wakabyの物見遊山

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ヨコハマトリエンナーレ2017(横浜美術館)

2017-10-28 19:35:12 | 美術館・展覧会
ヨコハマトリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」に行ってきました。

会場は横浜美術館、横浜赤レンガ倉庫1号館、横浜市開港記念会館の3か所ありますが、この日行ったのはメイン会場の横浜美術館だけです(2017年10月9日)。他の会場については後日紹介します。会期は2017年8月4日~11月5日なので、もうすぐ終わりです。


三年に一度開催されるこのイベントは、今年で6回目とのこと。私としては初めての参加です。「接続性」と「孤立」から世界のいまをどう考えうるか?というテーマで、「島と星座とガラパゴス」というタイトルになったそうです。世界の40組のアーティストが選ばれて、テーマに沿った作品を出展しています。


野毛の横浜市立中央図書館で私用を済ませてから、桜木町を経由して横浜美術館に向かう途中、日本丸がちょうど、帆を張る総帆展帆(そうはんてんぱん)をやっていました。


けっこう沢山の人たちが作業していました。約100名のボランティアだそうです。


横浜美術館に着きました。外壁になにやら飾り付けがされています。


アイ・ウェイウェイの作品です。これは欧州の難民たちが使った救命ボートを表しているそうです。


これは実際に使われた救命胴衣だそうです。
作家のアイ・ウェイウェイは先日紹介した「めくるめく現代アート」にも掲載されていた中国人の著名な現代アート作家で、最近まで中国当局に監禁されていて、解放後はベルリンに在住している反骨のアーティストです。こういう中国人がいることを知ると、中国もまだ捨てたもんじゃないなと思ったりするわけです。




ジョコ・アヴィアント。竹を編み上げているそうです。


マップオフィスという作家チームの作品の一つ。どの作家もそうですが、複数の作品を組み合わせてインスタレーションのような形の展示になっています。


ミスター。


ロブ・プルイット。


アン・サマット。


ザ・プロペラ・グループ、トゥアン・アンドリュー・グエン。






上の人体を拡大すると。
ここまでマウリツィオ・カテラン。



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風間サチコ。
第二次世界大戦ごろの日本の価値観のような。
これは妙なインパクトがあります。


マーク・ステファニアーニ。
これはトンネルが続いているように見える仕掛けです。実際は続いていません。


パオラ・ピヴィ。




オラファー・エリアソン。
ワークショップをやっていて、賛同者がグリーンライトを組み立てているようなのです。それを我々観客に見せているのです。


最後に、養老孟司氏のこんなメッセージが出ていました。「なんだこれは」「わけがわからない」でいいんですよね、現代アートを見るときは。氏の意見に賛同です。理屈を考える以前に、見てびっくりしたり、おもしろがっていればいいんですよね。そうさせる作品がいい現代アートなんだと思います。


現代アートに合う音楽は、ポップミュージックより、むしろ前衛的なモダンジャズだと思います。マイルス・デイヴィスのビッチズ・ブリューはBGMにいいんじゃないかな。
Miles Davis - Bitches Brew


書評「めくるめく現代アート(筧菜奈子)」

2017-10-21 17:20:56 | 書評(アート・音楽)


現代アートはわかりにくいというイメージがある。つまり、見た目から受ける印象の裏側にそれぞれいろんなコンセプトやらメッセージやらが込められていて、それを知らないと十分理解できなくなっているからである。それをくつがえしてくれたのが
「村上隆のスーパーフラット・コレクション」展で、現代アートを、作品が最も高額で取引されるダミアン(本書ではデミアンと表記)・ハーストから無名の作家までフラットに並べて好き勝手に見てくださいというものだった。そこでは、コンセプトもへったくれもなくて、それぞれの作品を自分の感性で「いい、おもしろい」とか「よくない、つまらない」とか感じていればよかったとのだと理解している。そうはいっても、現代アートについてある程度の知識があれば、いままで何とも思わなかった作品にも関心が向かうのかもしれない。それはそれで自分の芸術体験を豊かにしてくれるのに違いない。そんな現代アートについての最低限の知識をコンパクトにまとめてくれたのが本書である。

前半では、40人の代表的な現代アートのアーティストを、それぞれ見開き2ページで紹介してくれる。後半では、現代アートについてのキーワードを38個取り上げて説明している。いずれもたくさんの自筆のイラストを使ってわかりやすくしている。この著者はまだ大学院に在学中だが、才能とアクティビティがある人のようだ。紹介されている40人のアーティストのうち、名前を知っていたのは3分の1くらいか。ヨーゼフ・ボイスやナム・ジュン・パイクのように名前はよく見るけど、どんな作品を作っていたのか知らなかった人もいる。ジェームズ・タレルやアニッシュ・カプーアのように金沢21世紀美術館で作品は見ていたけれど、そんなに高名な作家だとこの本で初めて知った人もいる。この40名以外にも、多くの作家がキーワード説明のところに出てくるので、作家名で引ける索引を最後に付けてほしかった。


