はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

狐火の家

2009-07-29 17:13:37 | 小説
狐火の家
貴志 祐介
角川書店

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「狐火の家」貴志祐介

「黒い家」、「青の炎」、「クリムゾンの迷宮」と傑作を連発し続ける貴志祐介の著書の中でもひときわ異彩を放つ「硝子のハンマー」の続編。女弁護士・青砥純子と防犯ショップの店長にして現役の泥棒・榎本径が挑む4つの密室。
「狐火の家」谷間の村の二階建て家屋。被害者は女子高生。
「黒い牙」なんの変哲もないアパートの一室。被害者は蜘蛛マニア。
「盤端の迷宮」内からチェーンのかかったホテルの一室。被害者は棋士。
「犬のみぞ知る」番犬に守られた家。被害者はアングラ劇団の座長。
 人気の高い青砥・榎本コンビの推理が再び見られるということで期待していたのだが、あまり接近がなくて残念。榎本の本職に気づきながらもその能力に頼らざる得ない青砥の葛藤が少ないと感じるのは、それだけ受け入れているということなのかもしれないけれど。
 ジレンマに陥る青砥をいじめたくなる榎本の黒い感情には同意。知性的で肩肘張ってる女性って、なぜだかかまいたくなるものです。
 肝心の密室成分は、短編のせいか前作ほどのサプライズはなかった。だがひとつひとつのネタに対する着眼点がユニークで、充分に面白い。とくに「黒い牙」、「犬のみぞ知る」にあるユーモアは、今までの貴志祐介にはなかったもので、ファントしては嬉しいかぎり。新鮮という意味だけでなく、これからの作品に期待が持てるという意味で。

ちぇんじ123(1)

2009-07-27 13:26:41 | マンガ
ちぇんじ123 1 (チャンピオンREDコミックス)
坂口 いく
秋田書店

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「ちぇんじ123(1)」原作:坂口いく 画:岩澤紫麗

 特撮ヒーローの好きなアキバ系高校生・小介川は、ある夏の日、1人の少女のピンチに遭遇する。月斗素子という名のそのメガネ女子は、か弱くて儚げで、守ってあげたくなるような女の子なのだが、実は内に3つの人格を飼う多重人格者で……。
 虎を素手で倒した伝説の格闘家に育てられた人格・ひびき。
 剣聖と呼ばれる達人で、傭兵の経験もある銃火器のエキスパートに育てられた人格・ふじこ。
 古式柔術の伝承者に育てられた人格・みきり。
 3人の女の子(合わせてひふみ)は素子がピンチの時に現れ、乱暴な方法でもめ事を解決して去っていく。
 ヘタレながらも素子の身の安全を常に大事に思い、時に体を張ってくれる小介川に3人ともが恋をし(素子はまだ)、1人の体で4度おいしいハーレム状態となるのだが、ひふみを狙う怪しげな男が現れ……。
 
 ありそうでなかった多重人格ハーレムもの(ぱっと思いつくのは「3×3EYES」くらいかな)。
 喧嘩大好きボーイッシュ、無口な傭兵、露出多めの天然ボケ。メリハリのきいた性格の変化と、筋肉の緊張と弛緩で顔つき体つきが微妙に変化するという理屈で、見た目も行動もかなり違って飽きがこない。1粒で何度もおいしい構造がとても合理的だ。
 なんだかんだでどの人格も女の子っぽくて優しい。もっと残酷だったり卑怯だったりしたほうが好みなのだが、それは高望みか。
 バトルシーンは大味な印象も残るがおおむね良い出来。各人格の見せ所をきっちり見せ、1巻としての役割を果たせている。ラストの引きも思わせぶりで、すぐに次巻を読みたくなった。

神のみぞ知るセカイ(5)

