ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBA世界S・フライ級TM 戸高秀樹vsレオ・ガメス

2000年10月07日 | 国内試合(世界タイトル)
こと人気の面に関しては、戸高はついてない男だと思う。

前回のヨックタイ戦で、日本人世界王者としては川島郭志
(対ドミンゴ・ソーサ)以来実に3年半ぶりとなるKO防衛を
果たし、さあこれからという時にガメスに敗れてしまった。
この試合の2日後には、畑山隆則が坂本博之をKOして、
にわかにボクシング人気が復活してきたのである。
ここでガメスに印象的な勝ち方をしていれば、畑山に次ぐ
スターになっていたかもしれない。

この試合、とにかく戸高の調子は悪かった。1ラウンドこそ
まずまずの立ち上がりだったが、2ラウンド以降はあまりに
無防備にガメスの強打を浴びてしまう。しかしこの時点ではまだ、
ヨックタイ戦同様の逆転KOも十分に有り得ると思われた。

しかしラウンドが進んでも、一向に戸高の反撃の狼煙が上がらない。
さすがに「ちょっとヤバいんじゃないか・・・」と不安になる。
インターバル中の様子を見ると、口から異常なほどの出血。
顎を割られてしまったのであろうということが、容易に察せられる。
その後も、いいように打たれる戸高。もう直視できなくなってきた。

そして7ラウンド。ガメスのパンチで、ついに戸高がふらつきを見せる。
ここまで打たれて耐え続けてきたこと自体が凄いが、さすがに
限界のようだ。その直後、戸高が血を吐きながら雄叫びを上げた。
それが最後の抵抗だった。あとはもう、数発のパンチを浴びて
糸が切れたように崩れ落ちてしまった。壮絶なシーンだった。
ボクシングの試合で、こんな壮絶なシーンは今まで見たことがない。

試合後、戸高はそのまま入院。顎は粉々に砕けていた。
それよりも驚いたのは、試合前に既に、眼に負傷を抱えていたことだ。
角度によっては、物が2重3重に見える状態だったという。
絶望的な状況の中、敗れはしたものの凄まじい闘志を見せた戸高。
眼の状態さえ良ければ・・・という思いだけが残った。