史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

「松陰の歩いた道」 海原徹著 ミネルヴァ書房

2015年07月25日 | 書評
幕末を生きた同時代人の中で、松陰ほど全国を歩き回った人物はほかにいない。吉田松陰といえば、その「肩書き」は、革命家、或は思想家、教育家、兵学者といったところであるが、実は旅行者、紀行作家としても当代一の存在であった。松陰は克明な旅の記録を残している。もし、松陰が出版業の盛んな今の時代に生きていれば、その道で食っていけたかもしれない。
松陰が全国を旅し、記録を残してくれたおかげで、全国に足跡を示す石碑が残された。本書はそのほぼ全てを網羅して紹介しようという意欲的な本である。私も史跡を探訪する際には、その土地に松陰が行った事実があるか、行ったとすれば何か残されていないかを事前にチェックするようにしている。結果、かなり松陰関連史跡を訪ねてきたと自負しているが、改めて本書で確認すると、まだまだ未踏の史跡があることを思い知らされた(特にみちのくの史跡はこれからですね)。
筆者が「あとがき」でいうように、松陰関連の石碑の登場には時代的な偏りがある。松陰の事績を掘り起こして、そこに石碑を建てようという試みが動き出したのは、「維新後、それも明治二十年代に入ってから」という。さらに昭和十年代後半には、神州日本と結び付けられた松陰崇拝ブームに乗って、各地に次々と記念碑が造られるようになった。
戦後しばらくはその反省と批判を含めてそういった動きは鎮静化し、「一時はタブー視された」時期もあったが、開国百年を迎えた昭和三十年代から維新百年記念イベントが活発化した昭和四十年代に向けて、盛んに記念碑が建てられることになった。足元の大河ドラマに端を発した松陰ブーム?で、また新しい史跡が生み出されるかもしれない。時代背景を意識しながら、石碑を訪ねると興味が倍化するだろう。
筆者は、松陰関連記念碑の地域的偏りとか、環境の変化にも言及する。全国の松陰関連の碑を実際に訪ねて見て来た筆者の実感のこもった発言に納得である。

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