はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

ツァラトゥストラへの階段(3)

2008-11-30 16:36:15 | 小説
ツァラトゥストラへの階段〈3〉 (電撃文庫)
土橋 真二郎
アスキーメディアワークス

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「ツァラトゥストラへの階段(3)」土橋真二郎

「ライアーゲーム」のように謎の組織から指定されたゲームに挑む、パルス能力者たちの戦いを描いたシリーズ第3弾。
 今回のお題は「PRINCESS SAVOR」。現実の東京のどこかに囚われている姫を、携帯ゲーム機の中にいるナイト(協力者)とタッグを組んで助け出すゲームだ。ただしゲーム機に表示される、そしてゲーム機内のナイトに見えるのは電子変換されていない真っ暗闇のマップで、移動や攻撃に足りない部分の描画はプレイヤーの電子変換能力で補完しなければならない。プレイヤーの移動とナイトの移動はリンクしていて、現実の障害物にナイトが接したり、現実の通行人にナイトが接触すればダメージを受ける、HPが0になったらゲームオーバー。
 大雑把に説明するとそんな感じのゲームで、個人的にはあまりそそられなかったのだが、プレイヤーの福原と組むナイトが、1巻でも出てきたオリビアときては盛り上がらざるをえない。
 かつて共闘した囚人ゲームで救えなかったオリビアを助け出そうと張り切る福原。だが感情移入しているぶんオリビアを傷つけたくなくて、操作がぬるい。そんな福原を傍から見ている舞はやきもき。互いの気持ちがわかるからこそのもどかしさが読んでいて辛い。
 クラスメイトで同じくパルス能力者の立花飛鳥の命がけの協力や、幼馴染の由紀の尾行など、女性陣とのからみの多さは相変わらず(というより男性キャラがほとんどいない)。抱き合ったり手を繋いだり、コミュニケーションのとり方も徐々に進展してきている。所作に無理矢理感がないのもこの作品のいいところ。
 でもやっぱりだめを押すのはオリビアだろうか。ゲーム機を介しての間接的な接触ながら、確実に触れ合っていた2人の間が引き裂かれ行く様が重い。エピローグへと収束していく一連の流れは必見。1巻を読んだけど気にいらなかった人でも、なんとかここまで読み進めて欲しい。それだけの価値はある。

むかし僕が死んだ家

2008-11-28 19:59:38 | 小説
むかし僕が死んだ家 (講談社文庫)
東野 圭吾
講談社

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「むかし僕が死んだ家」東野圭吾

 大学に務める「私」の前に現れた元カノ・倉橋沙也加。7年前に終わった男のもとに彼女がもってきたお願いは、逝去した父の遺品の謎の鍵の用途を知ることだった。
 男ってのはバカなもので、昔の女はいつまでも自分とのことを忘れないと思っている。私もそれは同様で、ひさしぶりの再会に邪な期待で浮き立つ。人妻という垣根もあったりして、背徳感はいやが上にも高まるが、いやいやお泊りだけはしないようにしなくてはとあれこれ気を使ったりする30ウン歳。
 そんなこんなでたどり着いたは別荘地。地元の人間でも難しいようなわき道を通った先にあるのは無人の洋館。正面の玄関は締め切りで裏口からしか入れず、調度品の古さもまちまち。いやさそもそも、近辺住人の誰1人としてここに人が住んでいたのを記憶していない……。
 洋館の謎を探るうち、私は沙也加の特殊な境遇を知ることになる。小学校より前の記憶が1ミリたりとも存在しないとか、したくないのに我が子を虐待してしまうとか、それら陰惨たる事実が洋館の遺品と結びついたとき、そこには驚くべき過去が待ち構えていた……。

 外れ知らずの東野圭吾。90年代半ばの作品。
 郵便すら来ないような無人の洋館。天気も悪く日も暮れて、一層寂寥感の増す中に2人きり。そんな状況だけでも怖いのに、同じ時間で止められた時計や置き忘れられた(?)財布、書きかけの日記といった不気味な遺品があわさって、ちょっとしたホラーみたいになっている。
 状況作りで一本。後半一気の謎解きも読み応え充分。さらに張った伏線をすべて回収して、切ないラストに収束させている。お見事。

大日本天狗党絵詞 (1) 新装版

2008-11-26 08:59:24 | マンガ
大日本天狗党絵詞 1 新装版 (1) (アフタヌーンKC)
黒田 硫黄
講談社

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 陽が西の端に暮れる頃には ものかげに沈んでいたものがぼんやりと浮かび上がるものです 
 それは後ろから近寄り耳もとでささやきます いこうよ どこに? ずっと遠くにいこうよ
 あまたへだてた彼方には人ならぬものたちの別天地 いなくなったあの子は今頃どうしているのでしょう
 じつはまだ むこうの岸に一歩とどかぬ水の中

