「それは、特別な、場処。」
「ワタシニ・・・」
その外国人の給仕が、何と言ったのか、
咄嗟に聞き取れなかったふたりは、顔を見合わせた。
その様子を見た彼は、改めて、ゆっくりと言い直す。
「ワタシニマカセテモラエマスカ?」
すかさず、はい勿論、と応え、
彼は満足気に、エスプレッソに砂糖を継ぎ足す。
身の竦む濃厚さ、胃がきゅっと引き締まるような酸味、
これ以上は不可能なほどに、凝縮された苦味、
だがそれが、彼の主張であり、彼の国の日常なのだ。
此処に来たからには、敬意を表し、
それに従うのが、当然の礼儀である。
意を決して、一切の手を加えず、
最後の一滴まで、その小さなカップの
慣れない黒い液体を飲み干す。
見たことのない食材、見たことはあっても、
思いも寄らない調理を施された料理のオンパレードだった、今日、
それらは、岬の先端にある、この立地が象徴するかのように、
何もかも、特別と言うに相応しい料理の数々だった。
予約の時間に30分ほど余裕を持って到着したその場処は、
そこに用がなければ、何かのついでに立ち寄る事など誰もない、
そんな静かな場所で、海を臨む断崖の上にある神社の、
まだその先にあった。
車で入ることも出来ない崖っぷち、
その崖の下では、何か食材が取れるのであろう、
何人かの人たちが、小さな鍬で、
潮の引いた水際を掘り返している。
海に突き出た岩山に登り、周りを見渡せば、
遠くに浮かぶ、瀬戸内海の小島。
太陽が落ちるその前に、此処に来ることが出来て、
本当によかった。
時間までは、建物の中に入る事を、許されない、
それは、劇の幕が開くのを待つかのようで、
意図的などんな演出よりも、来た者の心を
ざわざわと騒がせる。
その場を取り仕切る給仕の所作、
そのひとつひとつが、いちいち驚きを提供する料理の数々、
そしてその量、すべてが特別だったあの場処。
そして思い起こす、彼のあの一言。
「わたしに仕切らせてください」
そう言ったのだ、彼は、きっと。
「ワタシニ・・・」
その外国人の給仕が、何と言ったのか、
咄嗟に聞き取れなかったふたりは、顔を見合わせた。
その様子を見た彼は、改めて、ゆっくりと言い直す。
「ワタシニマカセテモラエマスカ?」
すかさず、はい勿論、と応え、
彼は満足気に、エスプレッソに砂糖を継ぎ足す。
身の竦む濃厚さ、胃がきゅっと引き締まるような酸味、
これ以上は不可能なほどに、凝縮された苦味、
だがそれが、彼の主張であり、彼の国の日常なのだ。
此処に来たからには、敬意を表し、
それに従うのが、当然の礼儀である。
意を決して、一切の手を加えず、
最後の一滴まで、その小さなカップの
慣れない黒い液体を飲み干す。
見たことのない食材、見たことはあっても、
思いも寄らない調理を施された料理のオンパレードだった、今日、
それらは、岬の先端にある、この立地が象徴するかのように、
何もかも、特別と言うに相応しい料理の数々だった。
予約の時間に30分ほど余裕を持って到着したその場処は、
そこに用がなければ、何かのついでに立ち寄る事など誰もない、
そんな静かな場所で、海を臨む断崖の上にある神社の、
まだその先にあった。
車で入ることも出来ない崖っぷち、
その崖の下では、何か食材が取れるのであろう、
何人かの人たちが、小さな鍬で、
潮の引いた水際を掘り返している。
海に突き出た岩山に登り、周りを見渡せば、
遠くに浮かぶ、瀬戸内海の小島。
太陽が落ちるその前に、此処に来ることが出来て、
本当によかった。
時間までは、建物の中に入る事を、許されない、
それは、劇の幕が開くのを待つかのようで、
意図的などんな演出よりも、来た者の心を
ざわざわと騒がせる。
その場を取り仕切る給仕の所作、
そのひとつひとつが、いちいち驚きを提供する料理の数々、
そしてその量、すべてが特別だったあの場処。
そして思い起こす、彼のあの一言。
「わたしに仕切らせてください」
そう言ったのだ、彼は、きっと。