はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

ファントム・ピークス

2012-03-30 07:04:32 | 小説
ファントム・ピークス (角川文庫)
クリエーター情報なし
角川書店(角川グループパブリッシング)


「ファントム・ピークス」北林一光

 長野は安曇野。山で行方不明になったまま見つからなかった妻の遺体発見の報に触れた周平は、しかしどうにも納得がいかなかった。あんなに冷静で慎重だった妻が、どうしてこうも無残な姿になってしまったのか。あの日、この山でいったい何が起こったのか。彼女は最後に何を見たのか……。
 それから数週間後、かつて周平の妻がいなくなったであろう場所の近くの沢で写真をとっていた女子大学生が姿を消し、時近くして母娘連れも消息を絶った。
 次々に生者を飲み込み幻影のように立ちはだかるその山に潜むモノとは、はたして……。

 妻の仇を討つために、50も近いオヤジが山中果敢の決死行。
 とまあ、そういうお話。ミステリな出だしと雰囲気だが、中身はパニックエンターテインメントなので過剰な期待はしないこと。いやほんと、犯人の正体はわりとすぐに判明するし、意外性もほとんどなかった。丁寧な描写と人物相関のおかげで安定して読めはするが、それだけという印象。
 ぶっちゃけ、あれのせいなのかな……。この手の小説に関しては北海道の開拓村の例のあの事件……というだけでわかる人にはわかってしまうと思うけど、あの事件を題材にしたあの本を超えることはできないから、どうしても色あせて見えてしまう。この本が悪いわけではないのだけど、同じ土俵で勝負はできない。勝てるわけがない。
 だからというか、「ファントム」というテーマを作者はちらつかせている。外国の古い洋画の中で、山に立ち入ったまま行方不明になった少女たちのお話をからめて、神秘的な雰囲気を醸し出そうとしている。その試みは、最初こそ効いていた。僕がちょっと書店で立ち読みし、気に入ったのもその部分だった。でも後半の、犯人が判明し、いざ対決となってからの一気の展開。次々と変わる視点と犯人の圧倒的脅威に挟まれて、それはすり潰されてしまった。周平の想いも、ぼんやりとした、小さな叫びになってしまった。
 ページ数あれば……いや、やはり組み合わせが悪かったのだろうと思う。この犯人でファントムは表現できんよ。濃すぎるのだよ。

乙女ゲーの攻略対象になりました…。

2012-03-25 21:24:40 | 小説
乙女ゲーの攻略対象になりました…。 (電撃文庫)
クリエーター情報なし
アスキー・メディアワークス


「乙女ゲーの攻略対象になりました…。」秋目人

 大翼学園2年の武尊湊は、日下部でもあった。親の都合で名字があれで……とかいう家庭の事情ではなく、ペンネームでもハンドルネームでもない。表現的には「前世」が一番しっくりくるだろうか。
 日下部だった時の自分には妹がいて、妹はいわゆる乙女ゲーマニアだった。プレイヤーは女主人公を操作し、数多のイケメンどもを従えたハーレムを目指すのだと、妹はよく語っていた。今一番好きなのは「フォーチュン・クラウン」で、武尊湊という攻略対象がいて、こいつがおそろしく攻略しづらいのだと。気を抜くとすぐ死んでしまうのだと……。
 妹のマニアっぷりを今日も適当にほいほいしていたら、日下部は、いつの間にか武尊になっていた。妹はどこか別の次元へ消失してしまい、自分はゲームの中の登場人物、もっというと、いつ死ぬかもわからない不遇な攻略対象になっていた……。

 まわりくどいけどまあ、そういうお話。
 気を抜けばすぐバッドエンド確定のギリギリの状況におかれた湊が、ゲーム(?)から脱出するために、数多の女の子たちとの間に立ちまくるフラグをべきべきにへし折りまくっていく様が面白かった。
 ベタながらわきまえた存在感を示す乙女たちも好印象で、なかなかに楽しめた。
 乙女ゲーはあんまし……と敬遠する殿方にもちょっと待ってほしい一品。いやまじで、一度は好き嫌いせずに読んでおくべきだと思う。
 実際、全然乙女ゲー要素はない。というか、ぶっちゃけ男子向けハーレムものなので……。 
 あ、個人的にはブラコンで傲岸不遜で完璧超人な姉の透子押しです。少数派だとは思うけども。


ハイスコアガール(1)

