今日行われた横浜でのダブル世界戦には、「あっけない結末」という
共通点があった。いずれも、まさかこんな形で終わるとは予想していなかった。
まずはWBC世界ミニマム級タイトルマッチ。イーグル共和が文句なしに
初防衛に成功したのだが、挑戦者の小熊坂諭の頭からの出血により、8ラウンド
途中で試合が止められ、負傷判定での決着となってしまった。
試合は、ちょっと不思議なムードの中で進んでいた。クリーンヒットの数では
明らかに王者イーグルが上回っているのだが、にもかかわらず明確にペースを
握っていたとは言えない。小熊坂のつかみ所のないボクシングに、本来の
小気味いいスタイルを封じられているといった印象だった。足をつかって
逃げ回っていたかと思えば、唐突にサウスポースタイルからの左を放つ。
近づくと、がっちりとクリンチ。そしてその離れ際にパンチを狙ってくる。
一方の小熊坂は、評判通りの飄々としたボクシングを展開して見せたが、
時折いい左を当てるものの、イーグルの隙のなさに圧倒されたのか、それ以上の
攻撃を仕掛けることが出来なかった。お互いどうにかして突破口を開こうと
している間に、試合が終わってしまった感じだ。見ていた方もそうだし、
やっていた当人同士も不完全燃焼だっただろう。
もしあのまま試合が進んでいたらどうなっただろう。相変わらず噛み合わない
まま終わっていた可能性もあるが、どちらかがペースを握りかけ、もう少し
白熱した展開が見られたかもしれない。小熊坂も悪い選手ではないと思うが、
いかんせん攻撃に一貫性がないというか、勝ちに結びつけるための戦略が
あまり感じられなかった。となれば、恐らくイーグルが混戦から抜け出し、
さらにはっきりとポイント差を広げていったのではないだろうか。
いい意味で「教科書通りのボクシング」と評価されるイーグルは、いきなりの
右ストレートをジャブのように打つなど、小熊坂の変則的な試合運びに手こずり
ながらもサウスポー対策の常道を実行していた。見栄えはあまり良くなかったが、
そういう中でも苛立たずにきっちりとポイントを上げていった冷静さは
素晴らしかった。彼のテーマは「美しいボクシング」のようだが、これからは
もう少し老獪なテクニックも身に付けていけば、基本がしっかりしているだけに
長期防衛も十分に可能だと思う。
そして次のWBC世界スーパー・フライ級タイトルマッチでは、安定王者
徳山昌守が、まさかの1ラウンドTKO負けを喫するという、近年の国内
ボクシング界でも稀に見る波乱が起こった。
まるで漫画の世界である。冗談半分に空想することはあったが、もちろん実際に
こんな結果になることは予想していなかった。判定で徳山が9度目の防衛を
果たす、というのが大方の予想だったはずだ。
ただ、川嶋が勝つとしたらKOだろう、いやKOしかない、という声もあった。
何しろ抜群の安定感を誇る王者である。仮に1度くらいダウンを奪ったところで、
そこで耐え切られてしまえば次第に巧みな試合運びでポイントを挽回されてしまう
だろう。しかし徳山にも隙はある。後半ややバテること、そして試合開始直後は
いつも動きが硬い、ということだ。つまり川嶋の勝機は序盤と終盤にあり、
その千載一遇のチャンスを川嶋は見事にものにしたわけだ。
そういった意味でこれはラッキーパンチなどではなく、ある種の必然に導かれた
結果だったと思う。かねてより言われている徳山の減量苦やモチベーションの
低下なども、わずか3分足らずの時間では試合にどう影響したのか分からない。
正直な所、2人の攻防をもう少し長く見たかったという気持ちはある。
テクニシャンとパンチャーの試合は、いつでも非常にスリリングだからだ。
派手なKOシーンを見たければ、K-1にでもチャンネルを合わせればいい。
しかし何が起こるか分からないボクシングだからこそ、こういった結果には
K-1では味わえない興奮があることも確かだ。ラウンド数が短く、ある意味で
安定したレベルのエキサイトメントを楽しめるK-1のやり方は素晴らしい。
その点ボクシングは凡戦と熱戦の落差が激しく、やはりエンターテイメントと
しては不完全な面がある。そこがまた、ボクシングの醍醐味でもあるわけだ。
川嶋の不器用なスタイルを考えると、長く王座を防衛するのは難しいだろう。
技巧派に空転させられ続けて煮え切らないままタイトルを失うよりも、いっそ
WBA王者のハードパンチャー、アレクサンデル・ムニョスとの統一戦が見て
みたい。一発のパンチ力とディフェンスではムニョスに分があるかもしれないが、
打たれ強さとスタミナでは川嶋が優っているように思う。どちらが勝つにせよ、
凄い打撃戦になることは間違いない。
一方、3年9ヶ月の長きに渡って王座を保持してきた徳山の今後にも興味がある。
決して突出した能力があるわけではないので評価はそれほど上がらなかったが、
相手の良さを殺し自分のパンチを当てるテクニックに優れた名王者だったと思う。
ただ今になって思えば、最初の頃の防衛戦に比べ、やや動きが悪くなっていた
ことは否定できない。今のところ進退は明らかにしていないが、再起するなら
階級を上げることになるだろう、とも語っている。
限界に来ていたと言われる減量や、「守り続ける側」としてのプレッシャーから
解放され、もう一度あの伸び伸びとしたボクシングを見せてくれるなら、
