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wakabyの物見遊山

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僕の読書ノート「LIFE SHIFT ライフ・シフト(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット)」

2025-04-26 08:15:29 | 書評(働き方)

ここのところ、1泊2日での大学同窓会旅行、家族の外食会、ミニ副業、その他いろいろな所要と、用事が立て込んでいたため、ブログ更新のペースが落ちています。今回、3週間ぶりでのアップです。この間、goo blogサービス終了のお知らせもあり、2025年7月5日の大津波予言も知ったりと、今後のことでいろいろ考えなければならないことが溜まってきました。

 

 

私は2024年9月に会社を定年退職し、その後は同じ会社に再雇用されてエキスパート社員として勤務している。しかし、今後どのような仕事をしていくことになるかは未確定であり、何ができるのか考え中である。これからの時代の人生と仕事の設計について書かれた本として、本書は有名であり、押さえておくべきだと思い読んでみた。教育・仕事・引退からなるこれまでの3ステージの人生は、長寿化によって成り立たなくなり、マルチステージの人生を考えていかなければならないというのが本書の趣旨である。本書は2016年の著だが、2025年の今でも十分に新しい提案である。

章ごとに、私なりのポイントをピックアップしておきたい。

序章 100年ライフ

・長寿化時代の私たちの人生には、経済、金融、人間心理、社会、医学、人口構成が影響を及ぼす。しかし、本書は、なによりもあなたについての本である。あなたが自分の人生をどのように計画するかが最大のテーマだ。あなたは、これまでより多くの選択肢を手にし、多くの変化を経験するようになる。そうなったときに大きな意味をもつのは、あなたがどのような人間なのか、なにを大切に生きているのか、なにを人生の土台にしたいのかという点だ。

第1章 長い生涯ー長寿という贈り物

・2007年にアメリカやカナダ、イタリア、フランスで生まれた子どもの50%は、少なくとも104歳まで生きる見通しだ。日本の子どもにいたっては、なんと107歳まで生きる確率が50%ある。

第2章 過去の資金計画ー教育・仕事・引退モデルの崩壊

・大学の講義などで老後の生活資金の計算結果を示すと、重苦しい沈黙が生まれることが多い。当然ながら、長く生きるようになれば、より多くのお金が必要だ。そうなると、所得から蓄えに回す割合を増やすか、働く年数を増やすしかない。そうなると、長寿という贈り物は一転して忌災の種になる。その現実に対処するために、私たちはみな古い常識から脱却し、3ステージの人生という固定観念を捨てる必要がある。そのような発想の転換ができれば、長寿化を忌災の種ではなく、恩恵に変えられる。

第3章 雇用の未来ー機械化・AI後の働き方

・テクノロジーは雇用に好影響を及ぼすのか、悪影響を及ぼすのかというのは、私たちの将来を大きく左右する重要な問題だ。テクノロジーの観点からは、次のような見方になる。イノベーションの速度が目を見張るほど加速しており、機械は人間には太刀打ちできないような知能をもつようになる。その結果、人間の労働者は機械に取って代わられ、いくら教育に投資しても、安定したキャリアと満足いく所得を手にできない時代になるという。それに対し、経済学の観点から見ると状況はもっと明るい。テクノロジーは雇用を奪うだけでなく、それによって補完される雇用も新たに生むし、経済生産を増やして雇用を増加させる効果もあるというのだ。それに、まだ予見されていない新しい製品やサービスが登場し、新しい産業が台頭して、それが経済成長を牽引することも期待される。

・テクノロジーの進歩によって消滅しない職に就きたいなら、次の二つのカテゴリーから職を探すべきだ。一つは、人間が「絶対優位」をもっている仕事、もう一つは、人間が「比較優位」をもっている仕事である。前者は、人間がロボットや人工知能より優れた課題処理能力をもっている仕事のことだ。創造性、共感、問題解決、そしてドアを開けるなどの多くの身体的作業に関しては、いまのところは人間が明らかに絶対優位をもっている。テクノロジー専門家のなかには、いずれロボットと人工知能がこれらの分野でも人間を凌駕する日が来ると予測する人たちもいる。しかし、それでも人間が比較優位をもつ分野は残る。未来の高所得の職は、そこに存在する。

