はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

FF11(5)

2006-06-30 05:23:11 | FF11
蛇女の斬撃が、Gの腹部を薙ぎはらった……と見るや、Gの姿は空気中に霧散するように消えた。あとには何も残らない。
本体は、つまりG本人は、白刃の脇をすり抜けていた。魔法で作りあげた精巧な幻影が身代わりとなってくれたのだ。
ボッ。
突如として、辺り一帯を炎が舐めた。炎の高位魔法。焦げ臭い匂いが鼻をついた。
だがそれも、Gに傷をつけるには及ばなかった。身体を覆うようにして張った耐衝撃魔法が本体へのダメージを許さない。
Gは走っていた。戦場となったアルザビ。己の防御魔法を信じながら、狭い路地を駆け抜けた。
広場へ出ると、怪物どもの発する瘴気のせいで、ズシリと身体が重くなった。海の中を走っているように、息が苦しく遅々として進まない。
目に付いた味方に回復魔法をとばすと、いったん路地に戻って防御魔法を張りなおした。ぴしゃりと頬を叩き、勢いをつけると再び広場へ踏み込んだ。

ビシージ、つまり皇都防衛線に傭兵として参加するのは二度目になるが、一度目も同じような状況だった。攻撃も、防御も、魔法も、自分の行動のすべてが遅く感じる。他の者も似たような状態にいるらしいが、Gの実感としては湧かない。ただストレスだけがたまる。なにせい、自分が魔法を詠唱できているのかどうかわからないというのは不安なものだ。
だが、それでも戦うしかない。
だからGは走った。
目指すは瘴気の薄い、戦場の外縁部。
敵軍を端から崩していく。
手数が勝負の赤魔道士。己の力を最大限に発揮できる場所はそこしかない。

FF11(4)

2006-05-20 11:44:15 | FF11
アトルガン皇国からサンドリアに戻ると、Gは旅支度を整えて一路バルクルム砂丘へ向かった。
赤魔道士としての正装の代わりに、練習生の着るようなハーネスを身に着けている。大型のダルメルの骨を削りだして作ったハーネス装備に、刃を黒く塗った二本の刀。リュックの中には多数の巻物と忍術触媒……そう、Gは忍術の修行の旅に出ていた。
決して本職を忘れたわけではない。むしろ本職を際立たせるための、極めるための新たな技術を習得しようとしていた。
そうでなければ、この先通用しない。
それがわかっていたから。皇国防衛戦や未踏破地域の探索へ向かった同胞たちとは異なる道を選んだ。
修行するならば、かって知ったる土地へ。そんな気持ちで訪れた砂丘は、昔とは異なる姿をもってGを迎えた。
まず、言葉が通じない。修行の聖地は、遥か西方から訪れた異国人が闊歩する怪しげな土地へと変貌していた。
片言の異国言語と身振り手振りで会話をこなしながら、Gの修行は始まった。赤3白2忍1や、召竜赤2白忍など、随分と趣のある徒党を組みながら、苦労して巨大魚を叩く。時に強力な亡霊に追われ、セルビナへと駆け込む。Gは疲労に耐えかねて、セルビナの路上に座り込んだ。浅い眠りの中で、DHのことを思い出した。
DH。二年前に同じような理由で砂丘を訪れた際にパートナーを組んでいた異国人だ。異国人のくせにGの国のことに興味があって、「jyuon omosiroiyo」などとわけのわからぬことを連呼していた。Gのことを「oniisan」と呼びまとわりついてきたりして、G自身もDHのことを憎からず思っていた。その交わりは何ヶ月か続いたが、Gが家を住み替えるなど忙しく、修行どころではなくなったため一時途絶えた。一年ほどの中断のあと、一度だけ出会う機会があった。その時もGはあまりの眠さのためにDHの相手はほとんできず、二言三言の会話で終わってしまったのだが……。
心残りなのは、それが最後の対話だったことだ。今では手紙を送っても反応がない。DHはもうこの地を去った。彼の修行の日々はおそらく終わったのだ。
ありがとうといいたかった。すまないと謝りたかった。共にいた何ヶ月か、たったそれしきの日々がかけがえのないものであることを伝えたかった。
それすらも、いまはかなわぬ。
奥歯を噛み締めながら、Gは空を見上げる。帽子のつばに手をやったが、制帽はサンドリアに置いてきてしまっている。砂丘に舞う黄金の砂が、たちまち視界を覆い、やがて何も見えなくなった。

FF11(3)

