音楽は語るなかれ

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ピアノソナタ第16番イ短調 (フランツ・ペーター・シューベルト)

2010-07-02 | クラシック (ピアノ曲)


シューベルトは分かっているだけで21曲のピアノソナタを作曲しているが、実際に最後まで書きあげたとされる完成品は約半分であり、歌曲を除くと、比較的完成品が多いジャンルでもある。この16番イ短調は然程認知度は高くなかった(無論ピアノを習っている人は別だが…)が、やはり「のだめ」で一般にも知られる事になった。そしてシューベルト自身もこの第16番以降のピアノソナタはすべて曲を完成させている。

「のだめ」では、彼女が表現にとても苦労する曲なので、そのイメージが視聴者に植え付けられ、シューベルトは偏屈な作曲家の様に取られがちだが、この作曲家は健康には恵まれなかったが音楽の才能は天性のものでモーツァルトにも匹敵する。この曲の楽想もしかりで、第1楽章からその才能は如何なく発揮されている。特に冒頭のユニゾンは楽章全体を覆っていて平易な演奏ゆえに、この曲に情感を込めるのは難しい。更に展開部で16分音符の急速な進行を見せるが、すぐに終わるという辺りは、野田恵ちゃんが「気難しい」と言っていたこの曲の特性であろうか。私はこのレベルのピアノコンテストというのは出場したことがないし鑑賞したこともないから分からないが、こんな難曲を課題にするというのは余程の表現力に自信がないと出来ないことだと思う。しかも、この曲が一般的に良く言われているのが管弦楽曲の草稿説で、緩やかなユニゾンの多用はこの楽章の特徴であろう。更に第2楽章になると変奏曲形式で、ここはとてもロマン派っぽさが出ている。ベートーヴェンには見られない発想で、寧ろモーツァルトに近いが、これはもしかしらオーストリア音楽家の特徴なのかもしれない。最終楽章ではロンド形式だが、転調が多く調整が不安定。だが、最後に第1楽章の動機が現れて、曲全体は纏まった終わり方をしている。この長短調の混在はなにか、シューベルトの不健康が元の精神状態を表している様で、私も大概のロンド形式は好きだが、この曲は中々好きになれるロンドではない。また、結果論で言えば、この楽章には常にどうやって曲を終わらせたら良いのかという迷いに似たものが感じられる。それをロマン派音楽と胎動と取るか否かは評論家の範疇なので敢えて明言は避けるが、私的には、シューベルト自身の緊張感が良く伝わってくる曲だと思っている。

シューベルトは偏屈でも、気難しい人でもなく、何しろ健康に不安を抱えて生きていた人だった。私はいつも彼の音楽はその観点をもって聴いている。しかし、彼の音楽には時たま、弾けるような明るい音が発見できる。そして、実はその音こそがシューベルトの正体なのではないかと思っている。


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