第4章 見えない「資産」ーお金に換算できないもの

・お金は確かに重要だが、ほとんどの人はそれ自体を目的にしていない。私たちがお金を稼ぐのは、それと交換にさまざまなものが得られるからだ。私たちはたいてい、やさしい家族、素晴らしい友人、高度なスキルと知識、肉体的・精神的な健康に恵まれた人生を「よい人生」と考える。これらはすべて無形の資産だ。長く生産的な人生を築くために、有形の金銭的資産と同じくらい、無形の資産も重要だということは、誰もが納得できるだろう。もっとも、無i形の資産と有形の資産を完全に切り離せるわけではない。むしろ、有形の資産は無形の資産の形成を強く後押しし、無形の資産は有形の資産の形成を強く後押しする。

・無形の資産には非常に多くのものが含まれる。長寿化との関係を基準に、これらを三つのカテゴリーに分類できる。一つ目は生産性資産。スキルと知識が主たる構成要素である。二つ目は活力資産。健康、友人関係、パートナーやその他の家族との良好な関係などが該当する。最後は変身資産。自分についてよく知っていること、多様性に富んだ人的ネットワークをもっていること、新しい経験に対して開かれた姿勢をもっていることなどが含まれる。

・マルチステージの人生には、あるステージから別のステージに移行、変化させていくことが必要だ。心理学と社会学の分野では、移行に成功する条件を解明しようとする研究が精力的に行われてきたが、そうした研究を通じて、互いに関連のある三つの要素が浮かび上がってきている。第一に、変身を成功させるためには、自分についてある程度理解していることが不可欠だ。そこで必要とされるのが、社会学者アンソニー・ギデンスの言う「再帰的プロジェクト」だ。これは簡単に言えば、自分の過去、現在、未来についてほぼ絶え間なく自問し続けることである。第二に、変身を遂げるとき、人は新しい人的ネットワークに加わる。活力と多様性に富むネットワークをすでに築いている人ほど、円滑な移行を遂げやすい。第三に、変身のプロセスが受け身の体験ではないことも明白だ。私たちは、考えることではなく、行動することによって変化に到達する。

第5章 新しいシナリオー可能性を広げる

(昔から未来のそれぞれ3つの時代に生きる3人を例にあげて、人生の可能性を考察している)

第6章 新しいステージー選択肢の多様化

・100年ライフで多くのステージといくつもの移行を経験するようになれば、柔軟性が不可欠な資質になる。思春期の特徴を大人になっても保持し続けることの価値が増すのだ。そのように動物が幼体の性質を残したまま成体になることを、進化生物学では「ネオテニー(幼形成熟)」と呼ぶ。将来は、50代や60代の人たちの姿も、あなたのおじいさんやおばあさんがその年齢だった頃に比べて概して若々しく見えるようになる。肉体的な面だけではない。服装や行動も若くなる。

・三つの新しいステージ(エクスプローラー、インディペンデント・プロデューサー、ポートフォリオ・ワーカー)は、私たちが未知の行動に踏み出し、経験から学ぶ機会をふんだんに生み出す。古い習慣や行動パターンを問い直し、固定観念に疑問を投げかけ、人生のさまざまな要素を統合できる生き方を実験する機会になる。

・エクスプローラー(探検者)として生きるのに年齢は関係ないが、多くの人にとって、このステージを生きるのにとりわけ適した時期が三つある。それは、18~30歳ぐらいの時期、40代半ばの時期、そして70~80歳ぐらいの時期である。これらの時期は、現状を再確認し、自分のもっている選択肢について理解を深め、みずからの信念と価値観について深く考える時間にできる。

・起業家は過去のどの時代にもいた。しかし、本書で「起業家」ではなく「インディペンデント・プロデューサー(=独立生産者)」という言葉を使うのは、ビジネスの規模と本人の野心のスケールを正しく表現したかったからだ。インディペンデント・プロデューサーは基本的に、永続的な企業をつくろうと思っていない。事業を成長させて売却することを目的にしていないのだ。彼らがおこなうのは、もっと一時的なビジネスだ。ときには、目の前のチャンスを生かすための一回限りのビジネスの場合もある。このステージを生きる人たちは、成功することよりも、ビジネスの活動自体を目的にしている。

