はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

ルパン三世~霧のエリューシブ~

2007-07-29 16:05:07 | 映画
「ルパン三世~霧のエリューシブ~」

 今年もやってきました、ルパン三世テレビスペシャル。恒例のこの行事も、ルパン生誕から40周年の節目ということで製作サイドのスタッフの気合いも違う。有名俳優や女優を声優に起用したり、大昔の適役・魔毛狂介をいまさら再登場させたり……あれ?
 2007年夏。北海道は霧多布。ルパンと次元は海に沈んだシャイン家のお宝探しをしていた。船上ではトップレスの不二子、車中では腕組みしてじっと待つ五ェ衛門と、いつもの面子が集っていた。ということはもちろんあの方も来るわけで……。
「逮捕だ~!」の呼び声を振り切り振り切り逃走をはかるルパンたち。不二子とは離れ離れになったものの、五ェ衛門と合流し、車でチェイスを続ける。そんなルパンの周辺で、不可思議な現象が起こり出す。追い越した車の運転手が手品のように消えていくのだ。
 大事故の連鎖を命からがらくぐり抜け、たどり着いたは霧に包まれた灯台。何者かに故意に誘導されたような居心地の悪さを感じる一同の目の前に、光に包まれた怪しげな男が現れた。男の名は魔毛狂介。2800年代の未来から、ルパンの子孫ルパン三十三世への個人的復讐を果たすためタイムマシン乗ってやってきたのだという。魔毛狂介の体を包む閃光が輝度を増すと、一同は遥かな過去に放り飛ばされた。500年前の霧多布。アイヌ同士の小競り合いの真っ只中へと……。
 タイムマシンなんてそのものズバリのギミックを使ってくるとは思わなかったので正直面食らった。しかしルパン一味の小気味の良いやり取りは相変わらずだし、魔毛狂介の薄汚さや(タイムマシンで飛行しながらハンドロケットを撃ったりする)、不二子の先祖お不三の初々しさ(不二子ほどスレてない)、五ェ衛門とシャイン家の女王イセカとの仄かなロマンス(終わりはあっさり)など、見所も随所にあり見ていて飽きない。
 メインのネタは冒頭からもろバレだし、お不三役の関根麻里の棒読みぶりにはダメージを受けたものの、タイムスリップものということでそこそこには見れる(ベタだけど)。テレビスペシャル故の尺の短さに泣かされた、踏み込みが足りない部分を補完できればなあと思いつつ夏の夜は過ぎていった。

つぶらら②

2007-07-28 04:18:34 | マンガ
「つぶらら②」山名沢湖

 予想だにしなかった。まさか鈴置つぶらがアイドルになろうとは……。
 長身でスリムで寡黙。クールビューティーな見た目に反してアイドルグループ・キャラメル☆エンジェルの熱烈なファンのつぶら。密かな趣味嗜好を隠すためにとる行動がどんどこいいほうに転がり、いい人、かっこいい人といわれ続けた第一巻。その活躍が新聞に載り、芸能プロダクションの目に止まり、相方・辻村つららと共に地域限定アイドルユニット「つぶらら」を組むことになる第二巻。
 夕方のニュース番組にコーナーを持ってみたり、振り付きの歌を歌ってみたりと、地域限定でも活動は立派なアイドルのもの。高校生活もあるし、仮にも商売敵であるキャラメル☆エンジェルファンと並行にこなすのは難しい。
 そんなつぶらの苦しみが、相方・つららには理解できない。子供の頃からブラウン管の外ではなく中にいることを夢見てきた彼女にとって、真面目にアイドル目指せない奴はクズだ。つぶらの日常や活動についてもバシバシ口を出すが、キャラメル☆エンジェル命なつぶらはあくまでマイペース。
 器用不器用や温度差で笑いを生み出す山名沢湖独特の笑いは健在。地域限定アイドルなんてネタも新鮮味があって面白いし、今後が楽しみな一冊だ。

