ファントム・ピークス (角川文庫) | |
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「ファントム・ピークス」北林一光
長野は安曇野。山で行方不明になったまま見つからなかった妻の遺体発見の報に触れた周平は、しかしどうにも納得がいかなかった。あんなに冷静で慎重だった妻が、どうしてこうも無残な姿になってしまったのか。あの日、この山でいったい何が起こったのか。彼女は最後に何を見たのか……。
それから数週間後、かつて周平の妻がいなくなったであろう場所の近くの沢で写真をとっていた女子大学生が姿を消し、時近くして母娘連れも消息を絶った。
次々に生者を飲み込み幻影のように立ちはだかるその山に潜むモノとは、はたして……。
妻の仇を討つために、50も近いオヤジが山中果敢の決死行。
とまあ、そういうお話。ミステリな出だしと雰囲気だが、中身はパニックエンターテインメントなので過剰な期待はしないこと。いやほんと、犯人の正体はわりとすぐに判明するし、意外性もほとんどなかった。丁寧な描写と人物相関のおかげで安定して読めはするが、それだけという印象。
ぶっちゃけ、あれのせいなのかな……。この手の小説に関しては北海道の開拓村の例のあの事件……というだけでわかる人にはわかってしまうと思うけど、あの事件を題材にしたあの本を超えることはできないから、どうしても色あせて見えてしまう。この本が悪いわけではないのだけど、同じ土俵で勝負はできない。勝てるわけがない。
だからというか、「ファントム」というテーマを作者はちらつかせている。外国の古い洋画の中で、山に立ち入ったまま行方不明になった少女たちのお話をからめて、神秘的な雰囲気を醸し出そうとしている。その試みは、最初こそ効いていた。僕がちょっと書店で立ち読みし、気に入ったのもその部分だった。でも後半の、犯人が判明し、いざ対決となってからの一気の展開。次々と変わる視点と犯人の圧倒的脅威に挟まれて、それはすり潰されてしまった。周平の想いも、ぼんやりとした、小さな叫びになってしまった。
ページ数あれば……いや、やはり組み合わせが悪かったのだろうと思う。この犯人でファントムは表現できんよ。濃すぎるのだよ。