カゲロウの、ショクジ風景。

この店、で、料理、ガ、食べてみたいナ!
と、その程度、に、思っていただければ・・・。

味苑

2009年08月22日 | 京都
「世の中には、その二種類の人しかいない。」

火鍋、これをいただくと、生まれ変わることが出来ます、ウソではありません。
つまり、食べる前と食べた後、別の自分を発見できるということです。
果たしてそれは、どういう意味なのか?
詐欺師っぽい言い回しはともかく、そのことをまず述べましょう。

経験した人にはわかることですが、その鍋で茹った食材を口元に持っていき、食べるのと同時にその湯気を器官に吸い込んでしまいますと、辛さでムセます。
その地獄のような赤さを見れば予想のつくことではありますが、湯気だけでもそのくらい辛いということです。
まさかそれが、通常、人の口にする料理であるということが信じ難い赤さです。
しかしそれを食べても命に別状ないということは、今現在まだ四川に人がいるということが証明しているので、大丈夫です、たぶん。
ただ、中国四千年の歴史というお題目が頭になければ、到底口にするのも憚るというのが、正直な印象の赤さです。
その辛さを的確にお伝えする表現力がなく、大変申し訳ないことですが、これは正直、味覚としての辛味の範疇を軽く超えているものと思われます。
いくら食は万里を超え、そして医食同源とはいえども、この料理は食の範疇から外れていると言われてもおかしくはないとさえ思える外見と中身、これはいわば夏バテ解消のための薬と言っても過言ではないでしょう。
このように述べますと、まるで良薬口に苦しというばかりで、まるで美味しくないかのように受け取られてしまうかもしれないのですが、それは全くの誤解です。
辛い、でも旨い!でも辛い!滝のような汗で洗顔中のような顔になりながらも、何故か、在るなら食べないと損なような気になってくるのは、さすが中国四千年の歴史の産物です。

そして肝は、その効用です。
その辛さを超えた辛さのためでしょうか、即効で味覚の幅が広がるとでも申しましょうか、相撲取りが入門当初の稽古で行うという股割りのようなものでありましょうか、これまでの自分の限界を超えた経験のせいで、さっきまで辛いばかりに感じていた他の料理の味が、ハッキリとわかるようになるではありませんか!
本場四川仕込みの坦々麺でさえ、その旨み、そして甘さが、ハッキリと感じられます。
非常に個人的な感覚ではありますが、この火鍋を食べずして、これまでの人生、坦々麺の本当の旨さなど、全然わかってはいなかったと思えるほどです。

こちらのお店では、この火鍋が一人前2,800円+税で、二人前から注文することが出来ます。
ただ、二人で行くと、基本的にはこの火鍋しか食べることが出来ないことになりますので、やはり三人以上で行って、何か他の料理を注文し、味わうことのできる余地を作るのが、より賢明な策かと思われます。

では、本題はこのくらいにして、以下余談です。

そもそも、なぜ特に辛いものマニアなわけではないにもかかわらず、この火鍋を食べようという気になったのかといいますと、先日、滋賀に仕事で行った帰り道、何を食べようか迷うことがありました。
京都蹴上方面への帰り道、以前にcelina96さんがレビューしておられた山科の胡 YEBISUがふと眼に入り、最近フェリーさんがレビューしておられたのもあって、んじゃココにしようということに相成りました。
ちょっとこ洒落た外観に、さほど過大な期待も抱かず入ったそのお店、意外にもかなりの旨さの坦々麺!
世の中、坦々麺といえば辛いだけというお店もなきにしもあらず。
これは今夏、坦々麺巡りをせねば!という気にさせるお店でありました。

そしてその数日後、以前にも行ったことのあるタンタンヌードゥルショップ 担担へ。
・・・んー、期待しすぎ?
あまり以前の記憶が残っていないことを思うと、やはり・・・。
では、TAK0923さんオススメの風来房に行かねば!と、さらに後日思うも、留守番電話の仰ることに、何とタイミング悪く夏休みとのこと。
そこで'09/08/17のこと、中国火鍋専門店 小肥羊 新宿店を、いつもお世話になっているassyassyさんがレビューアップされました。
坦々麺に取り付かれていたこの頭に、その火鍋の画像がどう映ったか!言うまでもありません。
タベタイタベタイドウシテモタベナケレバと、過度に大きくなった辛さへの期待は、日を置かず何と次の日に、件の伏見は味苑へと足を向かわせたのでした。

当日丁度個人的休日であったこともあり、余裕を持って家を出て、これまたTAK0923さんオススメのメサベルテ 長岡京店にて「クローネ」を購入、かなり遠回りをしつつ車内にてひとり齧りながら、妻、そしてこのために呼び寄せた滋賀の友人と待ち合わせ、この火鍋のためだけに、京都市内までいそいそと出掛けてきた次第でありました。

こちらのお店、調理は勿論スタッフ全員が中国の方のようで、チャイナドレスの上に、下はホットパンツのお姉さんが注文を取りに来てくれます。
何と言いますか、その違和感さえも中国の人たちだからということで、首を捻りながらも納得。
でも確か、冬に来た時には普通にジーンズだったような気がするので、特にそれがサービスというわけでもなさそうです。
多分、給仕の彼女の趣味でしょう。
以前、上海にて足つぼマッサージなるものを施していただいたことがあるのですが、その時も男性には女性、女性には男性のマッサージ師が自然な雰囲気でスッと就き、露骨でありながらもその自然さ、当然であるさまに妻がしきりに感心しておりました。
さすが中国、四千年の歴史であると。