空手婆娑羅伝・銀二

2007-07-25 22:10:17 | マンガ
「空手婆娑羅伝・銀二」野部優美

 剣の道と書いて剣道。柔の道と書いて柔道。術ではなく道。激しい鍛錬と並行して行われる精神修養をも旨とするのが武道だ。空手道もまた然り。
 つまりただの殺し合いやケンカの道具ではない。ではないが、巷には殺し合いやケンカの道具としての空手をのみ描いた漫画がはびこっている。ために、寸止め空手が弱いとか、なんでもありじゃ使えないとか、間違った認識が浸透していて非常に嘆かわしい。
「空手婆娑羅伝・銀二」は、硬派な空手を描いた稀な漫画だ。日ごとケンカに明け暮れる最強中学生・長尾銀二が、空手道との出会いによって真の男の生き方に目覚めるという筋立て。今時珍しい渋さだ。
 中でも印象的なシーンがある。
 
 友人の仇をとるため実戦過激空手集団・正如会に乗り込んだ銀二。道場破りとして会の実力者二人が立て続けに襲い掛かるが、銀二は持ち前の馬力とセンスのよさで一蹴。師範の甥・古川強の武力の前に一度はこてんぱんにのされるが、グローブのヒモで首を絞めるという奇襲によって無理矢理失神に追い込んだ。
 どんな手段を使ったって最後に立っていればいい。ストリートのケンカに慣れた銀二は素直に勝った気でいたのだが、後日試合うことになった強の叔父・研二に、指一本で相手してやるといわれたのに目潰し金的とさんざんな奇襲をうける。
「きたねえじゃねーかッ!」
 わめく銀二に、研二はしれっとした顔でこう答える。
「けどこれが、お前がいう強さなんだろ? だまして金玉蹴ろーが、グローブのストッパーで首絞めようが、人数集めてボコろーが、チャカ持ってハジこーが、ミサイル作ってブチ込もーが。それがお前等のいう、強さなんだろ?」
 銀二は答えられなかった。答える代わりに、がむしゃらに向かっていった。悔しかった。相手の言い分に納得している自分が恥ずかしかった。何度も倒され、ぶちのめされた。真の男ではなかった自分が粉々に砕けるまで、挑み続けた。 

 思わずうなった。ケンカ小僧に対する何より雄弁な答えに感心した。地に足の着いた論法の説得力に惚れ惚れさせられた。自分の小ささに気づいた「最強中学生」の今後が楽しみでならない。

アルキメデスは手を汚さない

2007-07-24 22:48:34 | 小説
 柴本美雪は死んだ。自殺でも他殺でもない。若い体が中絶施術に絶えられなかった。最後に「アルキメデス」という言葉を残して、彼女は死んだ。
 美雪の父・柴本健次郎は、火葬が始まると堪えてきた思いを吐き出すように宣言した。
「美雪、仇は必ずとってやる」
 怨念のこもった言葉だった。隣にいた妻にしか聞き取れぬつぶやきが、それから始まる長い闘いの幕開けの合図だった。