・人生には、一種類の活動に専念する時期がある。高給を受け取れる企業の職に就いたり、自分のビジネスを立ち上げたり、エクスプローラーとしてさまざまな可能性を探索したり、フルタイムの学生に戻ったりする時期がそうだ。しかし、さまざまな活動に同時並行で取り組みたい時期もある。そのように、異なる種類の活動を同時におこなうのがポートフォリオ・ワーカーのステージだ。ほかの新しいステージと同様、これも特定の年齢層には限定されない。この人生のステージでは、必然的にいくつもの動機に突き動かされて生きることになる。金銭的資産を増やすことも動機の一つになるし、人生のさまざまな可能性を探索することも動機の一つになる。活力と刺激を得ることや、学習すること、それに社会に貢献することも動機になる。

第7章 新しいお金の考え方ー必要な資金をどう得るか

・引退者を対象にした最近の調査によると、70%の人はもっとお金をためておけばよかったと後悔している。寿命が長くなれば、長い年数働き、多くのお金を蓄えることは避けて通れない。適切な資金計画を立てるためには、自己効力感(自分ならできる、という認識)と自己主体感(みずから取り組む、という認識)の両方の要素を備えている必要がある。自己効力感は、資金計画に現実性をもたせ、貯蓄への意欲の大きさなど、自分についての知識を充実させることをともなう。一方、適切な行動を取るためには、自己主体感に基づく自制心を発揮し、自分の現在のニーズと未来のニーズのバランスを取る必要がある。ここで自問すべきなのは、「70~80歳になったときの私は、いま私がくだしている決断を評価するだろうか?」という問いだ。

・現在の行動が未来の自分に影響を及ぼすことを理解し、必要なセルフ・コントロールをすべきなのは、金融の分野に限った話ではない。生産的で充実した人生を100年以上生きるうえで核になるのは、セルフ・コントロールの能力なのである。セルフ・コントロールの失敗は、いま社会科学で脚光を浴びているテーマの一つだ。神経学、心理学、経済学の知見を組み合わせる形で研究が進められている。セルフ・コントロールがうまくいかない理由は、脳の異なる領域同士の戦いという図式で見るとわかりやすい。脳の前頭葉は進化のプロセスで比較的最近に(約15万年前)発達した領域であり、これが人間とほかの動物の違いを生む。認知的・合理的思考と長期計画をつかさどるのが前頭葉なのだ。しかし、脳にはもっと古くから存在する辺縁系という領域もある。これは、人の情緒的、本能的反応をつかさどる領域だ。

第8章 新しい時間の使い方ー自分のリ・クリエーションへ

・長寿化により勤労人生が長くなる未来について考えるとき、多くの人は、1日8時間働いて週2日休み日々をイメージしているかもしれない。しかし、そうした時間配分を見直すべき時期に来ていると、著者たちは考えている。所得効果に関するケインズの考え方(人は所得が増えると、大半のモノやサービスの消費を増やしたくなる。そうした消費の対象には余暇も含まれるので、生産性が向上して賃金が上昇すれば、1日の労働時間が減り、週末の日数が増え、年間の休日が多くなるという)が引き続き当てはまるとすれば、今後は余暇時間がさらに増え、労働時間はさらに減る可能性が高い。

・平均寿命が延び、無形の資産への投資が多く求められるようになれば、余暇時間の使い方も変わる。時間を消費するのではなく、無形の資産に時間を投資するケースが増えるだろう。レクリエーション(娯楽)ではなく、自己のリ・クリエーション(再創造)に時間を使うようになるのだ。「労働時間の節約は自由時間を増やす。つまり、個人の発達を完成させるための時間をもたらすのである」と、カール・マルクスも述べていた。リ・クリエーションは個人単位で実践されることが多く、一人ひとりが自分なりにリ・クリエーションとレクリエーションを組み合わせて余暇時間を形づくるようになるだろう。

