はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

さよなら妖精

2011-01-30 10:39:19 | 小説
さよなら妖精 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社


「さよなら妖精」米澤穂信

 1991年、4月。下校途中の守谷と太刀洗は、店の軒先で雨宿りする外国人の女の子と出会った。彼女の名はマーヤ。ユーゴスラヴィアから父に伴われてやって来たのだが、いまは別行動中で、独力で住まう場所を探しているのだという。
 同級生の旅館の娘に頼み込んで住み込みの女中として雇われることになったマーヤは、メモ帳片手にいろんなことを質問してくる。
「哲学的意味はありますか?」
 彼女の真摯な姿勢に、守谷は知恵を振り絞って答えを探す。そんな日々がしばらく続いて、そして、彼女は母国へ帰った。民族独立と内戦の気配とで、暗雲漂うユーゴへ。

 読むのに1ヶ月かかった。それほど長い小説ではない。難解なところなどひとつもない。でも、それだけの時間を必要とした。なぜなら、これは別れの物語だから。マーヤと守谷たちが親しくなればなるほど、悲しみはいや増すから。
 旧ユーゴ。いまでは歴史の1ページに刻まれる出来事にすぎない一連の事実を僕は知っている。マーヤの身に降りかかるかもしれない危険の意味も。彼女が帰国するとはどういうことなのかも。
 守谷たちは知らない。彼らの時間軸では、ユーゴに政情不安が起こりつつあるという情報しかキャッチできない。でも、僕らは知っているのだ。
 若輩ではあるけれど、今までの人生で学んだことがある。別れの悲しみとは、一時に訪れるものではない。1年が経ち、2年を経て、ある未来の一瞬に、途方もない質量を伴って、雪崩るように襲いかかってくるのだ。大切な人が側にいない。手を伸ばして掴むことも、その安否を知ることすらもできはしない。そこには、限りない断絶があるのみ。
 ラストシーンの、守谷の心の悲鳴が、いまも心にこびりついて離れない。

偽物語(上)

2011-01-29 18:38:10 | 小説
偽物語(上) (講談社BOX)
西尾 維新
講談社


「偽物語(上)」西尾維新

 阿良々木火憐と阿良々木月火。2人合わせて栂の木二中のファイヤーシスターズ。何かともめ事を絶やさぬ正義ウーマンぶりが売りの2人の妹は、その名字から察せられるように、ずばり阿良々木暦の妹だ。ただし、女性故か若さ故か、行動指針がけっこう激しい。たかだか女子中学生の分際で、不良からヤクザまで、相手を選ばず立ち回りを演じてしまうのだ。ツンデレな兄の暦は、それがいつも心配でしょうがない。なんとか怪異にだけは出会っていないようだからと安心していたのも束の間、かつて戦場ヶ原ひたぎを騙し、仙石撫子に飛び火した災厄の起こし主・貝木と火憐が最悪の形で遭遇。火憐はスズメ蜂の怪異を押しつけられてしまう。
 運動神経抜群で恐れも遠慮も知らない武闘派の妹に初めて訪れた危機に、立ち上がらなければ男じゃない。なんだかんだいいつつもシスコンな暦は、すべてを賭けて、火憐と戦うのだ……あれ?

 人気作、化物語の正統続編。あれから、羽川翼の怪異変化の事件からしばらく経った暦は、戦場ヶ原と羽川の2人に変わりばんこに受験勉強を教えてもらいつつ、路上では八九寺と変態すれすれのスキンシップをかまし、神原の家でぎりぎり限界のエロトークをし、撫子の部屋でツイスターゲームにいそしむ、といった、非常にけしからん阿良々木ハーレムを楽しんでいた。ここまで100ページ以上。
 そんな適当な配分なのに、これがめっちゃ面白い。なにより良いのはやっぱり会話。暦のメリハリの効いたツッコミと、どこかがずれた女の子たちのボケの応酬が笑えて笑えてしょうがない。メインストーリー抜きでも十分商業的に売りに出せるレベル。
 じゃあメインがつまらないかというと、そんなことはぜんぜんない。妹を思う兄の気持ちと、悪を憎む妹の気持ちのぶつかり合いは熱いし、貝木との最終対決は、バトルもの小説へのアンチテーゼとして、とても考えさせられる内容だった。
 作者の趣味全開すぎるので、向かない人には絶対向かないだろうけど、向いてる人には猫にまたたびのおもしろさ。ものは試しで、ぜひ「化物語」から読んでいただきたい。