2009-07-24 19:41:08 | マンガ
神のみぞ知るセカイ 5 (少年サンデーコミックス)
若木 民喜
小学館

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「神のみぞ知るセカイ(5)」若木民喜

 ギャルゲーを愛するが故に、ギャルゲーマーたちから「落とし神」と呼ばれリスペクトされる男・桂木桂馬。駆け出し悪魔エルシィと共に倒した駆け魂の数はすでに5。とりつかれていた女の子の数は5。つまり本人の意思に反したリアルな女の子との接触が増えてきたということ。普通に考えれば喜ばしいことなのだろうが、桂馬にとっては面白くない。彼は現実に何も求めていない。彼の理想はギャルゲーの中にある。これ以上生身の女と接することなど……なんても思っても、嫌でも駆け魂は現れる……。
 本巻では2つ。プロレスを愛する熱血教育実習生・長瀬と、人形や月など美しいものを愛する九条の2人。2人とも、自分の中に強固な価値観を持っていて、それ故に揺らぎが少ない。それは同時に攻略の隙が無いということでもあり、桂馬も苦戦を強いられる。キャラ立ちがはっきりしているせいで攻めづらい、とうのは今までになかった展開で面白い。
 なにより良いのは、2人の価値観と桂馬の価値観がぶつかる瞬間だ。互いに譲れぬフェイバリットな視点を戦わせ、最後には認め合う、そんな友情のような一連の流れが燃える。

武士道セブンティーン

2009-07-22 20:02:23 | 小説
武士道セブンティーン
誉田 哲也
文藝春秋

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「武士道セブンティーン」誉田哲也

 現代の武士を目指す魂の娘・磯山香織。
 日舞出身のほっこり穏やかな娘・西荻早苗(いまは旧姓の甲本)。
 東松学園高校女子剣道部でばきばきにぶつかり合い、戦友とまで呼べる仲になった2人。早苗が福岡に転校するところから物語は再開する。
 戦力の激減した東松女子を支える磯山は、部全体のことを考えながら後輩を育成するなどという一人前なことができるようになった。周囲はすべて敵、寄らば斬る、ぐらいの心構えだった以前とは別人のよう。攻め攻め攻めのスタイルも、一歩引いて相手の動きを見ることができるようになってきて、さらにレベルアップしている。
 一方福岡の名門・福岡南剣道部に所属することとなった早苗は、剣道に対する価値観の違いに戸惑っていた。東松女子のそれに比べて技術や里合いや負けないことを意識しすぎる福岡南の当てっこ剣道には違和感がある。同級生で友達の黒岩が語る高度競技化の理念にも納得いかない。悶々とした中で、実は自分が対磯山用にメンバーに入れられたことを知り、不満を爆発させる。
 すれ違う2人の武士道の行く末は……。

 うん、やっぱ面白いこのシリーズ。
 年頃の娘たちが剣道にかける青春。ってだけにとどまらず、もう一歩踏み込んで「武士道とは」にまで話が及ぶあたりが清々しくて気持ちよい。女の子同士の友情も良いし、とくに磯山の一人称がコミカルでマル。おすすめ。

鋼殻のレギオス(1)

2009-07-19 12:23:19 | 小説
鋼殻のレギオス (富士見ファンタジア文庫)
雨木 シュウスケ,深遊
富士見書房

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「鋼殻のレギオス(1)」雨木シュウスケ

 大地の実りから見放され、人の住めぬよう汚染された大地を自立型移動都市<レギオス>が疾駆する……。
 どことなくフィリップ・リーブの「移動都市」を想起させるような設定だが、こっちはいかにも日本ラノベ風の仕上がり。穢れた大地でも生きていける巨大生物・汚染獣から都市の平和を守るために戦う戦士の卵の学生達のストーリーだ。
 武芸の本場グレンダンでも選ばれし数人の手練にしか与えられぬ<天剣授受者>の栄誉を、10代半ばにして受けた天才・レイフォン。とある事件のせいで糾弾され、栄誉を汚され、逃げるようにグレンダンを離れた彼は、剣を捨てて生きていこうと思った。学園都市ツェルニに一般生徒として入学し、新たな生き方を模索しようとする彼を、しかし周囲が放っておくわけもなく……。

 剄と呼ばれる気功のような特殊能力を操るバトルアクション……のはずなのだが、主人公がいかんせん鬱系でやる気が無いのでかなりダレる。合間合間に挿入される、故郷の幼馴染リーリンへあてた手紙も、正直かなりうざい。おまえ男か? ○○ついてんのか!? と胸倉掴みたくなる。
 一般科から武芸科に編入され、いきなり都市対抗戦のメンバーに選出されたりと、むりやりな処遇に愚痴のひとつも言いたくなる気持ちはわかるのだが、そのやる気のない主人公に感情移入している身としてはかなり辛い。同じ班の人間もリーダーのニーナを除いて自分勝手なのが集まっていて、終始ぎすぎすな状態が後半まで続く。後半になるとようやく主人公の本気が見えてきて、派手な立ち回りもあったりして盛り上がってくるのだが、次回予告ではやっぱりぐだぐだになるみたいだし、うーん……どうすかね……。