現代アートとポップミュージックとの関係は深い。例を挙げれば、オノ・ヨーコの元夫がジョン・レノンであったり、マシュー・バーニーの元妻がビョークであったり。ダミアン・ハーストはブリットポップとのつながりが深くて自分でもバンドFat Lesをやっていたが、音楽的にはいまいちだった。ここではダミアン・ハーストが監督したブラーのPVを紹介したい。ただのおバカなPVにしか見えないが...
Blur - Country House



書評「ブッダの真理のことば・感興のことば(中村元訳) 」

2017-10-01 16:36:29 | 書評(仏教)


原始仏教の経典、中村元訳による「真理のことば(ダンマパダ) 感興のことば(ウダーナヴァルガ)」である。平易な日本語の詩集のような形になっており、われわれのイメージする難解な言葉が連なる一般的なお経とは異なっている。いきなり本文から読み始めるより、あとがきを先によんで、これらの経典の出自や翻訳の方法などを知ってから本文を読んだほうが、内容が頭に入りやすいだろう。そして詳細な訳注が付いているが、翻訳する上で参考にした様々な原典や資料のこと、翻訳者の考えなどが書き留められているノートなので、本文を読みながら訳注をいちいち見ていくと、読むリズムが出なくなる。だから、訳注を見るのは後回しにすることをお勧めしたい。

では、あとがきから。まず「ダンマパダ」とは、パーリ語で書かれた短い詩集で、423の詩句が26章にまとめられており、主として出家修行僧のために説かれていて、仏教の実践を教えたおそらく最も著名で影響力のある詩集だという。これの成立年次はかなり古いが議論のあるところだとして、具体的には示されていない。漢訳の「法句経」に相当する。「ウダーナヴァルガ」は、「ダンマパダ」や他のいくつかの経典の詩句を集めたものである。カニシカ王(2~3世紀?)よりあとで作られたのであろうと述べられている。これのサンスクリット原本にもとづいて邦訳している。

『ダンマパダ』
・釈迦は、死んだらどうなるか述べなかったと言われているが、この経典では「あの世」や「死後」が頻繁に出てくる。例えば、「168 奮い起てよ。怠けてはならぬ。善い行いのことわりを実行せよ。ことわりに従って行なう人は、この世でも、あの世でも、安楽に臥す。」「224 真実を語れ。怒るな。請われたならば、乏しいなかから与えよ。これらの三つの事によって(死後には天の)神々のもとに至り得るであろう。」
・悩みを持たないで楽しく生きることを勧めている。「198 悩める人々のあいだにあって、悩み無く、大いに楽しく生きよう。悩める人々のあいだにあって、悩み無く暮そう。」
・「第20章 道」には、「八正道」「四諦」「諸行無常」「一切皆苦」「諸法無我」といった仏教の根本思想が出てくる。
・2種類の意識のはたらかせ方(瞑想法)が言及される。「384 バラモンが二つのことがら(=止と観)について彼岸に達した(=完全になった)ならば、かれはよく知る人であるので、かれの束縛はすべて消え失せるであろう。」ここで、心を練って一切の外境や乱想に動かされず、心を特定の対象にそそいで心のはたらきを静めるのを「止」(サマタ)といい、それによって正しい智慧を起こし、対象を如実に観るのを「観」(ヴィパッサナー)という。
・「417 人間の絆を捨て、天界の絆を越え、すべての絆をはなれた人、―かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。」ここで出てくる「天界の絆」とは、天の世界に住む神々といえども束縛の絆を受けていることをいう。神々といっても、人間よりはすぐれた存在であるというだけで、やはり変化や苦悩を受ける生存者であり、まだ解脱していない。初期仏教では、神々よりも、解脱した人間のほうがすぐれた存在なのである。

『ウダーナヴァルガ』
・「第16章の1 未来になすべきことをあらかじめ心がけておるべきである。―なすべき時に、わがなすべき仕事をそこなうことのないように。準備してなすべきことをつねに準備している人を、なすべき時になすべき仕事が害うことはない。」将来なすべきことがあるのなら、しっかり準備しておくべし。
・「第27章の41 (無明に)覆われて凡夫は、諸のつくり出されたものを苦しみであるとは見ないのであるが、その(無明が)あるが故に、すがたをさらに吟味して見るということが起こるのである。この(無明が)消失したときには、すがたをさらに吟味して見るということも消滅するのである。」訳注で、多分に大乗仏教の空観、例えば「般若心経」を思わせる思想である。後代に挿入されたものであろうと述べている。大乗仏教の思想も一部含まれているのである。
・「ダンマパダ」では、ブッダは複数形で示されていたから、幾人もいて差し支えなかった。ところが「ウダーナヴァルガ」ではブッダは単数で示されており、初期の仏教から思想が変遷しつつあることがうかがえる。

ダンマパダにもウダーナヴァルガにも、安心の境地という意味のニルヴァーナという言葉が頻出する。ニルヴァーナという名のバンドがいたが、そんな境地からは遠かった。きっと憧れていたんだろうけれど。YouTubeには、ビートルズのアクロス・ザ・ユニバースをニルヴァーナのボーカリスト、カート・コバーンがカバーしたという音源が出ているが、これの真贋ははっきりしない。ここでは、本家本物のビートルズのアクロス・ザ・ユニバースをどうぞ。仏教観を感じる曲だ。
Beatles - Across the universe (Best version)