カゲロウの、ショクジ風景。

この店、で、料理、ガ、食べてみたいナ!
と、その程度、に、思っていただければ・・・。

亀廣永

2011年05月08日 | 京都
「彼の頃の、幼き夢想。」

蝉が鳴く、ジィジィジィジィ。
地面に出来る己の影が、
穴ぼこのように真っ黒だ。
痒くてすぐに剥がしてしまう、
かさぶたの傷とともに、
剥き出しの腕が焦げて
ジリジリと水分が蒸発するのにも構わずに、
少年はカブト獲りに出掛ける。

だがしかし、少し離れた土地に住む親戚は、
カブト獲りのことを、ゲンジ獲りと言う。
ゲンジとは、特定のクワガタの事だけを言うのであって、
本カブもクワガタも合わせた言い方は、
やはり、カブトと言うのが正しいのではないかと、
その田舎の少年は思いつつ、駆ける。

夜になると、
蝉の代わりに
蛙の声と、想いが空間を埋め尽くし、
水田の水面のひと隅に、
朧な月の姿が映るような、そんな処では、
然程、アスファルトの道から離れた場所でなくとも、
少々太めの幹であっても、
水草履を履いた細い足で、
思いっ切り蹴飛ばせば、
カブトは木から落ちてくる。
昼でも夜でも、落ちてくる。
ミヤマクワガタは、特に握力が弱いのか、
獲ってもガッカリして棄てたくなる、
それ程に、落ちてくる。

そして、これは蹴っても無理かと思う、
そんな厳かに太い雑木の幹からは、
往々にして、重く樹液が垂れている。

暑さも忘れ、喉の渇きを感じることもなく、
カブト獲りに熱中していた少年は、
その雫を見い出して、ふと、甘美な味を想像する。
昼の明るさは、その欲望を押し止めるが、
夜の暗さに包まれた中では、
その誘惑を断ち切ることも出来ず、
少年は、その雫をすくい取り、
舐めてみようと、思い、至る。

だがしかし、その雫は、
深く輝く琥珀色の瑞々しさとは
打って変わった硬さ、
それだけを、少年の指先に伝えてくる。
それにもめげず、
少年はその樹液を幹から引き剥がし、
おそるおそる、舐めてみる。
だが、極上の甘さを与えてくれること、
それを期待した琥珀の雫は、何の味覚も、
苦味さえも、少年にもたらしてはくれない。

少年が大人になって、
初めて舐めた、
「したたり」という、その和菓子。
子供の頃に切望した、
あの夏の陽射しの下の、
そして、冷えた暗闇の中の
そうあるべき樹液の夢の味、
それはちょうど、こんな味だったのだろう、
そんな気がする。


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