2006-05-01 21:45:36 | FF11
「ふんふんふーん♪にゃんにゃんにゃーん♪」
 機嫌のよさそうな子ミスラを見下ろす位置に、サラヒム・センチネルはある。
 サラヒム・センチネルはNaja Salaheemというミスラが経営する傭兵会社で、皇国軍の作戦やミッションなどに自社の傭兵を斡旋派遣し、その血と汗と涙のあがりをかすめとることを生業としている。
 とげつきのハンマーで殴られたところが痛む。Gは首をさすりながら街中を見て回った。
 皇国は、尊き人の住む白門内。その外側のアトルガン白門と、辺境街区のアルザビの三つに区分けされる。アルザビ側の外との連結は、西のワジャームと北のバフラウ段丘への門がふたつ。アトルガン白門は南のマウラ側と北のナシュモ側に港がふたつ。さらに埋門と呼ばれる門がふたつある。どちらもワジャームとバフラウの正面口からすこし離れたところに繋がっていて、樹木で巧妙に隠されている。なんとも物々しいことに、伏撃夜襲用の門だという。
 この国は戦時下にある。
 ジュノや三国とて平和安寧を貪っているわけではないが、ここほど頻繁かつ大勢力の襲撃を受けることはない。補修しきれぬ戦の傷跡や、華美を廃し戦うために作られた町並みの生々しさは、これまでGが訪れたことのあるいずれの国とも違っていた。
「この場にいた不幸を呪うんだな!」
 出がけにかけられたNaja Salaheemの罵声を思い出した。幸か不幸か、今自分は戦地の只中にいる。

FF11(2)

2006-04-29 07:44:43 | FF11
 港に軒をつらねる青果店から、異国の果物の芳しい匂いが漂ってくる。ほのかに混じるのは、皇国伝統のコーヒーとかいう飲み物の香りだろうか。
 下船した人の流れに乗りながら、Gは異国の雰囲気を胸いっぱいに感じ取っていた。
 と、見慣れたものがひとつあった。
 にうにう、にうにう。
 ミスラ族の鳴き声。まだ年端もいかぬような子ミスラが、困り顔でうろうろしている。
 Gは思い出していた。かつて訪れたことのある多くの国で同じような光景を見たことを。ミスラ族には見知らぬ人間に物をねだる伝統があるのだろうか。
 聞けば、黒インクと羊皮紙が欲しいという。大急ぎだ。早くしないと大事なことを忘れてしまうそうだ。
 かばんを探ってみると、ちょうどよくそれらのアイテムはあった。子ミスラは飛び跳ねてはしゃいだあと、Gに皇国の秘密の抜け道を教えてくれた。
 そんなところまでそっくり他国の子ミスラと同じだ。Gは吹き出しそうになりながら、別れを告げて街中へ繰り出した。
 黒インクと羊皮紙だけでどうやって字を書くのか、とか。見たところペンは持っていないようだったが、指を使うのかそれとも尻尾かとか。無粋なことは考えないように努めた。

FF11(1)

2006-04-26 14:30:32 | FF11
 港で機船を待ちながら、Gは帽子の汚れをはらった。マウラ特有の赤茶けた砂がさらさらと落ちていく。
 ワーロックシャポー。赤魔導士の制帽で、つばが広く頭頂がへこんでいる。もともと長い年月を経てくたびれてはいるのだが、さきほどチョコボから落とされた(に等しい)衝撃で、とどめをさしてしまった格好だ。
 つばが折れている。
 胸中でため息をつきながら、チョコボにさんざ悪態をつきながら、Gは帽子をかぶり直した。
 形などどうでもいい。物のように容易には元に戻らぬものがある。

 アトルガン皇国へ向かう兵員輸送船の船倉は、様々な種族でごったがえしていた。
 ミスラ、ガルカ、エルヴァーンにヒューム。それらが使役する召喚獣、ペットに皇国産のからくり人形までが詰め込まれている。定員百名の機船にそれ以上の人数が乗れるのは、Gのようなタルタル族の小さい体が貢献しているという背景があるからだろうか。いずれにしても、ジュノ天晶堂が貴重な物品や金銭と引き換えに渡航免状を乱発したおかげで、船内はごった煮か闇鍋か、というような状況になっているのだが。
 Gは船内を見渡しながら、その中にかつての同胞の姿を探している自分に気付いてはっとした。
ほぼ同時期にこの世に生まれ落ちた三人のタルタル。ひとり去り、ひとり去り、やがて自分ひとりになった。
 あの時三人が向かったのはセルビナだった。見知らぬ土地へ。その先にある世界の中心ジュノへ。希望と冒険心に燃えていた。
 そして今、ひとり新世界への船に乗っている。最高到達レベルに達し、あらゆる土地を踏破し。その次にあるものは?胸の内にあるものは、何だ?