第9章 未来の人間関係ー私生活はこう変わる

終章 変革への課題

・100年ライフの時代には、人生の時間は、繁殖という進化上の役割を果たすために必要とされるより長く、金銭面の安定を確保するにも十分すぎるくらいになる。子づくりと貯蓄に使わずに済む時間は、どのような活動に費やされるのか?人生のさまざまな時期に時間的ゆとりが増えれば、自分がどういう人間かを探求する機会を得られるのだろうか?それにより、自分が生まれた社会の伝統に従うのではなく、みずからの価値観や希望に沿った生き方ができるようになれば、それ以上の「長寿の贈り物」はおそらくないだろう。

・昔のように特定のロールモデルに従っていればいい時代ではなくなり、ありうる自己像の選択肢が大きく広がる時代には、実験を通じて、なにが自分にとってうまくいくのか、自分がなにを楽しく感じ、なにに価値を見いだすのか、なにが自分という人間と共鳴するのかを知る必要がある。実験は、若者だけのものではない。それは、あらゆる年齢層の人にとってきわめて大きな意味をもつ。私たちを次の地点に導き、どのように移行を成し遂げればいいかを明らかにするのは、実験なのだ。実験と探求は、一人の人間の人生を貫く要素の一部を成すものである。


僕の読書ノート「定年前と定年後の働き方(石山恒貴)」

2024-11-23 08:04:59 | 書評(働き方)

 

私は、今年の9月に60歳で定年退職になり、10月からは同じ会社で再雇用によるエキスパート社員として働いている。このような働き方が最善なのかどうかはわからない。収入の面と自らのスキルの活用という面では、ある程度理にかなった働き方だとは思うが、定年後に他にどんな働き方があるのか知りたいと思い本書を読んでみた。

本書の章の構成と、私なりに気になった点を下記に記したい。一つの組織内での働き方を提案している第3・4・5章より、より多様な形態での働き方を提案している第6章以降がおもしろかった。

第1章 シニアへの見方を変えるーエイジズムの罠

・これまでの日本の実態では、50代以降のシニアの働き方を補助的なものとしか考えていなかった。それを象徴する言葉が「福祉的雇用」である。企業はシニアが職場の戦力として中核になるとは、さらさら考えていない。しかし、社会的責任としてシニアを雇用する必要がある。そこで、本当は職場でさほど必要とされていない業務を作り出し、しぶしぶシニアを雇用する。これが、これまでの福祉的雇用の意味だった。これからの日本社会では、一刻も早く福祉的雇用の考えを脱し、シニアを職場の中核と考える必要がある。結晶性知能も流動性知能も定年前後の60代では高く維持され、明確に低下していくのは80代以降だとする研究も示されている。定年年齢の60歳以降に急にシニアの能力が衰えるという見方は非現実的である。

第2章 幸福感のU字型カーブとエイジング・パラドックス

・幸福は、ハピネス(感情)、サティスファクション(生活評価)、ウェルビーイング、エウダイモニアという4つの言葉で使い分けられている。エウダイモニアとはアリストテレスが唱えた考え方であり、観照的生活を意味し、哲学者のためのような生活であり、善を目指して生きることなのだという。言い換えると、人生における意義や目的を考えながら生きるということになる。本書の結論は、エウダイモニアの実現こそが、シニアの働き方思考法なのである。

・幸福感は年齢にともなってU字型カーブを描く。つまり、シニアから加齢にともない幸福感が高まっていく。シニアになり加齢していくと、様々な喪失や衰えがあるはずなのに、幸福感が高まっていくことは矛盾(パラドックス)と受け取れるので、エイジング・パラドックスと呼ばれる。エイジング・パラドックスを説明する様々な理論の中に、シニアの幸福感を高める働き方思考法を実現するヒントがあると考えられる。

第3章 エイジング・パラドックスの理論をヒントに働き方思考法を考える

(SSTとSOT理論の説明があるが省略)

第4章 主体的な職務開発のための考え方ージョブ・クラフティング

(ジョブ・クラフティングの説明があるが省略)

第5章 組織側のシニアへの取り組み

(組織からシニアへの権限移譲の大切さの説明があるが省略)