涼宮ハルヒの消失

2011-01-27 19:48:46 | 映画
涼宮ハルヒの消失 通常版 [DVD]
クリエーター情報なし
角川映画


「涼宮ハルヒの消失」

 12月も半ば。クリスマスを間近に控えたハルヒはいつにも増して盛り上がっていた。朝比奈・古泉・長門・キョンら団員にそれぞれ役割を振って、楽しいパーティを開くために。グチり、苦笑しながらも従順にその命令に従うキョン。そんな、いつもの光景。
 18日の朝、すべては変わっていた。全校中に、昨日までは流行っていなかった風邪が流行しており、友人との会話が食い違い、そしてなにより、涼宮ハルヒがいなくなっていた。風邪で休校とか、そんな生やさしいレベルではない。ハルヒの席には当然のようにあの朝倉が着席し、ハルヒ自身が最初からいなかったものとして扱われているのだ。
 誰得な世界の改変なんだよ、と思いながら、仲間を探すキョン。しかし、朝比奈と長門はキョンのことを覚えておらず、古泉に至ってはクラスごと無かったことにされていた。
 文芸部(元SOS団部室)で孤独に本を読み続ける長門に入部を薦められ、とりあえずの居場所を確保したキョンだが、世界を元通りにする方法については皆目検討もつかない。このまま、ハルヒのいない世界で暮らすことになってしまうのか? こんな、火の消えたような灰色の世界で……。

 懐かしい仲間に久しぶりに再会した、そんな気分になった。自分の中で、この作品がそれほど大きなものになっていることに、今更ながら驚いた。ハルヒ好きじゃないんだけど、なんでかな……?
 ともあれ、良い出来でした。仲間を奪われ、八方塞がりなキョンが、死にものぐるいに奔走し、かつての絆を違った形で取り戻していく過程がどきどきした。こっちの世界でのハルヒを見つけたときの歓喜が、画面越しにもわかった。
 結末は、ある程度知ってしまっていたのでそれほど驚きはしなかった。できれば、知っていたくなかったかな。そうすれば、変わってしまった世界を、あの人が望んだ現実の姿を新鮮な気持ちで眺めることができただろうから。まあ、あの人が誰か、なんて見てればすぐにわかることだけど。だって、こんなことができるのは、そして、これによって得するのは、あの人しかいないもの。だからこそ、寂しく切ない。ありえたかもしれない現実の中のあの人が、とても可憐だったから。望みを絶ち切る形になるのは、キョンならずとも心苦しかったはず。
 うん、面白かった。もう一度見てみたいと思わせてくれた、ひさしぶりのアニメ映画でした。

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん~善意の指針は悪意~

2011-01-25 09:54:58 | 小説
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 善意の指針は悪意 2 (2)(電撃文庫 い 9-2)
入間 人間
メディアワークス


「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん~善意の指針は悪意~」入間人間

 小学生の頃、共に拉致監禁され苦渋のかぎりを舐めさせられたことにより、当時の心の支えだったみーくん以外には心を開かなくなったまーちゃん。当時のみーくんでありながらみーくんではないみーくん。前巻でのみーくんとの死闘後、入院せざるを得なくなったみーくん。みーくんと同居するために自ら頭を割り、入院したまーちゃんが巻き込まれたのは、またしても行方不明。そして殺人。みーくんの元彼女・長瀬とその妹の小学生・一樹も含めた四角関係の行く末はいかに?

 と、ここまで嘘は一切含まれていません。回りくどいにもほどがあるけど、すべて事実。
 んでだね。まあなんというか、今回もぶっとんでます。「電波女と~」でしか入間人間を知らない人が見たら信じられないくらい違う作風。いや、地の文とか登場人物のリアクションなんかはいかにもって感じなんですがね。なんというか、ほんとに残酷な話なんです。2巻にして、登場人物が全員信用できない。みんな、裏ありすぎ。抜き差しならなすぎ。
 まーしかし面白い。ラブコメとしてもミステリとしても良くできていて、みーまーの今後も気になるし、当然次巻も買いっていうか、1巻読了後に既巻は一気に購入してるんですがね、ほんと、面白いんですわ。おすすめ。

丘ルトロジック

2011-01-24 08:35:39 | 小説
丘ルトロジック 沈丁花桜のカンタータ (角川スニーカー文庫)
耳目口 司
角川書店(角川グループパブリッシング)