「アルキメデスは手を汚さない」小峰元

 70年代。あさま山荘事件や田中角栄内閣誕生。高度経済成長のひずみが生み出した学園闘争など、日本が熱く弾けていた時代。
 とある地方のとある高校に通っていた女子生徒の死は、思ってもみない事件を連鎖させた。弁当に毒薬を混入させられた男子生徒が倒れ、その周辺で行方不明事件が発生した。
 美雪の父親を探す健次郎。毒薬混入事件の捜査をすすめる警察官・野村。柳生、内藤、延命ら生徒たちはその世代特有の潔癖さで大人たちを拒絶する。裏でこそこそ、ではなく正面きって堂々とやり合う。
 そんな青臭い戦いと、場違いなダイイング・メッセージ「アルキメデス」の意外な接点とは……。
 江戸川乱歩賞受賞の青春ミステリ。帯に東野圭吾の推薦文があったので手にとった。大人と子供の断絶、というテーマは使い古されてはいるが、これほど徹底的に扱ったものはないかもしれない。
 密室仕掛けや謎解きはたいしたことないが、題名のセンスと70年代という舞台設定がマッチしている。雰囲気のよさも、この手の青春ミステリでは重要なポイントだろう。
 刊行から30年以上が経過し、筆者はすでに他界している。今もし、彼がこの世の中を見たらどう思うのだろうか。大人と子供の断絶はより度を深め、犯罪も多様悪質化している。かつての自分の作品を超えたセンセーショナルな事件が頻発している。この世の中を見て欲しかった。そしてどう思うか聞きたかった。いってもせん無きことではあるけれど、そう夢想せずにはいられなかった。それほどに、この小説の底流にあるものは冷たく、でも美しく澄んでいる。

ホテル・ルワンダ

2007-07-23 03:40:21 | 映画
 自分を見つめる皆の真剣な眼差しを意識しながら、ポールは告げた。
「外国の有力者に連絡してくれ。私たちの危機を知らせて。お別れを……。だがその時、電話を通して相手の手を握りなさい。手を離されたら死ぬと伝えるんだ。彼らが恥じて救援を送るように」

「ホテル・ルワンダ」監督:テリー・ジョージ
 
 1994年アフリカ中部ルワンダ。少数派ツチ族の反乱軍RPF(ルワンダ愛国戦線)と政府の間に和平協定が結ばれた。ようやく訪れた平和に酔いしれる人々。しかし続く凶報が、未曾有の悪夢の到来を告げた。大統領が暗殺され、フツ族過激派フツ・パワーと民兵が銃と鉈を手にとり、ルワンダ全土を血で染め上げる大虐殺を始めたのだ。
 当初ツチ族だけに絞られていた標的も、ツチ族を家族に持つフツ族、ツチ族を匿ったフツ族と基準が曖昧になり、やがては目につくもの皆殺しの惨劇が展開される。
 外資系ミル・コリンホテルは比較的平和なポジションにあった。海外マスコミや平和維持軍が長逗留しているし、国軍ビジムング将軍が懇意にしているホテルでもあったからだ。
 1キロ圏内で虐殺が横行する戦況になり、ホテルに避難してくる人は絶えない。自分の家族の安全にのみ執着していた支配人ポール・ルセサバギナ(ドン・チードル)だが、ホテルマンとしての職業倫理、隣人への博愛精神という内なる心に突き動かされ、己の能力のすべてをかけて皆を守ることを決意する。
 賄賂、哀願、恫喝。武力に頼れない者にできるあらゆる交渉術で、ポールはホテルへの脅威を退け続ける。だが彼は知っていた。どれもこれもその場し凌ぎの時間稼ぎにすぎない。本質的な解決方法は、やはり外の力に頼らざるをえないのだと。
 国連平和維持軍の増援部隊がホテルに到着したとき、ポールは努力が報われたことを神に感謝した。しかし救われたのは外国人だけだった。現地の避難民はそのままに、増援部隊はホテルを去った。オリバー大佐は帽子を地面に叩きつけて激怒し、ベネディクト記者は「恥ずかしい」と己を恥じながら脱出バスに乗りこんだ。
 武力では守れない。四ツ星ホテルとしての品格もすでに剥げた。いよいよもって切羽詰るミル・コリン。だがポールは最後まで諦めない。自分の肩には愛する家族と、1268人の隣人の命がかかっている。そのためにできることはなんだろう。自分にできる最善の手は……。模索し希求し続ける彼の脳裏に、一筋の光が差した。かすかな明かりであったけれど、彼はそれにすべてを賭けた……。

