500年前、ローマ民族が滅ぼされた。国の名前はブリタニア。今よりもずっとずっと高度な文明を誇った強い民族。それを滅ぼしたのがサクソンで、そのサクソンを滅ぼそうとしているのが我らデーン人(ヴァイキング)。最後の審判を20年後に控えた黄昏の時代の夜明けを眼前に、アシェラッドは語る。
「人間の世界は緩やかに、だが確実に老いてきてる」
老成した眼差しが見つめるものを、束の間トルフィンも見た。
1頭の馬が駆けてくる。デーン人の王スヴェンの息子クヌート配下の騎士。
黄昏の時代に訪れた大博打のチャンス。アシェラッドは迷わず騎士の首をはねた。
「ヴィンランド・サガ③」幸村誠
9世紀初頭に始まったヴァイキングのイングランド略奪は、300年を経るうちにアングロ・サクソン王朝の打倒を目的とした征服戦争の様相を呈するようになった。ヴァイキングは豊かで広大な内地に入り、略奪と虐殺を繰り返した。抵抗むなしく各地で敗戦を繰り返したイングランド王エセルレッドはフランスに亡命し、スヴェン王本隊の主力は北部ハンバー川より侵攻。ウェセックス地方を蹂躙し、いよいよ商業都市ロンドンに至る。だがそこで思いもかけない停滞を余儀なくされた。
ヴァイキングの一将、「のっぽ」のトルケルがイングランド側に寝返ったのだ。ロンドン橋の要塞に立て篭もる彼の軍は精強無比で地の利をも兼ね備え、寄せ手側に多大なる損害を与えつつ微塵も陥落する気配を見せない。我らがトルフィンが単独で乗り込み一騎打ちの大手柄を狙うも、丸太を振り回すバカ力と頑強な肉体の前に、手指を切り落とすのが精一杯。逆に重傷を負って逃亡するはめになる。それは寄せ手側も同じ。4000の軍隊を残し転進するところを、なんとトルケル本隊500が襲い掛かった。「一人一人が熊のように強い」トルケル本隊の前に蹴散らされ、クヌート王子は捕らわれの身となる。
子供のような顔で戦そのものを楽しむトルケルは、クヌート王子配下の将ラグナルとこんなことを語る。
「そーゆーことはね、問題じゃないんだよラグナル。キリスト教にかぶれてひさしいあんた方はもう忘れちまったかね? 我らノルマン戦士の誉れってやつをよ」
「……戦士の館(ヴァルハラ)か」
「そうさ。神々の使者戦乙女(ヴァルキリー)たちは、常に勇者の魂を求めている。神々の戦士(エインヘリアル)と呼ぶに相応しい勇者をな。まさに戦い、まさに死んだ者だけが、虹の橋(ビフロスト)を渡り、天界の戦士の館に住むことを許される。いかに戦い、いかに死ぬか。それが問題だ、敵は強けりゃ強いほどいい」
あっけらかんとしたトルケルの口調に、逆に重みを感じたヴァイキング戦史第三巻。戦に生き戦に死すヴァイキング戦士達の信念に戦況が関わり、生み出されていく巨大な振幅。その渦中に飛び込んだトルフィンが掴む信念は……やっぱり未だ復讐なのだが……。
そんな血まみれのリベンジャーの編とは別に、番外編として今回は「はたらくユルヴァちゃん」が巻末に掲載されている。トルフィンの姉・美人で男勝りなユルヴァの日常と悲しみが、殺伐とした作品全体に潤いを与えていて面白い。
「人間の世界は緩やかに、だが確実に老いてきてる」
老成した眼差しが見つめるものを、束の間トルフィンも見た。
1頭の馬が駆けてくる。デーン人の王スヴェンの息子クヌート配下の騎士。
黄昏の時代に訪れた大博打のチャンス。アシェラッドは迷わず騎士の首をはねた。
「ヴィンランド・サガ③」幸村誠
9世紀初頭に始まったヴァイキングのイングランド略奪は、300年を経るうちにアングロ・サクソン王朝の打倒を目的とした征服戦争の様相を呈するようになった。ヴァイキングは豊かで広大な内地に入り、略奪と虐殺を繰り返した。抵抗むなしく各地で敗戦を繰り返したイングランド王エセルレッドはフランスに亡命し、スヴェン王本隊の主力は北部ハンバー川より侵攻。ウェセックス地方を蹂躙し、いよいよ商業都市ロンドンに至る。だがそこで思いもかけない停滞を余儀なくされた。
ヴァイキングの一将、「のっぽ」のトルケルがイングランド側に寝返ったのだ。ロンドン橋の要塞に立て篭もる彼の軍は精強無比で地の利をも兼ね備え、寄せ手側に多大なる損害を与えつつ微塵も陥落する気配を見せない。我らがトルフィンが単独で乗り込み一騎打ちの大手柄を狙うも、丸太を振り回すバカ力と頑強な肉体の前に、手指を切り落とすのが精一杯。逆に重傷を負って逃亡するはめになる。それは寄せ手側も同じ。4000の軍隊を残し転進するところを、なんとトルケル本隊500が襲い掛かった。「一人一人が熊のように強い」トルケル本隊の前に蹴散らされ、クヌート王子は捕らわれの身となる。
子供のような顔で戦そのものを楽しむトルケルは、クヌート王子配下の将ラグナルとこんなことを語る。
「そーゆーことはね、問題じゃないんだよラグナル。キリスト教にかぶれてひさしいあんた方はもう忘れちまったかね? 我らノルマン戦士の誉れってやつをよ」
「……戦士の館(ヴァルハラ)か」
「そうさ。神々の使者戦乙女(ヴァルキリー)たちは、常に勇者の魂を求めている。神々の戦士(エインヘリアル)と呼ぶに相応しい勇者をな。まさに戦い、まさに死んだ者だけが、虹の橋(ビフロスト)を渡り、天界の戦士の館に住むことを許される。いかに戦い、いかに死ぬか。それが問題だ、敵は強けりゃ強いほどいい」
あっけらかんとしたトルケルの口調に、逆に重みを感じたヴァイキング戦史第三巻。戦に生き戦に死すヴァイキング戦士達の信念に戦況が関わり、生み出されていく巨大な振幅。その渦中に飛び込んだトルフィンが掴む信念は……やっぱり未だ復讐なのだが……。
そんな血まみれのリベンジャーの編とは別に、番外編として今回は「はたらくユルヴァちゃん」が巻末に掲載されている。トルフィンの姉・美人で男勝りなユルヴァの日常と悲しみが、殺伐とした作品全体に潤いを与えていて面白い。