ファンとしてもぜひ再起を願いたいものだ。
共通点があった。いずれも、まさかこんな形で終わるとは予想していなかった。
まずはWBC世界ミニマム級タイトルマッチ。イーグル共和が文句なしに
初防衛に成功したのだが、挑戦者の小熊坂諭の頭からの出血により、8ラウンド
途中で試合が止められ、負傷判定での決着となってしまった。
試合は、ちょっと不思議なムードの中で進んでいた。クリーンヒットの数では
明らかに王者イーグルが上回っているのだが、にもかかわらず明確にペースを
握っていたとは言えない。小熊坂のつかみ所のないボクシングに、本来の
小気味いいスタイルを封じられているといった印象だった。足をつかって
逃げ回っていたかと思えば、唐突にサウスポースタイルからの左を放つ。
近づくと、がっちりとクリンチ。そしてその離れ際にパンチを狙ってくる。
一方の小熊坂は、評判通りの飄々としたボクシングを展開して見せたが、
時折いい左を当てるものの、イーグルの隙のなさに圧倒されたのか、それ以上の
攻撃を仕掛けることが出来なかった。お互いどうにかして突破口を開こうと
している間に、試合が終わってしまった感じだ。見ていた方もそうだし、
やっていた当人同士も不完全燃焼だっただろう。
もしあのまま試合が進んでいたらどうなっただろう。相変わらず噛み合わない
まま終わっていた可能性もあるが、どちらかがペースを握りかけ、もう少し
白熱した展開が見られたかもしれない。小熊坂も悪い選手ではないと思うが、
いかんせん攻撃に一貫性がないというか、勝ちに結びつけるための戦略が
あまり感じられなかった。となれば、恐らくイーグルが混戦から抜け出し、
さらにはっきりとポイント差を広げていったのではないだろうか。
いい意味で「教科書通りのボクシング」と評価されるイーグルは、いきなりの
右ストレートをジャブのように打つなど、小熊坂の変則的な試合運びに手こずり
ながらもサウスポー対策の常道を実行していた。見栄えはあまり良くなかったが、
そういう中でも苛立たずにきっちりとポイントを上げていった冷静さは
素晴らしかった。彼のテーマは「美しいボクシング」のようだが、これからは
もう少し老獪なテクニックも身に付けていけば、基本がしっかりしているだけに
長期防衛も十分に可能だと思う。
そして次のWBC世界スーパー・フライ級タイトルマッチでは、安定王者
徳山昌守が、まさかの1ラウンドTKO負けを喫するという、近年の国内
ボクシング界でも稀に見る波乱が起こった。
まるで漫画の世界である。冗談半分に空想することはあったが、もちろん実際に
こんな結果になることは予想していなかった。判定で徳山が9度目の防衛を
果たす、というのが大方の予想だったはずだ。
ただ、川嶋が勝つとしたらKOだろう、いやKOしかない、という声もあった。
何しろ抜群の安定感を誇る王者である。仮に1度くらいダウンを奪ったところで、
そこで耐え切られてしまえば次第に巧みな試合運びでポイントを挽回されてしまう
だろう。しかし徳山にも隙はある。後半ややバテること、そして試合開始直後は
いつも動きが硬い、ということだ。つまり川嶋の勝機は序盤と終盤にあり、
その千載一遇のチャンスを川嶋は見事にものにしたわけだ。
そういった意味でこれはラッキーパンチなどではなく、ある種の必然に導かれた
結果だったと思う。かねてより言われている徳山の減量苦やモチベーションの
低下なども、わずか3分足らずの時間では試合にどう影響したのか分からない。
正直な所、2人の攻防をもう少し長く見たかったという気持ちはある。
テクニシャンとパンチャーの試合は、いつでも非常にスリリングだからだ。
派手なKOシーンを見たければ、K-1にでもチャンネルを合わせればいい。
しかし何が起こるか分からないボクシングだからこそ、こういった結果には
K-1では味わえない興奮があることも確かだ。ラウンド数が短く、ある意味で
安定したレベルのエキサイトメントを楽しめるK-1のやり方は素晴らしい。
その点ボクシングは凡戦と熱戦の落差が激しく、やはりエンターテイメントと
しては不完全な面がある。そこがまた、ボクシングの醍醐味でもあるわけだ。
川嶋の不器用なスタイルを考えると、長く王座を防衛するのは難しいだろう。
技巧派に空転させられ続けて煮え切らないままタイトルを失うよりも、いっそ
WBA王者のハードパンチャー、アレクサンデル・ムニョスとの統一戦が見て
みたい。一発のパンチ力とディフェンスではムニョスに分があるかもしれないが、
打たれ強さとスタミナでは川嶋が優っているように思う。どちらが勝つにせよ、
凄い打撃戦になることは間違いない。
一方、3年9ヶ月の長きに渡って王座を保持してきた徳山の今後にも興味がある。
決して突出した能力があるわけではないので評価はそれほど上がらなかったが、
相手の良さを殺し自分のパンチを当てるテクニックに優れた名王者だったと思う。
ただ今になって思えば、最初の頃の防衛戦に比べ、やや動きが悪くなっていた
ことは否定できない。今のところ進退は明らかにしていないが、再起するなら
階級を上げることになるだろう、とも語っている。
限界に来ていたと言われる減量や、「守り続ける側」としてのプレッシャーから
解放され、もう一度あの伸び伸びとしたボクシングを見せてくれるなら、
ファンとしてもぜひ再起を願いたいものだ。