「丘ルトロジック」耳目口司

 風景をこよなくする愛する男・咲丘は、入学先の神楽咲高校に丘研なる同好会があることを知り、胸を高鳴らせた。きっとそこには、一般人には切り取れぬ素晴らしき「丘」の風景を愛で合う人たちが集っているのだろうと勝手に思いこんで。
 だが、蓋を開けてみるとそこには「丘」を愛している人などひとりもいなかった。尊大な美少女・沈丁花率いるオカルト研究会は、都市伝説の収集と回収を目的に活動する、どう解釈しても終わってる同好会だった。
 沈丁花の強引な勧誘に屈し、丘研に所属することとなった咲丘は、しかしシーモネーターな同期の美女・江西陀や突撃特攻先輩・出島進、マッドサイエンティスト・女郎花などの一癖も二癖もある人物たちと交流を深めるうちに、いつの間にかそこが居心地の良い場所になっていることに気がついた。
 丘研に居続けることになった咲丘は、だがまだ理解していなかった。丘研の活動の真の恐ろしさを……。

 個性的なメンバーたちとのやり取りが軽妙で面白かった。都市伝説の探索も、日常からちょっと離れたところで起こる出来事の不気味さにぞくぞくさせられた。実際、そこまではとても良かった。良かったのだが、咲丘が「キレた」後半以降でいきなりギアが変わった。変わりすぎた。彼の異常性癖と、丘研メンバーの突飛な発想についていけなくて、正直厳しかった。作者の文章も、変に飛ぶ癖がきつくて、混乱させられる場面が多かった。
 とはいえ、先にも書いたようにメンバーとのやり取り自体が面白いので、そこだけでも十分楽しめた。咲丘と、江西陀、清宮(咲丘の同級生・男の娘)、沈丁花ら女性陣(?)との、恋……というほどのものではない、男女の微妙な機微が個人的にツボった。
 続編……は無理っぽいけど、なかなかの怪作なので、今後に期待したい。

のりりん(1)

2011-01-22 18:30:04 | マンガ
のりりん(1) (イブニングKC)
鬼頭 莫宏
講談社


「のりりん(1)」鬼頭莫宏

 トラウマから(?)自転車も自転車乗りも嫌いになってしまったノリは、よりにもよって自転車と接触事故を起こしてしまう。自転車乗りの少女・輪のとっさの判断で、怪我などはさせなかったものの、互いの車体に大いなる傷を残した。
 日がたち、輪の家を訪れたノリは、輪の母の陰謀で、無理矢理自転車に乗せられることになる。も、当然その程度のことので自転車嫌いが直るわけではない。しかしその後、運転免許を取り消されたり、輪の可愛さに盛り上がった悪友たちが自転車チームを設立したり、飲み会繋がりで知り合った娘・からももさんがノリとお近づきになりたい一心で高級自転車を購入したりと、一気に外堀を埋められていき、ついには……。

「弱虫ペダル」のような熱血少年的ではない、青年の恋と自転車の物語。競技志向ではない街乗り中心の、より日常的な自転車漫画なのでゆっくり読めた。
 自転車大好きっ娘な輪ちゃんとか、ノリさん好きなからももさんとか、友達連中も含めて女の子陣は総じて可愛く、かつ萌えや受け狙いといった要素が一切くて良い。ナチュラルボーン可愛い。
 でも一番気に入ったのは主人公のノリ。最初はただ単にぐじぐじうだうだしてて、世の中斜に構えて見てて計段高くて、いろいろ鼻についていたのだけど、話を追っていくうちに、それら性格の良い部分がぼつりぼつりと表出しはじめてきて、一気に好きになってしまった。
「ぼくらの」の作者だから、また暗くて切ない話かと思って警戒していたけど、読んで良かった。面白かった。

死のロングウォーク

2011-01-20 17:42:45 | 小説
バックマン・ブックス〈4〉死のロングウォーク (扶桑社ミステリー)
スティーヴン キング,リチャード・バックマン
扶桑社


「死のロングウォーク」スティーブン・キング

 スティーブン・キングがリチャード・バックマン名義で書いた数冊のうちの1冊が、「バトルロワイアル」の高見広春や「インシテミル」の米澤穂信にインスパイアを与えたという話を知って、手にとってみた。
 時は近未来のアメリカ。強固な政権の支配下で、毎年、選抜された14~16歳の少年100人による「ロングウォーク」という競技が行われていた。ルールはいたって簡単。定められた速度以上でどこまでも歩き続けること。歩行速度が落ちれば3回まで警告が与えられ、最終的には射殺される。生き残るには、最後の1人になるまで歩き続けねばならない。途中休憩は一切無し。脱走しようにも、彼らは常に、銃を装備した兵隊に見張られている。
 そんな極限の状況下で、互いに冗談を交わし、励ましあって歩き続ける少年たちの、なんとも皮肉で救いのない様を、どこまでも淡々と描き続けるあたりはさすがというか、死に別れることが前提の友情の構築が、読んでいて恐ろしかった。まったくあらがう余地のないデスゲーム。これはすごい。
「いつかまた、どこか別の所でな」
 主人公のギャラティにそう言って散っていった、とある少年の最後がとても印象に残った。