ぢごぷり(1)

2009-07-16 09:11:46 | マンガ
ぢごぷり 1 (アフタヌーンKC)
木尾 士目
講談社

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「ぢごぷり(1)」木尾士目

 沖浦あゆみと日野かなめ。双子の姉妹の子育て奮闘記。
 夢子(0)歳。まだ保育器を出たばかりのできたてほやほやで、美形の母・あゆみ(18)の子とは思えないおっさん顔の赤ちゃん。早々に夫・瞬介が他界した為(多分)、あゆみかなめの2人が協力して事にあたる……のだが、そうそううまくはいかない。授乳で、排泄で、夜泣きで、とにかくあらゆる局面で、マニュアル通りにはいかない事件に直面する。完璧主義の優等生タイプ・あゆみが万巻の育児書を読破しても(ちとおおげさか)対応できない出来事の数々は、徐々に彼女を疲弊させていく。それはノイローゼといっていいほどで、泊り込んで協力してくれるかなめや、ついには赤ちゃんそのものに憎悪を抱くほどにまで神経は昂っていく……。

「げんしけん」の人ってことで作者買いしたのだが、失敗。なんだこれ。
 あとがきで作者本人がいっているように、終着点が見えない。読者が見てもかわいいとは思えない赤ちゃんの大暴れに、ストレスが募るばかり。ほとんど場面は部屋で他人との交流もないし、最初から最後までずーっとローテンションで、本当に何を楽しんでいいのかわからない。
 育児を経験した人なら同感できる内容なのだろうが、いやでも、同感できるイコール楽しい面白いってわけじゃないだろ? エンタメってのはなんだ? そんなことをずーっと考えていた。

狼と香辛料(9)

2009-07-14 19:42:19 | 小説
狼と香辛料 9 (9) (電撃文庫 は 8-9)
支倉 凍砂
アスキー・メディアワークス

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「狼と香辛料(9)」支倉凍砂

 煎じて飲めば不老不死の力の宿るとされる伝説の海獣イッカクが陸揚げされたことで、ケルーベの街に動揺が走る。川の北と南で、土地の権利や徴税、金の貸し借りといった様々な面で対立していた両勢力の均衡が崩れたあとに浮上するのは、町商人や権力者たちの汚い欲望……。
 イッカクを我が物にしようと狙う女商人・エーブとロレンスの所属するローエン商業組合の若き雄・キーマン。両者の板ばさみで身の丈に合わぬ交渉を押し付けられたロレンスは、想像以上のプレッシャーから吐きそうになる。1人悠々と旅から旅への暮らしをしていた頃とは違う、望んでいなかった遠距離戦の、しかもただの駒とされている自分への嫌悪が募る。
 俺はなんだ? 俺のやりたかったことはなんだ?
 一歩間違えば破滅の待つ危険な状況で、必死にレゾンデートルを確保しようとするロレンスを導いてくれたのは、やはりホロの存在。そして商人としての志。
 上巻からの盛り上がりをずんずん広げ、最後まできっちり風呂敷に収めきった作者の手腕がお見事。
 狼の骨の行方を追う3人の次なる目的地はウィンフィール王国。物語はとうとう海を渡ります。

狼と香辛料〈8〉対立の町(上)

2009-07-12 13:38:10 | 小説
狼と香辛料〈8〉対立の町(上) (電撃文庫)
支倉 凍砂
アスキーメディアワークス

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「狼と香辛料(8)」支倉凍砂

 狼の化身の娘・ホロと旅の商人・ロレンスの行商ファンタジー第8弾は、初の上下巻での刊行。となると当然文章量も多くなる。多くなればよりお題の重みも増す。イコール面白くなる、と非常にうまいこといった感のある8巻は上巻にあたる。
 取引で煮え湯を飲まされた女商人・エーブを追ってたどり着いたケルーベの街は、川の北と南で、土地の権利や徴税、金の貸し借りといった様々な面で対立していた。優勢な南の街に対抗すべく虎視眈々と機会をうかがっていた北の街が手に入れた起死回生の一物を巡り、ロレンスは自身の所属するローエン商業組合とエーブの板挟みになる。一歩間違えば破滅の待つ危険な状況で、しかし見えた商機の大きさは半端ではない。背を流れ落ちる冷や汗と恐怖と戦いながら、必死に自身の立ち位置を探るロレンスの決断は……といいところで続きは次巻。
 コルも加えた3人の旅の道行きは深みが増して楽しいし、肝心要の商売関係も重さを増してのしかかってきて、またそれがいちいち楽しい。やはりこのシリーズこれがないとね。
 さ、続きを読まねば。