「大日本天狗党絵詞 (1) 新装版」黒田硫黄

 主人公のシノブは、幼い頃に天狗の師匠にかどわかされて以来、人間の生活に戻ることはなかった。食を求めてゴミをあさり、日々の寝所にも困る現代の天狗の哀れな生活に嫌気が差し、かつての我が家の戸を叩いた。
「としのり開けてよ私! 姉さんよシノブよ私」
 しかし成長した弟は、いないはずのシノブと生活していて……。

「セクシーボイスアンドロボ」や「茄子」の奇才・黒田硫黄が描くは、なんと天狗のお話。連れていかれていった子供たちがどうなってしまったのか、天狗はどのように暮らしているのか、黒田流の新解釈で現れた天狗たちは、貧困で、猫に追われたりするほど脆弱で、様々な術を持っている割にはまったくうらやましくない生活を送っている。
 天狗総がかりでの邪眼の男との対決や、チンドン屋、何百年を生きる伝説の天狗Z氏などなど、見所は豊富にあるが、相変わらずの墨でも流したような紙面からは、すえた匂いや寒さ、陰惨な風情が漂ってきて落ち着かない。寂しくてかわいそうという意識が頭から抜けず、読んでいて沈んだ気持ちになってしまった。

カナスピカ

2008-11-23 23:54:15 | 小説
カナスピカ
秋田 禎信
講談社

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「カナスピカ」秋田禎信

 ある日加奈が道を歩いていると、空から謎の球体が落ちてきた。球体はみるみるうちに人型を象り、美しい少年になった。自らのことをカナスピカと名乗った少年は、50年前から地球の地形を観測し続けてきた外宇宙の衛星で、隕石に衝突して落下したのだという。このままでは100年くらいしか活動できないが、任務はあと29950年残っている。なんとかして軌道上へ戻りたいのだが……。
 
 シンプル極まりないジュブナイル。少女と衛星が空を、その先にある宇宙を目指し、かつてカナスピカが飛来したポイントであり帰る方法の眠るハバルを探して稲牟田市(加奈の町)を歩き回る。現代の科学技術ではなく完全にカナスピカの技術に依存しているため、もっぱら探すことがメイン。そこに稲牟田市の宇宙人対策室(!)や詮索好きなクラスメイトが絡もうとするのだが、加奈視点の一人称で、また加奈があまりにも防衛的な性格なので、絡まない絡まない。
 となると残りは加奈とカナスピカの交流が見もの、ということになるのだが、所詮は衛星。人情の機微も理解できず、加奈が一方的に恋心を抱くのみ。少女が体を張って何かを守るという構図は美しいけれど、どうかなこれは。ラストも綺麗にまとめた風だが、空回りの悪印象しか残らなかった。
 秋田禎信というと「魔術士オーフェン」のメガヒットで名を馳せたライトノベル作家。この人の文体の面白さはなんといっても負の表現にあって、それは醜さを描くことで逆に美しさを表現するという高等技術なのだが、今回は文体もおとなしく余所行きな、なんとも眠たい作品を作ってしまった。

扉の外(1)

2008-11-21 20:21:09 | 小説
扉の外 (電撃文庫)
土橋 真二郎
メディアワークス

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「扉の外(1)」土橋真二郎

 修学旅行へ行く途中の千葉たち4組は、目覚めると見知らぬ場所にいた。24時間サウナのような部屋でリクライニングシートに座らせられていた。部屋の中央には大きなモニター、アニメ調の女性キャラ「人工知能ソフィア」が映し出されている。
 ソフィアは言う。最終核戦争により人類は滅亡したが、千葉たちはからくも難を逃れ、宇宙空間を漂う船に乗り込んでいると。これから先ソフィアの支配下に従うなら食料も水も、文化的な生活をおくるための生活基盤も娯楽さえも提供しよう。是なら何もするな。否なら腕輪を外すか部屋を出ろ。
 ソフィアの口ぶりに反発心を抱いた千葉は、反射的に腕輪を外す。31名中唯一の例外となり、あてもなき目にも見えぬ存在との戦いを開始する。それは決して外部だけではなく、内部にも存在していて……。

