史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

「相楽総三とその同志」 長谷川伸著 中公文庫

2012年07月06日 | 書評
ついにこの本を手に入れた。ネットで検索していると、たまたま八王子の古書店に在庫があることが分かったので早速注文した。八王子というところに何かの縁を感じた。数日して実物が届いた。よく確認せずに注文した私が悪いのだが、届いたのは上巻だけだった。
もう一度ネットで探すと、吉祥寺の古書店に在庫があることが判明した。今度は上下巻揃っていた。週末、吉祥寺まで行ってようやく手に入れた(上下巻で二千円でした)。

著者長谷川伸は、この本のことを「紙の記念碑」「筆の香華」と呼んでいる。
長い物語は、相楽総三の遺子河次郎の子、(つまり総三の孫)木村亀太郎が、総三の雪冤のために立ち上るところから書き起こされる。亀太郎は、知己を頼って時の高官である元帥大山巌や板垣退助、南部甕男、渋沢栄一らを訪ね、次第に真相を明らかにしていく。亀太郎は、決して経済的に余裕のある生活を送っていたわけではないが、顔も見たことのない祖父の雪冤のために奔走する。いったいこの執念はどこから生まれたのだろうか。
しかし、五十年以上も前の出来事を証明するのは容易ではない。まだ維新の生き残りがいた時代ではあったが、せっかく探し当てた生き証人が、相楽総三という名前を聞いただけで硬く口を閉ざすこともあった。
相楽総三没後六十年以上を経て、ようやく総三以下赤報隊の面々は、靖国に合祀されることになった。
それにしても、相楽総三が浪士を糾合して起こした幕末の騒乱については、あまり知られていないし、小説やドラマに取り上げられることも少ない。大きく分けると、野州出流山と相州荻野山中陣屋、甲州の三カ所で挙兵するという壮大な計画であった。出流山の挙兵は呆気なく鎮圧され、甲州へ派遣された部隊は間諜の密告により八王子で壊滅した。荻野山中陣屋を襲撃した部隊は、直ぐに三田薩摩藩邸に引き返したため、さしたる衝撃を与えぬままであった。その間、我々が知らない無名の志士が、数知れず命を落とした。長谷川伸は、その一人ひとりの行く末を河原の石ころを拾い上げるようにして追いかけていく。ここまで無名の志士の人生を紹介した本を、私はほかに知らない。
著者長谷川伸自身がいうように、この作品はまさに「紙の記念碑」と呼ぶに相応しい。歴史に埋没した無名の人たちを掘り起こして顕彰する。このような作品を継続して刊行するのは出版社の義務ではないのか。再刊されることを切に望む。

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