第6章 シニア労働者の働き方の選択肢

・シニアが何をしたいかという選択は、個人が自由に行えばいいと考える。何もしないという選択肢ももちろんある。

・定年後の仕事のあり方には、現職継続、転職、起業の他に、時間や場所に縛られない柔軟な就業形態であるフリーランスという選択肢が付け加わる。

・さらに、モザイクという考えを選択肢に加えることができる。現役世代は、家計を支える観点からも、フルタイム労働でしっかり収入を確保したいというニーズが強い。しかしシニアには、働きたい時間、働きたい場所だけで働くというニーズもある。そこで各人の就労をモザイク的に組み合わせ、それによって複数人でひとり分のフルタイム就労に相当する仕事に対応するという発想である。

・モザイク型就労が進んでいくと、フルタイムで働く従来型の現職継続、転職、起業、フリーランスにくわえて、モザイク型の現職継続、転職、起業、フリーランスという選択肢が誕生する。たとえば、現職継続の場合、定年再雇用の際には、週5日ではなく、週2~3日だけ働く、午前だけ働く、といういうようなモザイク型現職継続が可能は企業はすでにある。そうなると、もっと選択肢は増える。モザイクの組み合わせである。モザイク型現職継続+モザイク型フリーランス、モザイク型転職+モザイク型フリーランスなどの組み合わせだ。シニアの働き方の選択肢は、より多様化が進んでいくと思われる。

・フリーランスの区分の一つにギグワークがある。デジタル・プラットフォームを利用した単発の仕事がギグワークと呼ばれるようになった。リモート性や裁量性の高いギグワークとして、スキルシェアサービスがあり、スポットコンサルティング(ビザスクなど)、得意なスキルのシェア(ココナラなど)、講師スキルのシェア(ストアカなど)などがある。

・モザイク型フリーランスとして、オンライン・リモート副業がシニアの新しい選択肢になり得る。副業については「本業は雇用+副業も雇用」という組み合わせだけでなく、「本業は雇用+副業は業務委託契約(=フリーランス)」という組み合わせが一般的である。オンライン・リモート副業は大別すると、中堅・中小企業の経営者の相談相手となるメンター型と、一定の期間(たとえば3か月や半年)を目途に具体的に定めた目標をプロジェクト的に達成していくタスク型に区別できる。オンライン・リモート副業の普及を先駆的に推進してきた企業が、「JOINS」である。

第7章 シニアへの越境学習のススメ

・越境学習、つまりアウェイでの学習がシニアにとって有効だとしている。理由として、自分にとって意義ある目的が見つけやすくなること、多世代かつ多様な人々と対話をすることによって年齢・地位・役職の上下にこだわらないコミュニケーションができるようになること、葛藤を経験し自己調整できることの3つがあげられている。

・チャールズ・ハンディは、人生の役割として4つのワークを定義した。4つのワークとはそれぞれ、賃金を得るための活動である「有給ワーク」、家庭の様々な活動を行う「家庭ワーク」、社会や地域に貢献する「ギフトワーク」、多種多様な学習活動を行う「学習ワーク」である。越境学習におけるアウェイの場とは、この4つのワークの中で、自分がアウェイと感じられる場はすべからく該当する。

・シニアの越境学習の場の事例として、「はちおうじ志民塾」、「八王子市市民活動支援センター」、「川崎プロボノ部」が紹介されている。同様の組織は、それ以外の各地域にもあるのだろう。

第8章 サードエイジを幸福に生きる

・シニアの働き方にとっては「個人事業主マインド」が重要だという。個人事業主マインドとは、雇用されているか否かに拘わらず、個人事業主のような気持で働いていくことだ。そのためには収入は細く長く考える、働き方は組み合わせる、蓄積してきたスキル(専門性)を重視することが大事だという。

・そのようは働き方思考の醸成や専門性・スキルを棚卸するために、シニアがキャリアコンサルタントや教育機関を活用することも望ましい。筆者が関わってきた団体がいくつか紹介されている。「シニアセカンドキャリア推進協会」は、シニアのセカンドキャリアに関するセミナーや研修、勉強会を実施している。「ライフシフト社」は、80歳まで現役で活躍するために、シニアに様々な研修プログラムを提供している。「フリーランス協会」は、自分のキャリアを自律的に歩みたいと考える全ての人のためのインフラとコミュニティづくりを目指す団体である。「インディペンデント・コントラクター協会」は、インディペンデント・コントラクターと呼ばれる専門性の高い期限付きの業務を請負契約によって働く人々の場づくりの団体である。