2012-03-20 15:41:27 | マンガ
ハイスコアガール(1) (ビッグガンガンコミックススーパー)
クリエーター情報なし
スクウェア・エニックス


「ハイスコアガール(1)」押切蓮介

 舞台は1991年の日本。カプコンの名作「ストリートファイターII」によりもたらされた格ゲー全盛期のあの頃。主人公の矢口はゲーム以外になんの取り柄もない子供だった。勉強もできない運動もダメ。同級生とのコミュニケーションもうまくとれず、何かというと下品な言葉を連呼する。ただのクソガキだった。
 そんな矢口の日常に変化が訪れた。ある日矢口のホームとするゲーセンに、天使が舞い降りたのだ。天使の名は大野晶。矢口のクラスメイトのお嬢様で、いつも小奇麗な格好をしていて、無口で、人を見下すような目をしていて、お稽古事に忙しくてろくに友人と遊ぶ暇もないはずの彼女が、なぜかストIIで連勝街道驀進中。しかもキャラはザンギエフだと……!?
 唯一のプライドのよりどころであるゲーセンを守るため、矢口は彼女に対戦を挑む。キャラはガイル。「待ちガイル」や「投げハメ」など、大人げない汚い技を駆使して、なんとか勝利をものにするのだが、直後、激昂した彼女に強烈な前蹴りをくらって……?

「ゆうやみ特攻隊」「でろでろ」など、ホラーでグロテスクでギャグな作風が売りの押切蓮介が、いよいよ恋愛漫画に挑戦した!
「ピコピコ少年」プラスラブコメ!
 これだけの説明で、知ってる人ならわかると思う。氏の得意なお嬢様系美少女と、ゲーマー小僧の幼き日の友情とほのかな恋を描いている。
 いやしかし、大野さんほんとにかわいいわ。世間一般でいうことろの萌え系とはかけ離れた容姿なのだけど、その所作や目つきや肉付きが怪しげでエロティックで目が離せない。ほとんど言葉を発しないので心情はこっちで汲み取るしかないのだけど、それが逆に、コミュニケーション不全なクソガキから見た大野さんという感じがして、関係性的にもリアルだった。
 ゲーム的には8割ストII、1割ファイナルファイトといった感じで、当時のゲーセンの格ゲーツートップというラインナップがひたすら懐かしかった。僕もちょうどこのくらいの時期にゲーセンにいたんだよね。懐かしいわ。しみじみ。もちろん、大野さんみたいな女の子はいなくて、子どもと不良のたまり場みたいな感じだったけども。
 続き物で、次巻は中学生編のようなので、そっちも楽しみ。

血まみれスケバンチェーンソー(1)

2012-03-17 16:41:36 | マンガ
血まみれスケバンチェーンソー 1 (ビームコミックス)
クリエーター情報なし
エンターブレイン


「血まみれスケバンチェーンソー(1)」三家本礼

 3年A組においていじめの対象だった碧井ネロ。フランケンシュタインも真っ青のマッドサイエンティストな彼女は、クラスメイトをゾンビ化させ、支配下に置く計画を実行に移した。次々にクラスメイトを攫い、改造手術を施し……その連鎖は、最後の一人である鋸村ギーコを除いてはうまくいった。しかし、このギーコが問題だった。町外れのボロ家に1人住まいの彼女は、昼間からどぶろく臭の息を吐く不良で、一般人のような倫理常識の通じない埒外人間だった。セーラー服にさらしに下駄履き、その手にはチェーンソーという狂ったファッションで、群がるゾンビどもをなぎ倒し始めた……。

 三家本作品は初見なんだけど、や、すごいねこの人。ウルトラ・スプラッタ・ロマンの煽り文句は伊達じゃなかった。
 女性主人公対ゾンビの無双モノっつーとどうしても「お姉チャンバラ」とか思い出すんだけど、いや、あんなもんじゃなかった。ゾンビになったとはいえ、かつてのクラスメイトを情け容赦なく切り刻む立ち回り。乳尻太股と、見た目はかなりグレード高いお姉ちゃんが口汚く敵を罵る様が、返り血でぐっしょり濡れた立ち姿が絵になりすぎていた。
 敵も完全に狂ってた。股間からミサイル飛ばしてきたり、いやらしい触手を振り回してきたり、とても言葉では表現できないような格好で出てくるかつてのクラスメイトや、ボスとしてのネロのはち切れんばかりの敵意と狂気がびんびん響いてきた。
 直感で楽しむものなので人は大いに選ぶと思うけど、ぜひ一読していただきたい。 

なれる!SE〈6〉楽々実践?サイドビジネス

2012-03-12 19:37:09 | 小説
なれる!SE〈6〉楽々実践?サイドビジネス (電撃文庫)
クリエーター情報なし
アスキーメディアワークス


「なれる!SE〈6〉楽々実践?サイドビジネス」夏海公司

 入社一年目にして立派な社畜に成り下がった桜坂は、素人ながらもPMまでこなしたりして、少々天狗になっていた。
 そんな折、大学の同窓会が開かれる。ゼミの同期でアイドル的存在だった西新伊織は相変わらず美しく、桜坂ごとき存在にも分け隔てなく接してくれた。相変わらず女神だった。その女神が偶然にも会社の情シス担当だったことから、話はおかしな方向へ流れていき……?

