今年の日本シリーズは昨年、一昨年ともに最下位だったヤクルトとオリックスの顔合わせである▼最下位であろうと精進すればわずかな期間で力をつけることもある。それを証明してみせた二つのチームに励まされた方もいるだろう▼最下位からの優勝と聞いて小欄の世代が思い出すのは一九七五年、「赤ヘル旋風」の広島カープである。カープに初優勝をもたらした名将、古葉竹識さんが亡くなった。八十五歳▼あの年もカープが優勝できるとどれだけの人が予想したか。ルーツ監督は判定への不満などから開幕早々に退団。その後を引き受けた古葉さんがチームをまとめ上げ、ペナントをつかみとった。創設当時は資金難に泣き、市民の募金によって遠征費を捻出したと伝わる、万年下位球団の初優勝。広島の市民はどんなにうれしかったか。数十万人が集まった歓喜の優勝パレードがよみがえる▼南海コーチ時代に野村克也さんの采配を学んだという。どんな局面にも顔色ひとつ変えない冷静さとわずかなチャンスでも一点を確実にものにする野球は敵チームからすればいやらしかった▼ベンチではバットケースの陰に隠れるように立っていた。あの位置に立つとすべて見えたそうだ。「選手がきちんとした動きをしたかどうかも全部分かるんです」。きっと、これからもバットケースの陰から日本野球を見守ってくれるだろう。
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