僕の読書ノート「在野研究ビギナーズ(荒木優太)」

2020-11-28 08:37:06 | 書評(働き方)

 

研究者にもいろいろいる。家で趣味のような研究をしている自称研究者から、アカデミズムの頂点に君臨する東大教授まで。以前、東大の物理学科教授の本「研究者としてうまくやっていくには(長谷川修司)」を読んだことがある。自信にみなぎった筆致で書かれていて、こういうレベルの研究者は研究力だけでなくコミュニケーション力とプレゼンテーション力に長けていて、大学でも企業でも行政でもどこに行っても成功できるような人材なのだろうと思った。それに比べると、「在野研究ビギナーズ」に出てくる在野研究者たちは、自らの生き方に悩みながらも、研究をやりたいという強い欲求を実現するために精一杯苦労して生きている人たちで、一言で研究者と言ってもずいぶんと違う印象がある。

世界の中で見ると、日本の科学研究の競争力はそうとう低下してきているとよく言われる。それは海外と比べて、国から大学に支給される研究費が減り続けているからだという。さらに、多くの大学は学生の教育機関になってしまっていて、研究ができていない。研究しかできない「研究バカ」を雇う覚悟もなければ、資金もない。そんな時代になると、在野研究の価値も高まってくるのではないだろうか。本書を読んで見えてきた研究者の定義とは、研究をやって、論文あるいは著書を出す人、つまり研究成果を世の中にアウトプットしている人たちである。残念ながら「在野研究ビギナーズ」に出てくる18名の研究者のうち、理系の研究者は1名のみであった。また、大学でも在野でもない、企業の研究者については触れられていなかった。文系の研究法は基本的に文献調査なので、比較的、在野でも研究をやりやすいということもあるのかもしれない。在野研究者の先駆者として出てくるのは、イバン・イリイチや山本哲士だ。

本書に出てくる唯一の理系研究者は、昆虫のハエ類(双翅目)の分類を研究している熊澤辰徳氏である。熊澤氏は、ウェブサイト「知られざる双翅目のために」やプロ・アマ問わず投稿ができるウェブ雑誌「ニッチェ・ライフ」を運営している。どちらも覗いてみたが、「ニッチェ・ライフ」のほうは生物に関する研究や様々な文章が掲載されていて内容も読みやすそうである。その中の熊澤氏によるコラム「自宅に研究室を持つ――DIY Biology の現在とこれから」には、専門的な実験装置をいかに安価にそろえるかという海外での試みが紹介されていて興味深かった。こうした在野研究がもっと盛り上がれば面白いのにと思った。

人文学を研究する石井雅巳氏による文章では、図書館の利用や大学院生との共同研究なども可能な島根県立大学の市民研究員制度が紹介されていた。こうした制度は他の公的研究機関でも実施しているところがあるようなので、在野研究者が研究機関の資産を活用したり人的なつながりを持つのに役に立つ可能性がある。

本書に出てくる研究者たちはそれぞれ、推薦本を紹介している。その中で、山本貴光氏+吉川浩満氏が紹介している「アイデア大全ー創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール(読書猿)」は勉強になりそうだ。


書評「研究者としてうまくやっていくには(長谷川修司)」

2019-02-10 21:59:01 | 書評(働き方)



私も民間企業でサラリーマン研究者のはしくれとしてやってきたが、研究者といえばやはり大学教授がイメージされるだろう。企業の研究者を経て、エリート中のエリートともいえる東京大学理学部物理学科の教授にまで登り詰めた著者が、研究者として成功するための必要条件や資質、ノウハウなどを開示しているので、興味を持って読んでみた。

本書で全体を通して力説されていることとして、研究者にとって大変重要なものは、研究そのもののスキルは当然のことだが、他の職業でも一般的に言われていることと同じ、「コミュニケーション力」と「プレゼンテーション力」だという。