卒業

2011-01-18 17:16:21 | 小説

卒業 (講談社文庫)
東野 圭吾
講談社


 これが自分たちの卒業の儀式なのだと加賀は思った。長い時間をかけて、いず
れ壊れてしまう積木を組み立ててきたのであれば、それを壊してしまっ てこ
そ、自分たちが生きたひとつの時代を完成させることができる。

「卒業」東野圭吾

 大学4年の秋、卒業を控えた仲良し7人組の1人、祥子が死んだ。加賀と沙都
子の2人は、友人の死を単純に自殺とは割り切れず、独自に死の真相を 追って
いく。鍵のかかった自室での死は自殺だったのか、それとも……。
 そして起こった第二の事件。犯人は自分たちの中にいる?
 友人だと思っていた思っていた人たちの意外な素顔。知りたくなかった事実。
大人の社会へ旅立つ前の彼らに与えられた悲しき試練の行方は……?

 はずれ知らずの東野圭吾。デビュー後初作品。
 トリックの出し方や味付けがさすがに上手い。雪月花の儀式なんていうのがあ
るのを初めて知った。
 卒業間近の大学生、という設定も良い。全体に漂う切なさや寂しさは、それな
くしてはあり得なかった。加賀恭一郎のすかしたキャラ造形もうまいこ と補え
ている。
 青春ものミステリ好きなら読んで損無し。東野作品として考えるなら、いまい
ち物足りないかな。

まよチキ!(5)

2011-01-17 09:03:43 | 小説
まよチキ!5 (MF文庫J)
あさのハジメ
メディアファクトリー


「まよチキ!(5)」あさのハジメ

 もう友達じゃいやなんだ、というあの日の告白以来、スバルの態度がぎこちない。首を傾げながらも、ジローのハーレム生活は滞りなく進んでいく。紅羽と格ゲーを楽しんだり、メイド喫茶でマサムネに恥ずかしいことをいわせたり、ナクルと疑似恋人関係になったり、奏お嬢様に思う様振り回されたり……。そんな中、スバルがジローの家にやってきた。奏のために作る料理を手伝ってくれというのだが、拍子で飲んでしまったお酒が、彼女の理性を吹き飛ばし……。

 おー、けっこう進んだなあ。
 いや、もちろん前巻のあんな引きのあとに、まったく2人の関係が進展しなかったら嘘なんだけどさ。ここまで完全にスバルが意識するとは思わなかった。奏の動向も不審だし、この3人の動きはなかなか面白い。
 あとはまあ、酔っぱらいスバルかな。個人的に、お酒好きな女の子、とくにお酒に飲まれてる女の子にたまらないフェチシズムを感じる僕としては、これはけっこうストライクでした。変貌ぶりが極端で大胆すぎるような気もするけど、うん、まあこれはこれで、ねえ。

疑心~隠蔽捜査3~

2011-01-16 16:59:26 | 小説
疑心―隠蔽捜査〈3〉
今野 敏
新潮社


「疑心~隠蔽捜査3~」今野敏

 警察庁から所轄の大森署に左遷されたものの、すかさず立てこもり事件を解決したりと、順調に評価を上げ続ける竜崎。アメリカ大統領の訪日に合わせて第二方面本部長を任ぜられた竜崎は、そこで運命の再会をする。かつて、警察庁時代に面識のある女性キャリア・畠山が秘書官として派遣されきたのだが、ななななんと、竜崎は彼女に惚れてしまい、仕事が手につかなくなってしまったのだ……。

 あの竜崎が、まさかの浮気!?
 あらすじを読んで驚いて、中身を読んで仰天して、の一気読み。いまは心からほっとしている。ネタバレになるかもしれないが、本当に良かった。妻は強し。冴子さんぱねえす。畠山女史も悪くはないし、竜崎が恋するシーンなんて滅多に見れるものではなくて新鮮だったのだけど、やっぱり竜崎はこうじゃないとね。
 このシリーズの常として、働く大人たちの描写がいちいちかっこよくていいです。ひねくれ刑事の戸高、シークレットサービスのハックマンなど、信念をもって仕事する人たちの精神性には毎回感動させられる。いやあ、不動の一番は竜崎ですがね。彼の合理性や滅私奉公ぶりにはほんと、頭が下がります。現実の日本も、こういう人に護られているといいのになあ、というのは夢見すぎですかね。