 じわりときた。泣くかと思ったけど泣かなかった。「ユナイテッド93」を観たときの衝撃に似ている。実話の重みに打ちのめされた。
 そう、これ実話なのだ。ポール・ルセサバギナも実在の人物。半年にも満たない期間で100万人が虐殺されたルワンダ紛争も、外国がそれに対して無力だったことも。
 この監督のすごいのは、誰も責めていないこと。代弁者であるところのポールが誰も責めていないこと。平和維持軍やマスコミの無力。国軍の身勝手さ。フツ・パワーや民兵の暴力こそ恐ろしく不気味なものに描かれているが、それだって長い年月をかけて集中し熟成された敵意、という責めようのないものとしてしかとらえていない。
 だからよかったのだ。被害者加害者どちらの側にも偏ることなく、ただ愛すべき隣人を護るホテルマンとしてのポールの姿が目に焼きつくのだ。

金田一少年の事件簿~雪霊伝説殺人事件~

2007-07-20 22:19:32 | マンガ
「金田一少年の事件簿~雪霊伝説殺人事件~」原作:天樹征丸 漫画:さとうふみや
 
 推理漫画のさきがけ。「金田一少年の事件簿」シリーズ最新巻は上下巻同時発売。今回のテーマはもはや古典といってもいい「閉ざされた雪の山荘」。
 シリーズの第一部が終了した時に、チャリンコで全国を放浪していたという設定になっているはじめ。そのはじめがかつて命を助けたことのある資産家・氷垣岳史が死に至る中、ひとつの遺言が残された。それは氷垣の遺産の一部(といっても8億)を彼が山に関して世話になった人たちに提供しようというものだった。
 もちろん条件はある。北アルプスの氷壁岳5合目に建つ山小屋・雪稜山荘に相続資格者8人を集め、3日間共に過ごすこと。ただしひとりでも欠ければ欠けた分の遺産は残りの人数分に再分配される、ときてはきな臭い香りがぷんぷん。幼なじみの七瀬美雪が心配する中、はじめは天にも昇る気持ちで山へと向かった。
「雪よ山よ我らが宿り~♪」なんて盛り上がるはじめたち。目付け役として美雪が呼んだ警視庁捜査一課の剣持警部とともにたどり着いた雪稜山荘には、一癖も二癖もありそうな連中が集っていた。
 陰気な管理人。仮面をかぶった弁護士。仲の悪い双子。元(?)カップル。雪稜伝説を語る中年登山家。陽気な女子大生。地元の高校生。ささやかな晩餐を共にした相続人たちはそれなりに打ち解け、3日後の相続日を楽しみに一夜を過ご……せるわけもない。相続人のうちひとりがいなくなったと思ったら、なんと密室状況の部屋の中で氷漬けになっているところを発見された。しかもその胸にはピッケルが突き立っていて……。
 古典的なテーマをもとに天樹征丸が味付けしたストーリーラインは、とくに目新しいところもないが、この手の作品は「シチュエーションだけで読める」ものだし、どっしりと落ち着いた安定感は悪くない。豪雪の中のウエットなエンディングも後味のよい余韻を残す。
 はじめと美雪の仲は相変わらず進展しないが、キャラそのものの動きがちょこまかとしていて楽しい。そのへんはさとうふみやの成長だろうか。シリアスパートとのメリハリがきいている。
 佐木1号やはじめのママ。下巻のおまけでは速水玲香やいつき陽介も元気に登場するし、シリーズ通してのファンも納得のボリュームで、これは素直に「買い」だろう。

