる大人、わかってくれる大人がいなかった場合に、あなたが傷つかないように、ナイトくんが誕生する。

・外界からの刺激をキャッチして、「あなたが傷つけられてしまう!」とナイトくんが判断した瞬間に、自動的にスイッチが起こって、ナイトくんが前面に出てきてくれる。

・ナイトくんに入れ替わって起こることは、例えば次のようなことがある。「カーッと怒りが湧いてきて怒鳴る」「予定をドタキャンしてしまう」「不安で何もできなくなってしまう」「お酒が止まらない」「過食してしまう」「部屋が片づけられなくなる」「何もかもイヤになってしまう」「やる気が出ない」「不安で仕方なくなる」「SNSなどのインターネットをついダラダラと見てしまう」

【3章 あなたの問題を解決する方法「ナイトくんワーク」】

・ナイトくんとコミュニケーションを取ることが、問題を解決することにつながる。その「ナイトくんワーク」の7ステップは次のようになる。ステップ1「ナイトくんを見つける」、ステップ2「ナイトくんに名前をつける」、ステップ3「質問を通して対話をする」、ステップ4「ナイトくんを労い、もうひとりではないことを伝える」、ステップ5「ナイトくんに自分が大人になったことを伝える」、ステップ6「これからも、隣にいてもらうように伝える」、ステップ7「またお話をしようね、と伝えて対話を終了する」。



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