ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

予想に違わぬ好カード

2002年11月24日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
24日に名古屋で行われた興行は、予想に違わぬ好試合揃いとなった。

正直言って、最近の松田ジムの興行にはあまり魅力を感じなくなっていた。
何者だかよく分からない格下の噛ませ犬を連れてきてのKO勝利など、
そう何度も見たいものではない。もし「松田ジムファン」という人間が
いるとしたら、今回の結果自体はあまり気持ちのいいものとは言えないかも
しれないが、一ボクシングファンである僕には非常に見応えがあった。
会場に行くことが出来なかったのがとても残念だ。


小懸新と浅井勇登。その組み合わせ自体が緊張感を孕むという、名古屋の
ノンタイトル戦としては異例の好カードで、内容も非常に素晴らしかった。
技術面、特にジャブの巧みさで上回る小懸の前に劣勢を強いられた浅井だが、
決して諦めず8ラウンドに痛烈なダウンを奪って一気に挽回。その後小懸は
逃げ腰となり、結果はドロー。引き分けというと何か煮え切らない印象を
与えるかもしれないが、これはある意味で最高の結果だったと思う。

小懸は技術の素晴らしさを見せたものの、気持ちと経験の面では弱さを
露呈した。一方、「落ち目の選手」と目されていた観のあった浅井は、
まだまだやれるところを証明した。むしろこの試合での浅井には「もう
後がない」という悲壮感すら感じられ、技術面では特に進歩はないものの
ボクサーとして一皮剥けたような印象さえ受けた。


大塚陽介の相手は無名の格下ということで、こちらはあまり内容には期待
していなかったのだが、その相手、松下文昭の番狂わせによって、俄然
エキサイティングな内容となった。ただ策もなく前に出るだけの大塚に
対し、松下は1ラウンドにいきなりダウンを奪って試合を支配した。
ノーガードに近い状態からのジャブが面白いように決まり、パンチをかわす
勘もいい。非常に運動能力の高い選手で、今まで無名だったのが信じられない
ほどだ。試合は文句なく松下の判定勝ち。

一体どちらが格上なのか分からないような、まるで大人が子供をあしらう
ような見事な試合ぶりだった、と言っては言い過ぎだが・・・。これで
堂々日本ランカーの仲間入りを果たすであろう松下。何かもう一つ二つ
上積みすれば、日本タイトルも夢ではない。駿河ジムの下田賀彦もそうだが、
地方の小さなジムの無名選手がランカーを破る様というのは実に痛快だ。


菅原雅兼は、東洋太平洋バンタム級王者ジェス・マーカとのノンタイトル戦に
挑んだ。僕は初めて「動くマーカ」を見たのだが、特にスピードがある
わけでもないパンチが、なぜかよく当たる。そしてフィリピン選手特有の
柔軟なボディワークで、いともたやすく相手の攻撃をかわしてしまう。
簡単に言うと「やりにくい」選手で、守る立場になると強みを発揮する
タイプだ。だから東洋のタイトルを7度も守ってこれたのだろう。

菅原もスピードでは負けていなかったが、やはり巧さにごまかされてしまった
感じだ。それでもよく健闘していたし、悪名高き「名古屋判定」でドロー
かな、そう思っていたら、結果は何と2-1ではあるが菅原の判定勝ち。
以前クワテモク・ゴメスと対戦した時にも、菅原は不可解な判定勝利を
収めているが、こういった判定はむしろ選手を傷つけるだけだと思う。
これでやる気を無くしたりしなければいいが・・・。本当に気の毒だ。


最後は石原英康の東洋太平洋スーパー・フライ級タイトル初防衛戦。
挑戦者は8戦ぐらいしかしていない下位ランカーの韓国人だったので、また
安易な相手を選んできて・・・と思ったが、アマチュア歴が長く、すでに
韓国の国内王座にも就いた経験のある期待の選手なのだそうだ。

実際これがなかなかの曲者で、どうにもつかみどころのないボクシングを
する選手。石原も散々苦しめられたが、8ラウンド終了後、その相手が
突然試合放棄。どうも目が見えなくなったらしいのだが、素人目には
全くそうは思えず、むしろ目が腫れてきていたのは石原の方だった。
何とも後味のすっきりしない幕切れで、またしても石原は快勝にはほど遠い
拙戦を演じてしまった。まあ勝ちは勝ちなので、次回に期待したい。


ということで、結果はともかく内容的には久々に満足感のある興行だった。
しかし見方を変えると、これだけ盛り上がったのは相手選手の実力や
頑張りによる部分が大きいわけで、これは松田ジム側からすると不本意な
ことなのかもしれないが。しかしまたこんないい興行を見たいものだ。