新幹線など公共交通を利用中や、少しの時間つぶしの時などに欠かせない文庫本ですが、たまに「早く終わらないかな」と無理やり文字を追っていることがあります(つまりハズレ)
今回はひさしぶりに、「読み進むのがもったいない」「もうすこし、じっくりと読みたい」という小説にあたりました。
荻原 浩 氏の若年性アルツハイマー病を題材とした一冊です。主人公が認知症となり、「恥をかく」場面を想像すると、なにか読み始めるのがためらわれ、後回しにしていたのですが、もちろんこの小説にもそのような場面はありますが、それほどひどくはありません。印象に残る文章がたくさんありました。
たとえば「歳を取り、未来がが少なくなることは悪いことばかりじゃない。その分、思い出が増える。それに気づくとほんの少し心が軽くなった」と、これは約束を忘れてしまい、周囲から年寄り扱いをされた時の言葉(まだ本人も周囲も病気だとは知らない時期)
また、この病気と告知されてからは「もしも私の身体が、私から記憶を奪い取ろうとしているのなら、それを防御しなくてはならない。自分を守るのだ。自分自身から」「徹底的に付き合ってやる。アルツハイマー氏と」と。
また、「アルツハイマーが死に至る病気だということだ。言葉や思考に続いて身体の機能も奪われていく。体が生きることを忘れていくのだ」と。
担当医は「治せるとはいいません。でも少なくとも食い止めることは可能です。少なくとも随伴症状は押さえられます。何でもおっしゃってください。あなたに何が起ころうとも、それはあなたの責任ではないのですから」と。
この小説を読みながら、付箋をたくさん貼り付けていました。後で読み直したい所だからです。そしてこれらはその一部です。
高齢者のアルツハイマー病と若年性のアルツハイマー病は、発症年齢が65才で区別されるようです。こちらをご覧になってくれている方はほとんどまだその年齢じゃなくて、この主人公のようになる可能性はあるわけです(私もぎりぎり)
小説を読む時、しおりに付箋をたくさんつけています。これは途中で登場人物が分からなくなり、読み返す事が多くなったための対抗策として最近使い始めました。
これまで2/3ぐらい読み進んだところですが、読み終えた時には「なにか残る」一冊になるように感じています。この荻原 氏の作品はいくつかこれまで読みましたけどユーモアを楽しませる方だと思っていました。守備範囲は広そうです。
梅雨を思わせるような雨の休日。庭のあじさいとたぬきを眺めながら、このような一冊と過ごすのは、なんだか贅沢です。