宇宙兄弟3~5

2009-07-09 19:56:35 | マンガ
宇宙兄弟 3 (モーニングKC)
小山 宙哉
講談社

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宇宙兄弟 4 (モーニングKC)
小山 宙哉
講談社

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宇宙兄弟 5 (モーニングKC)
小山 宙哉
講談社

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「宇宙兄弟3~5」小山宙哉

 JAXAの宇宙飛行士選抜3次審査の舞台は、いずことも知れぬ閉鎖空間の中。宇宙船を模して作られた実密室の中に4人の候補生たちと共にをぶち込まれ、「宇宙飛行士にふさわしい者2人を選び出せ」という難題を与えられた六太は、計算ランニング、白一色のパズル、ランダムなアルファベットの打ち込み練習、宇宙開発反対派のキャスターへの抗議文作成など、様々な課題に挑んでいく。
 紅一点の大食い娘・せりか、チビで口の悪い関西人・古谷、元有人宇宙ロケットのエンジニアにして最年長のおっさん・福田、ナルシストの剣道家・新田。個性豊かな面々と笑い合い、時にいがみ合いしていくうちに、芽生えたのは友情にも似た連帯感。この中から2人しか合格できない? ジレンマに悩まされながらも、しかし試験は進む。高まり続ける皆の宇宙への渇望の行方はいかに。

 いつもいつも、周囲をなごませる独特のテンポと偶然だけで何でも解決してしまうのはいささかご都合主義だとは思うが、それだけ宇宙飛行士になるというのは特別なことなのかもしれない。自分の力や努力だけでなく、幸運や他力までも味方につけなければなれないものなのかも。
 60億以上の地球の総人口の中の、たった一握りの選ばれし人間になるべく、六太の戦いの日々は続く。

70億の針(1)&(2)

2009-07-07 20:39:30 | マンガ
70億の針 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
多田乃 伸明
メディアファクトリー

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70億の針 2 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
多田乃伸明
メディアファクトリー

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「70億の針(1)&(2)」多田乃伸明

 あるトラウマから他人と関わることを疎い、常に1人でいるようになった女子高生・ヒカル。片時もヘッドフォンを耳から離さず、修学旅行の夜すら浜辺でMP3プレイヤーの音に集中していた彼女は、宙を飛び交う謎の光源の直撃を受け、一度死んだ……はずなのだが、ふと気がつくと学校で授業を受けていた。何事もない日常が平気でまかり通っていくのをどこか違和感を感じながら暮らしていた彼女の耳に、不思議な声が届く。
 声……テンガイはいう。君は一度死んだ。今は外宇宙から来たプラズマ生命体である自分と同化することで構成されている。君はひとりではない。君は全宇宙の生命を脅かすもの「災いの渦(メイルシュトローム)」を打ち倒さなければならない。地球上の人間の誰かと同化しているはずの災いの渦。それが今は近くにいて、これを取り逃がすということは……そう、世界中の70億もの人間の中から1人を探すようなもの。藁屑の中に落ちた針を拾うようなものなのだ。
 ということを一息にいったわけではないのだが、戸惑い拒絶するヒカルを説得し、災いの渦と遭遇するまでが1巻。2巻は、父の死から始まった人間嫌いのヒカルのルーツに触れる、ひさしぶりに出来た友人との帰省旅行の話。
 絵が良い。特別綺麗上手というわけではないけれど、陰影を生かした端正な背景とキャラの距離感が、奥行きを感じさせる。草木や虫の息遣いまでもが聞こえるような気がする。
 ストーリーはいささか使い古された感のある異星間バトルものなのだが、練りこまれた心理描写と絶妙の相関関係が、読者を飽きさせない。おすすめ。