「パコと魔法の絵本」原作:後藤ひろひと 監督:中島哲也
緑のタイツを履いた医者、悪魔のような看護婦、子持ちのオカマ、薬中の役者、消防車に轢かれた消防士、銃の暴発で入院中のヤクザ、偏屈な大会社会長とその財産を狙う甥夫婦……。奇人変人ばかりが集う病院の中でも、とびきりの変人・大貫(役所広司)は、胸を患って一線を退いた会社経営者だ。社会から隔絶された疎外感からか、他人を口汚く罵り、意地悪ばかりする嫌な爺になってしまった。
そんな大貫の前に、絵本を携えた女の子・パコ(アヤカ・ウィルソン)が現れる。いつもの調子で怒鳴り散らし、突き飛ばす大貫だが、パコはびくともせず、ニコニコ笑いながら接してくる。拍子抜けしたと同時に絵本まで読んであげてしまった大貫だが、一連の騒ぎの中で思い出のライターを無くしてしまう。
どんなに探してもライターは見つからず、翌日となった。昨日と同じ場所でパコと出会った大貫は、初対面のように接してくるパコを奇妙に思いながらタバコを吸おうとしたが、当然ライターはない。すると、満面の笑みを浮かべながらパコが取り出したのは、無くなった大貫のライターだった。盗まれたと早とちりした大貫は、勢い余ってパコをビンタしてしまう。
交通事故で両親を失い、脳に障害を受け、記憶が1日しかもたない病気にかかっていたパコ。しかし、大貫が頬に触れるとそのことだけは思い出すようになった。そんな奇跡のような出来事が、大貫を変えた。毎日絵本を読んでやり、頬に触れてやることで、なんとかパコの病を治し、自分のことを覚えてほしいと思うようになる。しかし大貫の体調も決して思わしくはない。迫り来るタイムリミットを感じながら、大貫はある決断を下すのだった。それは、絵本を現実のものとすること。「ガマ王子とザリガニ魔人」を病院の皆で演じ、パコの記憶を永遠のものとすること……。
記憶喪失プラス劇中劇とCG。役所以下、個性豊かな面々の描く濃厚なファンタジー。
想像以上に面白い。ごった煮のようなそれぞれの要素ひとつひとつに手を抜かず、ディティールにこだわった結果、良質なファンタジーに仕上がった。序盤はもたつきもあり、役所の悪行がひどすぎて見るに耐えないが、優しさに目覚めた後半からの一気呵成の展開が良い。心配されていたCGと実写との融合も無理なくこなせている。
阿部サダヲ、土屋アンナ、加瀬亮、山内圭哉、劇団ひとり、國村隼、小池栄子、上川隆也などなど、個性派勢ぞろいの役者陣も良かった。個々の特徴を生かした濃すぎる演技も、逆に濃すぎるがゆえに絶妙にマッチしている。大人から子供まで満遍なく楽しめる、おすすめの一作。
これは役所改心の作品。「Shall We Dance?」なんか目じゃない(いや、十分面白いけどね)記憶に残るほどの一作。緒形拳、峰岸徹と立て続けに名優が亡くなる昨今、是非役所広司には長生きしてほしいものだ。