 表題作「楽々実践?サイドビジネス」を含む5編からなる短編集。
 桜坂と室見が怪しげな新商品の検証を行う「今すぐ始める?検証作業」。
 桜坂と室見が面接担当になる「絶対合格?採用面接」。
 結婚式のスピーチを頼まれ往生している橋本課長と彼女をサポートしようと頑張る桜坂の「心に残る?3分間スピーチ」。
 アル中っぽくなっている梢が禁酒を決意して……「完全?禁酒マニュアル」。
 とまあ、いかにも面白げなタイトルが並んでいて、実際にどれも面白かった。この作者、絶対短編のほうが面白いと思う。お仕事話の生かし方が抜群。
 なかでも一番面白かった(?)のは、最後の梢のお話だった。これだけが唯一梢視点からの一人称で、仕事や人間関係のストレスからアルコールに走る彼女が、そのたびに記憶をなくすほどに泥酔し、挙句淑女にあるまじき不穏な言動や行動を繰り返す様がいたたまれなかった。ヤンデレ風味なストーカー……なだけじゃなかったんだなあ……と慄かされた。桜坂とのルートはかなり細そうだけど、アルコールの勢いで無理矢理……みたいなやり口だったらいけるのかね……え、それレイプ?……うん、そうだね……。
 あとちょっと気になったのは頭身の変化。室見の見た目が小学生から中学生くらいにまで成長してた。いままが幼すぎたので良い変化なんだけど……なんかあったのかね?

エスケープ!

2012-03-08 20:12:24 | 小説
エスケープ! (幻冬舎文庫)
クリエーター情報なし
幻冬舎


「エスケープ! 」渡部 健

 主人公・シュウは、ヘタレでボンヤリしてて、優しい、というか怒れないことが唯一の取り柄の大学生。中小ながらも就職内定した彼は、恋人のチカゲに暗に結婚を迫られてウンザリ。気分屋で、ちょっとしたことで怒る彼女の押しの強さにも辟易している。そんな折、雑誌「エンタメジャンク」に掲載されていた空き巣の手口を見て、彼は天啓を受けたような気分になる。チカゲの友達のセレブな女学生・フーちゃんの豪邸が、まさしく狙いやすいタイプの家だったのだ……。
 
 アンジャッシュ好きです。喋りがたつわけでも、特別面白い顔をしているわけでもないけど、彼らの得意とする勘違い系コントには、文語的な魅力がある。日本語特有の、音による意味の違いを生かした巧妙さは、他のコンビニはないもの。
 で、この作品は渡部さんの初小説なんだけど、内容は彼らの得意の勘違い系コントを文章に起こした感じ。小説だからこそできる長い描写とたくさんの伏線と、シュウ、チカゲと他一名による視点の変化がそこへ多層的に深みを加えていて、最後にドミノ倒し的に炸裂させることで、素晴らしいカタルシスを与えてくれている。最後の人情味あふれるオチの付け方もお見事。アンジャッシュファンなら是非に。未見の人なら、コントを見たくなること請け合い。
 

まかまか (1)

2012-03-04 17:41:22 | マンガ
まかまか (1) (角川コミックス・エース・エクストラ)
クリエーター情報なし
角川書店(角川グループパブリッシング)



 皆……気をたしかに持って聞いてほしい……
 そうなんだすまない。
 表紙詐欺なんだ……

「まかまか(1)」美川べるの
  
 という表紙裏の独白から始まるのは、百合っぽい表紙の見た目からは想像もつかない、喪男教師と歪んだキャラ持ちの女子高生しか出て来ないダメ人間系ギャグ漫画だ。
 舞台となるのは私立ファムプーリ学園。伝統ある小中高一貫の女子校で、普通の男性にとっては夢のような職場環境なのだが、34年喪男で、浮いた話に縁がなさすぎて、この世の美男美女(美女はどうせ自分のことをせせら笑っているから嫌い)を憎みきっている主人公・速見敦志にとっては地獄でしかなかった。
 しかも、敦志の担任のクラスには、問題ばかり起こす5人組がいて……。

