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今日の筆洗

2018年08月25日 | Weblog

  台本にある自分の役を見て、声を上げたという。<苗字(みょうじ)のある役だワ>。女優の菅井きんさんだ(著書『わき役 ふけ役 いびり役』)▼農家の娘トメの役で舞台にデビューして以来、苗字なしの役ばかりを演じてきた。だから、中村せん役がうれしい。テレビ時代劇『必殺仕事人』などの意地の悪い姑(しゅうとめ)。これにかけた。深夜、自宅のベッドで四つの音の高低、強弱を何度も練習したという。練りに練ってできあがったのがあのせりふだ。「婿殿」▼<女優は美人がなるものだ>という父の強い反対を押し切って、進んだ演劇の道だった。補欠合格で劇団研修生になり、その後脇役を多く演じる▼映画やテレビドラマでも、主役に縁が薄い中で、磨かれたのが、「脇役は一瞬の爆発が勝負」という思いだという。カメラがこちらを向く短い時間をいかに演じるか▼『必殺仕事人』の姑役が多くの人の心に強い印象をもたらしたのは、そんな思いがあったからだろう。現実には、意地悪とは縁遠い方だったようだが、きつい姑を語り、思うとき、中村せんとあのせりふを思い出す人は、今なお多いはずだ▼九十二歳で、世を去った。姑役ばかりではない。人情味のある庶民、秘めたやさしさを感じさせる母。演じる姿はいくらでも浮かんでくる。日本の母親像と同時に、脇役のよさ、生きがいを伝えた。そんな女優ではなかっただろうか。

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