プレゼンは、研究者としての「生死」を分ける最重要事項という。国内学会や国際会議で印象に残るプレゼンをすることは、研究者としてのステップアップに決定的に重要だとしている。プレゼンの仕方の一つのポイントとして、「胸が開く」形でプレゼンすること、それによって聴衆に向かっている、聴衆を受け入れているという暗黙のサインになって、印象が良くなるということが心理学的に知られているという。
プレゼンは「お客様本位」の説明が重要である。相手によって説明の仕方を変えるのである。聴衆の種類は、(a)同じ専門分野の研究者たち、(b)専門が少しずつ違ったいろいろな分野の研究者たち、(c)まったくの素人の一般市民や中学生・高校生たち、に分かれる。一般講演はタイプ(a)のプレゼンでいいが、招待講演になるとタイプ(b)のプレゼンにする必要がある。この場合、前提知識のレベルを少し下げ、分野やトピックスのオーバービューのために講演時間の半分程度を費やし、後半の半分を自分の最新の研究成果の発表に当てるべきだという。
また、大学の教員が学生に研究内容を説明するとき、学生は自然の謎に挑むために大学院で研究するわけなので、すべてわかったように説明してはダメである。半分ぐらいは理解できないように研究内容を説明するテクニックが必要で、それによって学生は興味を持ってくれるという。一方、会社で自分の研究内容を説明するときは、会社で給料をもらいながら研究しているのに、「まだ謎が解明されていません」という説明をしてしまってはダメで、聞いている人をわかった気にさせる説明をすることが大事だという。

研究者としての道は、修士課程―博士課程―ポスドク・助教―准教授―教授・グループリーダー、と段階があるが、それぞれの段階で重要なことは変化してくる。
著者は、最初の大学院生(修士課程)のときに小さな成功体験があり、それに快感を覚えて研究者の道を歩み出したという。だから小さくてもいいので成功体験を早い段階で味わうことはとても大切だという。それには教授から学生への研究テーマの出し方も重要なのだろう。そして、博士課程で身につけてほしいこととして、夢や憧れは胸の奥にしまい、学会発表や論文といったアウトプットをコンスタントに出すという「プロ意識」をあげている。
ポスドク・助教であれば、学会で、未来の雇い主になるかもしれない教授やシニア研究者たちに自分をアピールするために、発表だけでなく、他の講演者の発表に対する質疑応答を利用することが有効だという。気の効いた質問、本質をついた質問などを頻繁にしていると教授たちの目に止まりやすい。その質問も、教授や准教授レベルの先輩格には挑むような質問をして、逆に、大学院生らしき若手の講演者には教育的な質問などをして使い分けると、印象が格段によくなる。また、質問が出ない講演に対して積極的に質問すると、あいつは空気の読める研究者だな、とシニア教授などの好印象を持たれる。そのような気配りがプロの研究者として生きていくために必要だとしている。
大学などが准教授レベルの研究者を選ぶときは、極めて慎重になるという。研究能力だけでなく、教育者としての指導力、さらに管理職的なマネジメント能力が重要になる。応募者の中から、まず書類審査で候補者を数名に絞り、次に採用面接を行う。ここで、自分の研究実績と計画、教育や研究グループ運営への方針や抱負を述べる。そして、これらのことについて多面的で厳しい質問を受ける。インタビューでのプレゼンと質疑応答を見れば、専門の違う審査員や教員にも、その候補者が有能なのかどうか判断できてしまう。まったくの素人の学生たちを自分の研究分野に惹きつけたり、非専門家が審査員の研究費をとってきたりするための力と同じものが試されることになる。プレゼンの事前準備は入念にしなければならない。
さらに、教授を雇うときは、その教授候補者の善し悪しだけでなく、その候補者が背負っている専門分野が、その学科・専攻、あるいはその研究所に必要かどうかが審査される。以前は、定年になった教授の後任として同じ分野の新しい教授を迎え入れていたが、現在では、ゼロベースで学科・専攻の将来を議論して、そのポジションに座るべき新しい教授の分野を決める。そして、教授はむしろ自分の研究はさておき、自分の専門とする学術分野全体を、一般市民はもちろん他分野の専門家にも説得力を持って語れなければならないとしている。

さて、「おわりに」で、著者は本書を出版社から依頼されて書いたのではなく、自発的に書いて出版社に原稿を売り込み、断れたら次の出版社にあたればいいと考えていたという。実際に、3、4社から出版を断られた本がベストセラーになった例はいくらでもあるという。本を出したいのなら、そういうやり方もありなんだと思った。