 美咲亜弥:見た目美少女なのに、いつも張り付いたようなにやにや笑いを浮かべていて、出てくるのはトンデモ発言ばかりで、起こすのは人間の限界をさらりと超えた超常現象ばかりなので、浮いている存在。
 牧島昴:おとなしくたおやかな乙女と見せかけて、ひとめぼれした敦志に変質的なストーキングを繰り返す残念乙女。敦志のやることなすことすべて好意的にとらえるフィルターを備えている。
 桐生沙有:ツインテでツリ目だけどデレない。全力ツッコミが持ち味で、そのためなら恋のひとつやふたつは見逃す所存。
 小鳥遊真樹:本名まさき。男の娘。
 桃井乃々:ちびっ娘。でも面倒見の良いオカンキャラ。
 後半2人は目立たないので頭に入れなくてもいいかも。というかむしろ3人組で良かった説。基本、亜弥、昴に対するツッコミを沙有が入れていくスタイルなので、本当に必要性を感じない。

 なんだかんだで敦志を好意的に受け入れてくれる彼女らとのスクールライフは、帰宅部(5人組が所属している)の大掃除や、クリスマスや、敦志のための弁当作りや、花見など、普通に聞くとどこのハーレム系ラブコメなんだと思われるかもしれないのだけど、ところがぜんぜんそんな風にはならなかった。美川べるの特有の全力ボケと全力ツッコミが面白すぎて、恋する暇なんてありゃしない(昴のは……なんか違う)。最初から最後まで笑わせてもらった。
 とくに良かったのは敦志だろうか。喪男の殻に閉じこもった彼の歪んだ世界観が素敵だ。安易にデレない姿勢も素晴らしい。
 次巻も当然の買い。他の作品に比べると比較的読みやすいので、美川べるの未体験の人にもぜひおすすめしたい。

アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者(1)

2012-03-01 15:16:13 | 小説
アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者1 (講談社ラノベ文庫)
クリエーター情報なし
講談社


「アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者(1)」榊一郎

 とある未来の日本国。富士の樹海の奥に発見された穴の向こうには、なんと異世界への扉が広がっていた。魔力に満ち、ドラゴンが空を飛び交うファンタジーワールドとの「交易」を独占しようと考えた日本政府は、偏見と差別はびこる封建社会を、自由と平等の名のもとに、文化で制圧しようと試みることに。そこで白羽の矢が立ったのが、日本が世界に誇る「オタク」文化だった。
 主人公の慎一は、好きだった幼馴染にオタクだからという理由でフラれた悲しい男。それがきっかけでニート道をひた走るが、とうとう両親の逆鱗に触れ、「勘当か進学か就職か」の選択を選ばされることに。そこで就職を選んだ慎一は、めぐりめぐって件のファンタジーワールドへ送り込まれる。夢にまで見た異世界で、政府の手先の総合エンターテインメント商社アミュテックの総支配人となった慎一は、そこで残酷な現実と、起こせるかもしれない奇跡の狭間で揺れ動くのだった……。

 オタク文化でファンタジー世界を侵略、というのはかなり珍しい試み。
 しかーし、言語の違いや識字率の差のせいで、この1巻ではぜんぜんオタク文化が出て来なかった。せいぜいハーフエルフメイドやロリ皇帝といったパーツパーツに慎一が反応するくらい。表現にアニメや漫画の単語が使われたりはするものの、それもどうにも古臭くてのれなかった(いまどきエヴァネタもガンダムネタも古いでしょう)。ロリ皇帝を膝に座らせてのファンタジー漫画の読み聞かせとか、広める前の手順としてはわかるものの、どうにも悠長すぎやしないか?
 キャラ的には、さっき挙げたハーフエルフメイドやロリ皇帝、リザードマンの使用人に切れ者の騎士といった、いかにもなテンプレキャラばかりなのだけど、それぞれがぞれぞれの立場から、異文化を学ぼうとする姿勢が興味深かった。
 慎一は、幼馴染とのトラウマから、ちょっとでも迫害されている人をバカにされるとキレるのだけど、それがストーリーにうまいことかみ合っていて良かった。なんの打算もなく感情のままに怒ることのできるキャラなので、考えてみりゃけっこう危ないのだけど、その危うさが良かった。
 でもなー、せっかく「念願の」異世界にきたんでしょ? もっといろいろ動き回ろうよ。ちょっと動きがなさすぎ。仕事ばっかりしてんなよ。どんなおとなしいやつだって、仕事の合間合間にいろいろ見て回るでしょーよ。そして、それは同時に僕らが見たい、追体験したいことでもあるんだからさ。
 とりあえず、2巻に期待。