 「ツァラトゥストラへの階段」の土橋真二郎のデビュー作。食料や娯楽の配給も、自分達のおかれた状況を知るための術も、それを守る術までもが、定期的に獲得できるポイントでの一元管理下におかれるというゲーム的な状況設定はさすが。
 社会の制約やらルールやら、そういったものに無意識に反発する頃ってあるけど、主人公の千葉にはそのひどいのがきていて、本当、目につくすべてのものに疑いの目を向ける。頑なな態度は周囲から人を遠ざけ、逆に無関心や憎悪、嫉妬といった様々な悪意の対象となる。暴力禁止のルールがなければ序盤のうちに殺されてしまいそうなほどの、読んでて胸の悪くなるくらいの斜に構えぶりがすごい。これも若さか?
 そんな千葉にいろんな意味でべったりの亜美、堅物委員長の和泉、陸上部のナイスガイ氷室、閉鎖空間でのそれぞれの心の動きが面白い。というかこんな話ばっかりなのか、土橋。まあ好きだけど。

ツァラトゥストラへの階段 (2)

2008-11-20 12:41:01 | 小説
ツァラトゥストラへの階段 2 (2) (電撃文庫 と 8-5)
土橋 真二郎
メディアワークス

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ツァラトゥストラへの階段(2)」土橋真二郎

  パルスの一端を握り目覚めかけた福原。だが能力の固着には程遠く、囚人ゲームを通して知った人や世界に比べあまりにぬるい現実生活との落差が、その「とっかかり」を薄れさせていく。 
 そんな折、福原のもとに一通の手紙が届く。それはパーティーの招待状を模したゲームへの参加切符だった。ゲーム側のエージェント・舞とともに訪れた会場で行われるゲームは初のチーム戦。キング役の男性プレイヤーとクイーン役の女性プレイヤーがタッグを組んで、他のパルス能力者と戦い賞金を奪い合うというシンプルそのものの内容だが、巧妙にふるわれた味付けはゲーム会場に血の雨を降らせることとなる……。
 福原とタッグを組む美貌の女性プレイヤー・カレン。ゲーム内で遭遇したクラスメイト・立花飛鳥。男性に比べ暴力的な女性のパルス能力(男性は知力、女性は武力という住み分けらしい)の発現が、話全体に彩りを与える。未だ霧の向こうでぼやけて見えないゲーム運営組織。いなくなった姉の行方。福原を取り巻く女性陣の動向。加速する電撃型ソリッドシチュエーションスリラーの今後に期待だ。

ツァラトゥストラへの階段(1)

2008-11-18 16:59:28 | 小説
ツァラトゥストラへの階段 (電撃文庫 と 8-4)
土橋 真二郎
メディアワークス

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「ツァラトゥストラへの階段(1)」土橋真二郎

  目覚めると見慣れぬ部屋にいた。手錠に繋がれた複数の男女と福原駿介と人数分のトランクと、ひとつの首吊り死体……。誰もがわけのわからない状況の中で、アナウンスが響く。
 ひとつ、トランクの中身は個人個人のものであること。中身は現金1千万円とペットボトルの水と、拳銃。弾倉には空砲か実砲かわからない銃弾が1発のみ……。
 映画「SAW」の1を思わせるようなソリッドシチュエーションスリラーの第1作。ただしこちらは主人公固定の連作で、その都度「囚人ゲーム」というゲームに参加させられる形式。
 最初はゲームへの参加を嫌がっていた福原だが、かつて失踪した姉がゲームに関係し脱落していたことを知り、自ら危険の中へ踏み込んでいく。

 電撃文庫ということで多少の縛りがあるのかもしれないが、出来事のひとつひとつはソフト(人が死なない。その分いやらしいといえばいえる)。かつゲーム寄り。毎回様々な趣向を凝らして読者が飽きないような気配りをしている。
 独特な要素のひとつとして「パルス」というものがある。これはある種のESPのようなもので、もしくは劣化版の「念」で、ゲーム参加者は程度の差こそあれ「パルス」に目覚めた超人間のみ。知や武に長けた超人間のバトルが爽快で、おもいっきりはまってしまった。絵がかわいすぎて合わないという弱点を除けば、こういう趣向の人には福音ともいえる1作。

とある飛空士への追憶

2008-11-16 10:21:17 | 小説
とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い) (ガガガ文庫 い 2-4)
犬村 小六
小学館

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「美妃を守って単機敵中翔破、1万2千キロ。やれるかね?」

