新しい菊の供えられた
小さな教会墓地の
柵の前を左に曲がると
森は半日歩いても終わらない
栗の純林だ
山道のあちこちで
ぼくのすぐ傍らでも
イガの落ちる音がする
帽子をかぶっていないと
痛い目にあうに違いない
ここの栗は野生種に近く
小粒だがとても美味しい
拾っていきたいところだが
今日の目的はもっと先だ
古代ケルトの遺跡と思われる
巨石の間を通り
見通しの良い尾根に出て
向う側に下りると
小さな湖
畔に田舎風のレストランがあり
冬は暖炉が焚かれて
水を見ながらゆっくりランチも楽しめるのだが
今日の目的はもう少し先だ
快調に歩き続けて息の弾む頃
森の中の空き地に出る
緩やかに傾斜した草地で
こちら側 いちばん高い縁に
木のベンチが置いてある
誰もいない
まだ露に湿っているが
構わずに腰を下ろす
雲の切れ目から差し込む日の光が
あたり一面の黄葉を燃え上がらせる
恩寵の証しのように
これこそ黄金の秋だ
頭の上の葉群れは
光に透けている
細かな葉脈まで見える
昨夜の雨の名残りの
葉の先の雫が
ひとつひとつに森全体を映して
歓喜に輝き
その幾粒かが
ぼくの顔に落ちる
そうだぼくはここに
大事な約束を思い出しに来たのだ
(パリ郊外 ムードンの森)