音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

タルカス (エマーソン、レイク&パーマー/1971年)

2010-08-16 | ロック (プログレッシヴ)


EL&Pは、プログレバンドとしては比較的後発組だったために、かなり恵まれた環境にあったと言える。ピンクフロイドが1970年に発表した「原子心母」は数々の物議と、プログレッシブロックという音楽の存在を各方面にアピールした。この頃、クリムゾンは2枚目の「ポセイドンのめざめ」を、イエスは「時間と言葉」を発表したばかりであったが、EL&Pはまだデビューすらしていなかった。だからデビューアルバム自体が、まさに鳴り物入りのデビューであったのだ。

そして、この第2作めの「タルカス」は、音楽ファンの期待以上どころか、彼らの斬新な発想には度肝を抜かれたに違いないと思う。正直、私も最初にこのアルバムを聴いたときには良い意味でも悪い意味でも理解不能であった。しかし、ひとつだけ救いがあったのは、「原子心母より後に発売された」ということに他ならない。ジャケットのアルマジロ戦車は凄い迫力で、勿論風刺なのであるが、それは既に「原子心母の牛」のジャケット画と、更に現代への風刺のパンチ力は、この怪物の勢いを既に半減してくれていたし、大作「タルカス」も、既にアルバムの片側を全部使ってしまうという、マーラー交響曲の1小節分みたいな試みも「原子心母」で体験済み。曲の発想や構成も、色々な音が集まっている「原子心母」の方が申し訳ないが実に面白い。そんな訳で、これだけ奇抜なアイデアも、何処か二番煎じではないが、勝手に免疫ができていて、然程、プログレの驚きには繋がらなかった(寧ろ「展覧会の絵」の方が驚きだ・・・)。しかし、私的にはそこに驚かずにすんだことで、このバンドの音楽性をとても冷静に直視することのできた作品としては非常に評価も高いし、その部分は先鞭をつけてくれたフロイドには御礼を言っても良いと思う。タイトル曲「タルカス」は音楽構成的に、実に魅力のある作品である。まず、8分の10の変拍子には驚かされるというより、音楽の魂を奮い立たされる気がする。当時からこの変拍子は、「現代音楽とロックの完全のな合で、キースとカールの音楽界への挑戦状である」と、当時からかなり持て囃されたものであった。同時にこのタイトル曲ではグレッグのメロディアスな感覚と歌詞、ヴォーカルが実に調和している。まさにスーパートリオなのであり、しかも、「原子心母」がプログレの名を借りてオケとの融合や多種多彩な楽器と共演など、色々なことをやってくれたお陰で、EL&Pの場合は、「3人」を軸にして、限られた楽器を使用しての出した迫力という点では、このバンドのテクニシャンとしての評価は益々上がっていったのである。さらにここで活躍しているのがモーグ・シンセサイザーである。ファーストアルバムでは余り積極的に使用されていない同シンセを、この曲では十二分に披露してくれたことが、まさに新しい音楽の到来を示してくれたのだと思う。また、このアルバムに収録されたそれ以外の曲では、キースのお得意なホンキー・トンク・ピアノ・ブルースがあり、また、なんとも驚いてしまうのが即興録音したロックン・ロール曲がとても雑な構成であるにも関わらず、不思議のこのアルバムではトータル的に面白い試みとなってしまっている。今さら彼らに、元々はR&Bだと言ってもらう必要もないのだが・・・。

このバンドに関して言うと、正直なところ「恐怖の頭脳改革」までは、はっきりいって失敗作がない。但し、それは彼らの音楽テクニックが、アラをみせないという謂わば隠れ蓑なのかもしれない。というのは、このバンドは確かに高度なことをやっていて、それがイコール彼らの「プログレッシブ」な面である。つまりは逆に言うとそれ以上の面白さがあるかというと、音楽の魅力は、イエスやフロイドの方が遥かに深い。他のバンドと違って、プログレの王道が轢かれてしまっているところを歩いてしまっているに過ぎなかったのかもしれないという事実をプログレファンではなく冷却された現在から振り返ると、そう思えて仕方ないのである。


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