土曜ワイド殺人事件

2007-07-19 15:28:55 | マンガ
「土曜ワイド殺人事件」ゆうきまさみ×とり・みき

 田淵A子17歳。アフリカ生まれのアフリカ育ち。目の良さ以外は美人であることくらいしか取り柄が無い。1000万部販売を誇る人気漫画家尾日間奈良木テヨネのアシスタントとして日夜身を粉にして働いているものの、お茶汲みと飯炊きなどの雑用が主な仕事で、原稿のゴムかけすらやらせてもらえない丁稚奉公の日々が続いていた。
 そんなA子が忌まわしい惨劇に巻き込まれたのはある夏の日。編集部の接待で先生・アシスタント全員で向かった温泉宿でのこと。東京から訪れた女子大生が何者かに浴場で殺された事件を皮切りに、語るもおぞましい連続殺人の幕が開いたのだった……。
「究極超人あ~る」、「機動警察パトレイバー」、「じゃじゃ馬グルーミンUP」など独特な切り口の作品を輩出し続ける人気作家、ゆうきまさみがとり・みきとタッグを組んだ本作は、土曜ワイド劇場や火曜サスペンスなどのいわゆる二時間ドラマを徹底的にパロッたギャグ漫画だ。 特有のお約束の数々、美女達のサービスカット、濃いキャラたちの繰り出すボケ合戦……。
 書きあがったのは「機動警察パトレイバー」の終了直後だというが、それまで気を張っていた反動がきたのか、ものすごくゆる~い脱力系の作品に仕上がっている。ファン必見……というにはちょっとはばかられるほどの毒。先入観を捨て、ある種の覚悟を持って読んでいただきたい。

マッハ!

2007-07-17 22:27:40 | 映画
「マッハ!」監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ

 タイの英雄トニー・ジャーの出世作。全世界にムエタイ旋風を巻き起こした衝撃のアクションムービー……という割にはさほど金はかかってない。ノースタントのアクションや流れるような殺陣など、スタッフと役者の熟練度の高さによってのみ生み出し得る驚愕の映像が、この作品を作り上げた。
 タイの奥地、ノンプラドゥの村から、村の守り神であるオンバク像の首が盗まれた。犯人ドンを追いオンバク像の首を取り返すため、一人の若者が選ばれた。
 ティン(トニー・ジャー)。ムエタイの秘儀を体得した彼は、ケンカは滅多やたらに強いが、純粋素朴な一本槍で世事に疎い。ドンの足跡を追いバンコクへ辿り着いたはいいが、もちろん道にも不案内。村の出身者で現地に住まうハム・レイを訪ね協力を求めるが、このハム・レイが曲者。ギャンブル狂いの借金大王で、ティンの路銀をくすね、地下闘技場の賭け試合に向かってしまった。
 武器反則急所攻撃なんでもありの野蛮な賭け試合が夜毎行われている地下闘技場。無益な戦いを拒否しながらも巧みに状況に取り込まれ、試合を余儀なくされるティン。すると発揮されるのは鋭く研ぎ澄まされたムエタイの技。彼は一夜にして地下闘技場のチャンピオンとなる。
 すると石像泥棒の親玉コム・タンが、ティンに目をつけた。見知らぬムエタイ戦士をネタにギャンブル仲間とどんどん賭けを行い、そしてどんどん負ける。休憩も与えず子飼いの選手を三連戦で挑ませるもことごとく退けられ、挙げく石像の隠し場所を警察に通報され怒り心頭に達した彼は、かつてのムエタイ王者サミンに薬を打ち、ハイパーストロングムエタイマシーンとしてティンに対抗させる……。
「トム・ヤム・クン!」に比べて肘と膝を多用しすぎるきらいがあるものの、トニー・ジャーのマンガの様な身体能力は相変わらず。肩を踏み台にして人の群れの上を駆け抜けたり、横回転しての蹴りを二連発して一発一倒したりとやりたい放題。
 もちろん弱点はある。ストーリーなどあって無きが如しのくだらなさだし、トニー・ジャーの大根役者ぶりも同様。しかしそれでも心をとらえて離さないのは、一重に動的部分の突き抜けぶり。常軌を逸した異次元アクションは、デビュー作にしてすでに伝説の領域に達している。

