はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

マグダラで眠れ

2012-09-23 11:13:54 | 小説
マグダラで眠れ (電撃文庫)
クリエーター情報なし
アスキーメディアワークス


「マグダラで眠れ」支倉凍砂

 人々が新たな技術を求め、富を求め、異教徒の領土へと侵攻する時代。錬金術師の青年クースラは、研究過程で教会の教理に背く行動をとった罪で、最前線の街・グルベッティの工房へと飛ばされる。昔なじみの問題児・ウェランドと共に訪れたそこは、前任者トーマスが何者かに「暗殺」され無人になったといういわくつきの工房だった。
 情報や物資の供給が豊か、工房自体の設備も整っている。でもトーマスの絡みもあるし、教会側からは監視者としてフェネシスという名の少女も出張ってくるしで、なんともいわく言い難い落ち着かなさが漂う中、2人はトーマスの成果……偉業に触れることになる。それは……。

「狼と香辛料」のあの人です。前回は交易、今回は錬金ってところですか。さすがにマイナーな分野をついてきます。あ、ちなみに、鉛を金に変える、とかではなく、科学の元型である、現実的なほうの錬金術です。両手をパンと合わせても何も出てきません。
 資料を読み込んでいるのでしょう。錬金知識が文章のはしばしに感じられ、安心して読むことができました。このへんの安定感も相変わらず。
 騎士団と教会の対立。マグダラを求める(ここでは錬金術師の追い求める境地、抱えるカルマそのもの、といった意味)錬金術師たちの情熱。彼らを渦巻く陰謀。トーマスの秘密。構成も重厚で読みごたえがあります。
 とくに、人に騙され利用されやすい哀れな少女フェネシスの存在感が抜群で、物語に重い緊迫感を与えています。人としての倫理など持ち合わせていないウェランドの、性行為まで辞さない暴力。ウェランドから彼女を守りながら、同時に騙し利用する方法を模索するクースラ。2人のキャラの立て方も素晴らしいの一言。
 駆け引きや人情の機微が「大人ー」な感じで、だからというか、ライトノベルのファン層的にどうなのかという気もするのですが、僕の感性にはびびっときました。今後に注目のシリーズです。

ブラパ THE BLACK PARADE(1)

2012-09-08 22:29:52 | マンガ
ブラパ THE BLACK PARADE(1) (ヤングガンガンコミックス)
クリエーター情報なし
スクウェア・エニックス


「ブラパ THE BLACK PARADE(1)」緑のルーペ

 河野留美(男)は、変わり映えしない日々にいら立っていた。自分が何をしようが、何をしまいが、現実は変わらない。変えられないことも、変えられない自分も気に食わなくて、日々腐っていた。そんな留美の唯一の楽しみは、どこか遠くへいくことだった。といって、そんな遠くへ行くわけじゃない。自分の生活範囲からそれほど逸脱することなく、ほんのちょっとした小旅行を楽しむ。あの山を越えたら、あの川の上流には……そんな些細な逃避行の先に、その場所はあった。とあるトンネルをくぐると、そこには打ち捨てられた廃工場があった。高い煙突と、用途の想像もできない様々の設備、路面電車と思われるものまで。
 フジノという名の少女との出会いは、唐突に起こった。いきなり向こうからつっかけてきて、間接を極められ、鼻血を出させられ、一方的な決闘を申し込まれた。
 怒る気にはなれなかった。エキセントリックで、暴力的で、どこまでも理不尽で、でも彼女は美しかった。わくわくした。自分にはない何かを持っていた。だから、留美は彼女と共にあることにした。
 フジノは、廃工場の各所に様々な名前をつけた。路面電車にはブラックパレード、工房跡にはククルカン……まるで昔のRPGの冒険を地で行くように、各地を旅した。食料を携え、火を起こして煮炊きをし、路面電車に寝泊まりし、不良軍団をも撃退する。
 そんな無敵な彼女にも、弱点はあった。なんといっても彼女は女の子で、暗闇や人間関係を恐れた。留美はそんな様々な彼女の表情にいつの間にか惹かれていた……。

 僕も、小学生の頃には近くの駅舎の片隅に新聞広告や割り箸なんかで構築した貧弱な秘密基地を作って遊んでいた口なので、2人の行動指針には大いにうなずけました。高校生にして「まだ」そんなことやってんのか、という冷静な意見はあるかもしれないけど、だからこそ2人が羨ましく感じました。それぐらいの年齢で、しかも男女の垣根を越えて大真面目な妄想を共にしてくれる友達なんていないです。絶対に。男じゃだめなんです。女の子だからこそいいんです。
 とまあ鼻息荒く語ってしまいましたが、いま僕が語ったようなフレーズがちょっとでもひっかかった人は迷わず買うべき。
 ちなみにこの作者さんはエロマンガ畑の人なんですが、そんなことをまったく感じさせないようなストーリーテリングのうまさでした。次巻にも期待です。