音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

シルク・ディグリーズ (ボズ・スキャッグス/1976年)

2010-10-21 | 男性ヴォーカル


AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)というジャンルが流行した時代があった。これは日本での通称であり、最初はオリエンテッドをオリエンタルに間違えて書いていた人も多かった。そもそもはアメリカでいうAC(アダルト・コンテンポラリー)であり、そのチャートが存在した時代もあった。元々はこのAORはオーディオ・オリエンテッド・ロックが変遷したもので、アメリカのACと混合してしまった。まぁ、そんなことはどうでもよいのであるが、その代表格というとTOTO、クリストファー・クロスとこのボズ・スキャッグスではないか。特に、この「シルク・ディグリーズ」は、色々な意味で一世を風靡した作品である。

ボズのルーツはR&Bである。彼はスティーヴ・ミラーとの親交が厚くギターも彼に習った。その後はボズもソロ作品を出して、スティーヴ・ミラーのバンドにも参加、レコーディングにもメンバーとして加わっていた。このアルバムに加わったこともあり、ポリドールからアトランティックに移籍をした。しかし暫くヒットに恵まれず、この作品が最初のヒットであるが、これが新しいサウンドの誕生となった。このアルバムからは名曲として後世に残る、「ウィー・アー・オール・アローン」がそもそもA面シングル扱いではなかったが大ヒットとなり、スタンダードロックヴォーカルナンバーとしての地位も獲得し、また、ディスコのチーク・タイムの定番曲となった。ボズのサウンドが当時とても新鮮に感じらせれた背景には、技術も経験も豊富なスタジオ・ミュージシャンの存在があった。音楽とは勿論、楽譜に描かれた音符の再現である一方で、音楽家の頭のどこかに存在している想像の表現であり、その表現法のひとつして音符が存在する。要は出た音がその想像と一致しているかは大事なことで、クラシックの大音楽家といわれる人たちは、その表現と想像の葛藤であった。だからピアノという楽器が出来た時は、その表現をオケを使わずに再現することができるメリットの大きさに、音楽は一気に広がりを見せたのである。このアルバムも同じで、ボズはここで共演したミュージシャンたちには絶大な信頼を持っていた。如何にミュージシャンであっても、自分の最初に想像した音が再現されないと、それが何度か繰り返していくうちに、最初の想像を忘れてしまうそうである。それはつまり、音符として記号では正しいものが示されているにも関わらず、それが自分の想像と違うことが続けば、自ずと自分の想像が間違っていたと思ってしまうらしい。それほど音とは正確なものなのである。だが、このメンバーはしっかりとボズの音を簡単に再現することができたために、とても新鮮な音楽としてアメリカ市場に紹介されたのである。そして何と言ってもこの作品に参加したスタジオ・ミュージシャンのうち、デヴィッド・ペイチ、デヴィッド・ハンゲイト、ジェフ・ポーカロの3人は、これがきっかけとなり後々にバンドを結成し、これがかの有名なTOTOである。

ボズは日本でも大ヒットした。丁度時代は1970年代の後半で、高度成長期がひと段落した安定期で、当時の若者は皆、新しいセンスを求めていた。特にティーン・エイジャーがとてもお洒落に走った時代でもあり、また、20代は余暇と趣味に悦楽を求め投資も怠らなかった時代に、ボズはどこか汗くさい感じのするロックと比べるととても都会的で、「アダルト」という横文字の象徴とされた嫌いもあった。要するに、「いい時代」だったのである。


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