マグダラで眠れ (電撃文庫) | |
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「マグダラで眠れ」支倉凍砂
人々が新たな技術を求め、富を求め、異教徒の領土へと侵攻する時代。錬金術師の青年クースラは、研究過程で教会の教理に背く行動をとった罪で、最前線の街・グルベッティの工房へと飛ばされる。昔なじみの問題児・ウェランドと共に訪れたそこは、前任者トーマスが何者かに「暗殺」され無人になったといういわくつきの工房だった。
情報や物資の供給が豊か、工房自体の設備も整っている。でもトーマスの絡みもあるし、教会側からは監視者としてフェネシスという名の少女も出張ってくるしで、なんともいわく言い難い落ち着かなさが漂う中、2人はトーマスの成果……偉業に触れることになる。それは……。
「狼と香辛料」のあの人です。前回は交易、今回は錬金ってところですか。さすがにマイナーな分野をついてきます。あ、ちなみに、鉛を金に変える、とかではなく、科学の元型である、現実的なほうの錬金術です。両手をパンと合わせても何も出てきません。
資料を読み込んでいるのでしょう。錬金知識が文章のはしばしに感じられ、安心して読むことができました。このへんの安定感も相変わらず。
騎士団と教会の対立。マグダラを求める(ここでは錬金術師の追い求める境地、抱えるカルマそのもの、といった意味)錬金術師たちの情熱。彼らを渦巻く陰謀。トーマスの秘密。構成も重厚で読みごたえがあります。
とくに、人に騙され利用されやすい哀れな少女フェネシスの存在感が抜群で、物語に重い緊迫感を与えています。人としての倫理など持ち合わせていないウェランドの、性行為まで辞さない暴力。ウェランドから彼女を守りながら、同時に騙し利用する方法を模索するクースラ。2人のキャラの立て方も素晴らしいの一言。
駆け引きや人情の機微が「大人ー」な感じで、だからというか、ライトノベルのファン層的にどうなのかという気もするのですが、僕の感性にはびびっときました。今後に注目のシリーズです。