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「彼女と母親の墓」5

2017年07月14日 | T.B.2020年

 数日後、彼女は再度、墓地へと向かう。

 もちろん、父親には内緒だ。

 墓地の入り口に着くと、彼女は目を見開く。
 この前の彼がいる。

「驚いた」

 彼女が云う。

「何が?」
「また、会えたから」

 彼は首を傾げる。
「君のお母さんのお墓、見つけると約束したから」
「……ありがとう」
 彼は頷く。
「優しいのね」

 彼女は笑う。

 空を見る。

 父親に気付かれる前に、また、自分の屋敷に戻らなくてはいけない。
 そんなに、時間はない。

「急いで探そうか?」
「うん」
 彼の言葉に、彼女が頷く。

 彼と彼女は、墓地の少し奥へと向かう。

「そのお墓、立派ね」
 彼の目の前のお墓を見て、彼女が云う。
「この形は、高位家系の人だね」
「ひょっとして、母様の?」
「いや、違う」
「ずっと、昔の人かしら」
 彼女が云う。
「私とも血がつながってるのかな」
「たぶんね」
「なんて書いてある?」
「え?」
 彼女が云う。
「そのお墓の人の、名まえ」
「名まえ?」

 思わず、彼は焦る。

「墓石に掘ってあるでしょう?」
 彼女が訊く。
「そのお墓の人の名まえは?」

 彼は、彼女を見る。

 息を吐く。

 墓石にふれる。
 掘ってあるであろう名まえを、指でなぞる。

「……?」

 彼女は、彼をのぞき込む。
「何をやっているの?」
 彼女が訊く。
「旧すぎて、読めない?」

 彼が、首を振る。
 云う。

「光院、て、書いてある」
「ふぅん?」
 彼女が云う。
「知らない名まえだわ」
「本当に?」
「うん。でも、確かに高位家系系列の名まえね」
「今の宗主の、お兄さんだよ」
「そうなの?」
「そう」
「知らない」

 彼女が云う。

「母様のお墓も、きっと、こんな形なんだわ」

 彼と彼女は、墓を探し続ける。

 日が少し、傾いてくる。

 彼女は顔を上げ、彼を見る。
 云う。
「見つからないね」
「そうだね」
「……ごめんなさい」
「え?」
 彼女が云う。
「よく考えたら、こんなことに付き合ってもらって……」
「別に、いいよ?」

 彼女は、空を見る。

「時間?」
 彼の言葉に、彼女は頷く。

「今日も、ありがとう」
「うん」

「また、会える?」

「うん」
「絶対?」
「うん」

「……ありがとう」

 彼女は、はにかむ。



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