それはともかく、こちらのお料理に関する寸評は、いつもお世話になっているモナカネコさんのレビュー↓が、よく的を得ていると思われ、参考になります。
http://u.tabelog.com/monakaneko/r/rvwdtl/755448/
個人的には、例えば京都で評判の中華華祥、如意、そしてご近所の中国料理 西海などの料理に対して、どこか日本的なぬるさを感じている方には絶好の、硬派でゴツゴツした、しかしある意味ツンデレな本格変態中華を堪能できるのではないかと思います。

これを食べた後は、かつて辛かったものが辛いだけではなくなる。
同じものを食べて、こうも違う感覚を抱くことが出来る。
火鍋を経験している人といない人、世の中にはその二種類の人しかいない、そのような大袈裟なことまで考えさせてしまう。
それが、火鍋という存在なわけです。

ガトー・ド・ボワ

2009年08月06日 | 奈良
「世の深さを知るオトナのためのケーキ。」

奈良は西大寺ガトー・ド・ボワへ行って参りました。
駅の裏側へ回るとすぐに見つかるそのお店。
線路を渡った狭い路地にありますが、意外とゆとりのあるお店のつくりです。
店内とは別に、外にオープンカフェのスペースもあり、さすがに暑くて誰もくつろいではいませんでしたが、こういうイメージ作りが、お店の指針をよく表していると思えます。
もちろんケーキあってのことではありますが、こういうお店の雰囲気にそそられて、また県外からでもわざわざ行こうかという気にさせられるというものです。

入ってすぐのショーウィンドーには、見るからに上品なケーキがずらりと並んでいます。
お目当ての「ギャラクシー」は、入店した当初、すでに残り2個だったので急いで注文したのですが、帰りに覗いてみると、再びトレイに満杯になっていました。

非常に親切で丁寧で若くかわいい店員さんに、店内でお召し上がりであることをご了承していただき、席が空くまで少々お時間お待ちさせていただいている間に、店内のカフェスペースから満足気に出てきた二人連れは、何と若い男子のカップル!
しかも、さほどかわいいとかオシャレとかいうわけでもありません。
いや、もちろん本当のところ、彼らがそういう意味でのカップルかどうか、どこまでイっているのかは見当もつきません。
ただそう見えるというだけの主観的偏見であります。

そういえば、むかしインドに行った時、デリーの街中でやたら手をつないだ男同士のカップルがいるので、恐れを知らぬ我が妻がインド人のガイドであるグプタさんに、あれはどういうことなのか?と訊ねると、心もち目を逸らしつつ、しかしアッサリと「仲良しです」と言われ、「そうですか・・・」と言うしかなかったことを思い出します。
ともかく、男独りで来ることも憚られる風情のこのような場所に、怯むことなく二人連れで来ることができるのだから、素直に恐れ入りました。
彼らの関係の深さはともかく、彼らを含むそのリベラルである姿、彼らのような若者が集う、上品なケーキ屋さんの存在というのは、むしろ昔ながらの女性陣に占領されていたイメージのある近寄り難いケーキ屋さんと比べ、何と素晴らしいことでしょう。

そんなことで、店内のカフェスペースに着席です。
やはり多いのは女性客、そして男女の組合せのカップル。
しかし、もう一組、若い男同士のカップル。
出来る限り何事にも自由な精神で挑もうという我が心意気に反して、やはり彼らの存在に対し、そこはかとない違和感を覚えてしまうのは、いやはやまだまだ修行が足らぬ!ということでしょう。

隣の席で一人読書をしながら甘味を味わいつつくつろいでいた、まさにケーキ屋さんに相応しい典型のような若い女の子、ほどなく満足気に退席です。
そして、その後に空いた席に案内されてきた彼、これがまたこの場所には似つかわしくないような、硬い感じの男子、お一人様。
まぁ、外見で甘いものを食べる資格があるかないか決まるわけでもない、と言うか、甘いものを食べるために資格が必要なわけでもないので、誰に意見される筋合いもないわけですが、やはり異様といえば異様な彼の雰囲気。
こちらのお店では、まずショーウィンドーで注文してから、席に案内されるわけですが、その彼の元に来たケーキの数、実に4個!
一個平均500円として2,000円!
それとお飲み物が500円程度で、合わせて推定最低金額2,500円です!
一人で!ケーキを!

それを食べながら、難しい顔をして、彼はメモを取るわけです。
その表情、これはまさに勉強中の顔ですな。
まさかケーキを楽しんでいる風ではありません。
もちろん周りの雰囲気や他の客の視線など、意に介してはいません。
まさか食べログやブログにレビューを書くためだけに、ここまで真剣に苦学する人などはいないと思われるので、苦い顔をした彼は、おそらくどこかのパティシエか何かなのでしょう。
世の中には、色んな状況で、色んな事情があって、それぞれにケーキを食べる人がいるのです。
このお店は、ケーキといえば甘くて楽しいものと決めてかかっているような、固定観念に縛られた人間にはもったいない、世の深さを知るオトナのためのケーキを提供する、素晴らしく自由なお店であります。

あと、確かにケーキ一個に660円という金額は、ハンパではありません。
たとえ近所に住んでいたとしても、そうそう購入できる代物ではないでしょう。
だがしかし、遠方からわざわざ奈良まで来た向きには、たとえこの価格であっても、その雰囲気と合わせて味わえれば、トータルとしては条件的にむしろ絶好と言ってもよい、ありがたみのある形なのではないでしょうか。