ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

佐竹vs坂本、坂田vs中沼

2002年11月03日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
知り合いが送ってくれたビデオで、少し遅めの試合観戦をした。

一つは東洋太平洋スーパー・ライト級タイトルマッチ、佐竹政一と
坂本博之の一戦だ。僕はもっと一方的に佐竹が勝ったのだと思っていたが、
坂本も頑張っていた。心配していた衰えも特に感じられず、コンディションは
なかなか良かったと思う。それにしても最終回の佐竹の攻勢は見事だった。
それまでは細かいパンチで徐々にダメージを与えておき、最後に坂本が
ダウン(レフェリーはスリップと判定したが)した途端に、一気に強い
連打を集めてTKO勝ちしてしまった。

ただ、佐竹にはもっと期待していただけに、その期待値の高さから言えば
やや不満は残った。敵地である後楽園ホールの雰囲気、そして坂本という
カリスマ的な人気を誇るボクサーへの声援などがプレッシャーとなって
佐竹の身を硬くしていたのではないだろうか。もちろん坂本自身が発する
オーラに押されていた部分もあるだろう。

佐竹は足を使い、カウンターを使うアウトボクサーだから、一見逃げに
回っているという印象を与えてもおかしくない。クリーンヒットの数で
上回っていながら、今回ジャッジの採点が坂本有利になっていたのも
そのせいだろう。実際、常に前に出ていたのは坂本だし、見栄えのいい
大きなパンチを放っていたのも坂本だ。

最終回に見せた連打のような強気の姿勢がもっと早くに出ていれば、
採点もこれほど接近することはなかったと思う。勝者の佐竹より、負けた
坂本のコンディションの良さの方が印象に残った。まだまだ坂本はやれる、
そう期待させる出来だった。


もう一つは日本フライ級タイトルマッチ、坂田健文とトラッシュ中沼の
試合。こちらは終始凄い打撃戦で、結果は分かっているにもかかわらず
画面に釘付けになってしまった。試合が判定にまでもつれ込んだのは
両者のディフェンス技術の高さと、絶対に負けないという闘志のせいだ。

僕は両者の試合を見たことがなかったが、専門誌を読んでの印象から、
坂田はスタミナと手数が売りの努力型ファイター、中沼はセンス抜群の
攻撃が魅力の天才児、という風に思っていたが、大体予想通りだった。

しかし予想と違ったのは、この試合が最初から最後までお互いの頭が
くっつきそうなほどの接近戦だったことだ。もっと中沼が足を使って
スピードで坂田を翻弄すると思っていたのだ。

接近戦での押し合いなら、馬力と手数で上回る坂田に有利なのではないか。
しかし中沼は打ち負けなかった。もともと、中沼はその時その時の閃きで
戦い方を決めるボクサーらしい。ということは、坂田相手に足を使っても
結局は攻め込まれてしまう、それなら相手の土俵で打ち勝ってねじ伏せた
方が効果的だ、と判断したのかもしれない。

実際、接近戦では坂田の手数が多い。体全体のパワーも、ライト・フライ級
から上がってきた中沼より上だ。しかし中沼も、多彩なパンチで対抗する。
そして徐々に徐々にペースを奪っていった。まさに我慢比べといった様相の
試合展開だった。採点が微妙だったのも当然の熱戦だった。

勝った中沼のバリエーション豊かな攻撃も素晴らしかったが、それ以上に
敗れた坂田の、決して後退しない化け物じみた根性に驚かされた。しかし、
その坂田の闘志を全身で受け止めながら打ち勝った中沼も凄いボクサーだ。
日本タイトルマッチながら、今年の年間最高試合賞の候補に上げられるべき
素晴らしいファイトだったと思う。