「とある飛空士への追憶」犬村小六

 戦況の悪化から、帝政天ツ上領内にナイフのように突出した状態になってしまった神聖レヴァーム皇国リオ・デ・エステ。次期皇妃ファナを救うため編成された第8特務艦隊は敵の襲撃に遭いリオ・デ・エステに到達する前に全滅。技術力の差から制空権を握られているため、今後も作戦成功の可能性は薄い。窮余の作として選択されたのが、水上偵察機の後席にファナを乗せ、中央海を単機敵中翔破すること。
 白羽の矢を立てられたのが狩野シャルル。デル・モラル空挺騎士団のエースパイロットにして、神を信仰する朴念仁。なにせ光芒五里に及ぶと称されるほどの美貌の持ち主と2人きりなものだから、周囲の心配はそこ1点に集中する。
 天ツ上とレヴァームの混血、ベスタドとして迫害され続けてきたシャルルは、その任務の晴れがましさ以上に、ファナを救いたい気持ちで一杯だった。かつてシャルルの母がお手伝いとしてファナの屋敷に住み込んでいた時、正しく生きることの大切さを教えてくれたのが彼女だったから。自分が最も輝ける空を、人種も階級も関係ないまっさらなあの蒼穹を一心に駆ける……。
 
 海水から充電できる水素電池という技術がある世界。プロペラとジェットが混合したような航空機。無数の敵艦隊相手に戦う少年。ライバルとのドッグファイト。美妃との触れ合い。シンプルこのうえない設定だけに、実力が問われる難しいお題でもある。
 犬村小六は初見だが、うまく描けていると思う。シャルルやファナはもちろん、味方側敵側双方の陣営の書き込みもじゃっかん物足りなかったが、300弱というページ数では健闘といえるだろう。空戦部分は迫力も臨場感もあった。当然最後に待っている別れまで含めて、期待を裏切らなかった。このあと2人が会えたのか会えなかったのか、エピローグの匂わせ方も心憎い。この手の題材が好きな人であれば、迷わず買いといっていいだろう。

「大東京トイボックス(3 )」

2008-11-15 10:22:07 | マンガ
大東京トイボックス 3 (3) (バーズコミックス)
うめ
幻冬舎コミックス

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質問「丸いもので「ち」のつくものを答えなさい」

「大東京トイボックス(3)」うめ

 電算花組とタッグを組んで、次世代ゲーム機用の新作開発に乗り出した天川太陽率いる弱小ゲーム製作会社・スタジオG3。萌えるシューティング「デスパレートハイスクール」という隠し玉を引っさげて臨んだソリダスワークスの一次審査を難なく突破したまではよかったが、新人の女の子・モモにいいとこを見せたい若手プログラマー・マサの暴走で製作進行がいきなり座礁に乗り上げる……。
 ぐだぐだと格好つけるマサに対し、自分は天川と一緒にゲームを作れればいい。その邪魔をすんじゃねえよというモモの一言が強烈。いつの世も、男を狂わせるのは女。逆に言うとまともにするのも女なわけで、こういった必然不可避なパッションの積み重ねが作品に深みを与える。尻すぼみかなと不安になった時期もあったけど、この調子なら安心。次巻が待ち遠しい。
しかしこの漫画を読むたび、零細ゲーム製作会社の悲哀を感じずにはいられない。家庭用テレビゲームというジャンルが切り開かれてから20年以上が経過しているが、その間どれだけのゲーム製作会社が無くなっていったことか。出来不出来関係なく倒れていった者たちの魂に、エミュレータやゲームアーカイブス、バーチャルコンソールなどのサービスで容易に触れることのできるご時世に皮肉を感じた。

「からん(1 )」木村紺

2008-11-12 09:25:49 | マンガ
からん 1 (1) (アフタヌーンKC)
木村 紺
講談社

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「からん(1)」木村紺

 お題は柔道。中学柔道京都2位の高瀬雅と京舞渡部流の九条京。京都の名門女子高に入学した2人の少女が出会い、青春のすべてを柔道に懸けるさわやかストーリー。
 人情味の厚いお姉さんタイプの高瀬が、おっとりタイプの九条を柔道の道に誘い、ともに精進していくという流れが綺麗。いやホント。とてもじゃないが「巨娘」と同じ作家の作品とは思えない。ギャグポジションのキャラたちには共通するものがあるけれど、メイン2人の間柄は他に入りこむ余地のないほど圧倒的に清潔で、思わず吹いてもいない涼風を感じてしまうほど。
 柔道パートも緊迫感があってよい。同じジャンルでいうと、「帯をギュッとね」あたりには到底太刀打ちできないものの、理詰め部分、強きものへの憧れや挑むことへの恐怖、ドキドキ。スポーツ漫画に欠かせない要素をあますところなく揃えている。ほんのり百合風味もあるしね。