ティアーズ・オブ・ザ・サン

2007-07-15 20:15:29 | 映画
「ティアーズ・オブ・ザ・サン」監督:アントワーン・フークア

 1億2千万。日本と大差ない人口の中に250もの部族がひしめき合う国、ナイジェリア。宗教や石油など様々な利害がぶつかり混沌としながらも、民主主義の名の下になんとかまとまっていた国に、軍事クーデターが発生した。瞬く間に国の中枢を掌握した主謀者ヤクブ将軍の指揮下、民族浄化の嵐が吹き荒れる。虐殺と暴行で無数の罪無き命が奪われていく中、 一機のヘリが辺境の村の上空を通過した。ウォーターズ大尉(ブルース・ウィリス)率いる8名の海軍特殊部隊を落下傘で降下させて。
 アメリカ人医師リーナ・ケンドリックス(モニカ・ベルッチ)を救出せよとの命令を受けたウォーターズは、「自分ひとりでは行けない、全員一緒だ」とごねるリーナをなだめすかして自力で歩ける者だけを連れてヘリの着地地点まで向かった。いざ目的地についたらリーナだけを乗せてさっと飛び去ってしまう予定が、帰り際に目に入ったのは焦土と化したリーナの村。虐殺された怪我人達……。
 今まで何度となく目にしてきた光景なのに、その日その時その村だけは、ウォーターズには違って見えた。眠っていた義侠心を胸の奥から引っ張り出した彼は、ヘリを引き帰させると、老幼者をヘリに乗せて送った。あとに残ったウォーターズは、部下とリーナ、そして多くの村人を従え、カメルーン国境までの危険極まりない道程を踏破することを決意したのだった。
 人物造形が甘い。話の抑揚に欠ける。軍事協力は完璧なのに、行動が不用意すぎる。ゾンビ映画か何かかと見まがうほどにツッコミどころ満載のこの映画、米軍礼賛の気が強すぎて萎える。「ダイハード」シリーズの4作目になる予定だったという話を聞くが、しなくて正解。ジョン・マクレーンをこんな映画のために無駄使いする必要はない。

勝負の極意

2007-07-13 20:24:28 | 小説
「勝負の極意」浅田次郎

 本作は、「蒼穹の昴」、「鉄道員」などウェットな作品で数々の文学賞を受賞する反面、「プリズンホテル」など抱腹絶倒の極道小説を世に送り出してきた奇怪な作家、浅田次郎の、その相反するイメージの正体に迫るエッセイ本だ。著者が日本各地で講演した演題がそのまま文字に起こされており、ために読みやすい。目を閉じて聞いているだけでも中身がすっと頭に染みこむ様である。もちろん平易なだけではない。持ち前のユーモア溢れる文章やエピソードは、電車内などで読むにははばかられるおかしさを秘めている。
 本書は二部構成になっている。第一部は「私はこうして作家になった」。二足のわらじを履きながら作家デビューし、一人前の作家になるまでを描いている。
 第二部は「私は競馬で飯を食ってきた」。プロ馬券師としての嘘のような本当の生活と、競馬の勝ち方を描いている。
 読んで一番意外だったのは、この人にして、作家デビューするまで20年もかかっていること。これほど才能豊かな人でも苦労するのだなあ、と改めてその道の険しさを思った。
 物心ついた頃から作家になることを誓い、信じて疑わなかった少年が、努力を怠らずに日々精進し続けた20年。その間様々な職を転々とした。どろどろにドロップアウトした学生時代。三島由紀夫の死の真相を知るために飛び込んだ自衛官時代。借金の取立てに追われたヤクザの使い走り時代。天性の商才と博才を生かしたプロ馬券師時代。人生の裏街道をじぐざぐに歩みながらも見失わなかった小説家の星。ネオンと光化学スモッグで汚れた空にきらりと輝く一番星。この本が面白いのは、筆者の持つある種の徹底と純粋さ故なのだ。回り道が育んだ味の深さ故なのだ。